December.24,2007 発展途上、円丈の『らくだ』はもっともっと傑作になる

12月23日 円丈の『らくだ』をやる会 (国立演芸場)

        まずは出演者一同の顔見世。円丈を真ん中に、喬太郎、昇太、小ゑん、彦いち、白鳥の面々。中でも小ゑんの円丈紹介が面白い。「円丈師匠は昔は古典の人だったんですよ。この人の古典につぎ込んだギャグをいまだに他の人が真似している。『ん廻し』で、ワンタンメンてナンダンデンって演った最初は円丈師匠。なにしろ円生師匠の膝小僧ですから。いや、秘蔵っ子ですから」

        トップは林家彦いち『反対車』。この噺、高座で暴れることになるから袴で上がる人が多いが、彦いちは着物のまま。直前までネタが決まらなかったらしい。高座を下りるときは、さすがに着物の着付けが大分乱れていた。しょうがないさ、あれだけの熱演だもの。

        「趣味といえば落語だったんですがね、噺家になってしまうと落語が仕事になってしまって趣味がなくなってしまう。円丈師匠が『らくだ』を演るというので、できることなら客席で観たかったんですが、チケットが取れなかったんで、こちらにいるんですが」と柳家喬太郎はガチャガチャのウルトラマン・フィギュア蒐集の話から、そのガチャガチャを買うための十円玉、昔は回りにギザギザが付いていたというギザ十、そしてそのギザ十にはよく緑青が吹いていたという前ぶりを振って『擬宝珠』へ。これがないとオチがわからないのだ。橋の欄干などにある擬宝珠を舐めるのが好きという若旦那という無理矢理の設定のこの噺、いまは喬太郎くらいしか演る人はいないだろうが、妙に喬太郎ワールドぴったりの噺なのだ。昔の人が喬太郎のために作ったとしか思えないところがおかしくて不思議。

        「秋葉原って昔は電気の街でしたよ。最近はオタクの街、コスプレ、メイド喫茶の街になっちゃいましてね。駅前で平気でメイド・ファッションの女の子がビラ配ったりしている。先日、その隣に看護婦姿の女性がいて病院喫茶でも出来たのかと思ったら、献血の案内」 柳家小ゑん『鉄の男』。鉄道マニアの男が結婚相手からグチをこぼされる。新婚旅行はヨーロッパ鉄道の旅でちっとも面白くなかったとか、「玄関に踏み切りがあるのはなんでよ!」 「怪しい宗教の勧誘を阻止できるだろ」 「うちが怪しいと思われるわよ。それになによ、子供の名前をデコイチって」 「ヒコイチって噺家もいるだろ」

        ウルトラマン・フィギュア、鉄道と趣味の話から春風亭昇太は中世城郭マニアだということを熱く語って、ネタは『お見立て』。前半を要領よく短縮して杢兵衛大尽に番頭が言い訳に行くところから入る。杢兵衛に会いたくない花魁が「あたしが可愛くて向こうが顔が立つ死に方を考えて」という注文に、番頭が肺病、卒中、狂い死にといろいろアイデアを出すのに花魁が妄想たくましくする様子が可笑しい。杢兵衛が花魁との惚気話で箸で目を突いてきたというのは、惚気でもなんでもないよなあ(笑)。

        仲入り後は三遊亭白鳥。おや久しぶりに聴く『ナースコール』。患者を手術したいという妄想を抱く太った看護婦みどりちゃんの噺。「あたしはナイチンゲール賞を貰ったのよ。ほらバッチだってあるんだから」 「それはメンソレータムの蓋じゃないの」 「ええーっ! なんでこんなものくれたのかしら」 「蓋でしょ。中身はどうなるの? 空いた口がふさがらないって意味よ!」 うへー!

        さて、いよいよ三遊亭円丈『らくだ』だ。さすがに還暦を過ぎてから『らくだ』に挑戦しようとした試みは、やや言葉を噛んでしまったり、いい間違いが目立ったりで、荒はある。しかし、円丈は『らくだ』に新しい試みを挑んでいる。それは評価できるのではないか。らくだの兄貴に言われて訪ねていった月番の男は無表情な男で、らくだが死んだと言われてもうれしいとも悲しいとも感情を表さなかったり、怒っているのに怒っているように見えなかったりする。酒を飲んで酔っ払った屑屋の独白もオリジナルの自己分析だし、らくだの兄貴が実は酒に弱く泣き上戸でグズグズとだらしなくなっていってしまう様も新機軸だ。きちんと願人坊主のところまでサゲて高座を下りた。これは、まだまだ円丈版『らくだ』の試作品なのではないかという印象が残った。これはもっともっと面白くなる噺だと信じて疑わない面白さだった。


December.24,2007 笑点大喜利かよ(笑)

12月22日 シベリア少女鉄道
        『俺たちに他意はない』 (赤坂RED THEATER)

        前回の『永遠かもしれない』に度肝を抜かれて、今回の公演である。前回があまりに凄かったので、今回はあまり期待せずに出かけた。

        地下の喫茶店。留守の店主に代わってひとりで切り盛りする女性ひとり。それに客は6人。みんな誰かとの待ち合わせらしい。店に入るにはエレベーターがひとつだけ。非常階段はあるがそれは鍵が閉められていて使えない。やがてエレベーターが開きホームレスが出てくると思いきや、このホームレスがその場で倒れて、死んでしまう。手には誘拐犯からの脅迫状。どうやらこの店の客の誰かに宛てたメッセージらしい。ここで落雷があり、店の電気は消えてしまう。当然エレベーターは使えず地上に出られなくなる。いったい誰に宛てたメッセージなのか、停電の中で隔離された客たちは、この犯罪を阻止するために知恵を絞り始める。

        この劇団の常で、前半のネタふり部分はあまり意味がないことがわかっているので、ボンヤリと見ていたが、来ました、来ました、最後のくだらないといえばくだらない結末が。今回のは何というのだろうか。『笑点』の大喜利ネタとでもいうのだろうか。舞台後方に現れるテーマに沿って台詞を言うという趣向。それをスケッチブックに書いた台詞そのままに言う。たとえば「KIOSKは何の略か」とか「浮気の現場を目撃しての一言」とか、それが芝居の進行とクロスしているようなしていないような(笑)

        チラシを見直してケラケラ笑って、そういうことだったのかあと思う反面、もう少し緻密に作ってくれたらもっと面白いものになったのにという気持ちになったりして。


December.23,2007 太神楽クリスマス・バージョン

12月22日 第343回花形演芸会 (国立演芸場)

        開口一番前座さんは、柳家小ぞう『金明竹』。頑張ってね。

        三遊亭王楽は桂三枝の『読書の時間』。前に釈台を置いて。上方落語だから膝隠し代わりに釈台を置いたのかしら。あまり動きのない噺だし、いらないかったような。

        磁石の漫才。「今年もいろいろなものが流行りましたね」 「ビリーズブート難民キャンプ」 「難民は余計だろ」 「痩せちゃう」 「そんな痩せ方嫌だろ。美白なんてのもありましたね」 「スプーン一杯で驚きの白さ」 「洗剤だな、それ」 今年の流行から学生時代の思い出、恋愛、結婚、親子と、話を進めていく形式だけど、やや散漫だったかなあ。もう少し話題を絞ればいいのになあと思うのは、私が古い世代だからだろうか。

        鏡味仙三の太神楽がよかった。いつもとは違ってクリスマス・バージョン。ユーミンの『恋人はサンタクロース』に乗って、クリスマスツリーの形のバチの上にお盆を乗せ、それにクリスマス・ツリーの飾りを付けていく、さらにお盆の上にはキューピーさんのサンタ。これで五階茶碗をやるという趣向。糸渡りでは盆の上に小さく切った紙を乗せて、これを回転させると雪が降るという効果。ここで音楽が山下達郎の『クリスマス・イヴ』に替わり、鞠の曲芸。だんだん毬の数を増やしていって、ひとつを取り落としたとみせて、これらを袖に転がしていって雪だるまを作る要領で、出てきたときは一回り大きな毬を転がしている。この毬で衣文流しだ。さらに大きな毬を袖で作るや、傘廻し、バチの上に乗せる曲芸から、あらら、本当に顔まで描いた頭を乗せて雪だるまの完成〜! 仙三のアイデアに勝負ありだ。

        柳亭左龍『片棒』。次男の祭好きの男が1番乗っている感じ。この人もお祭が好きなのかもね。

        仲入り後の食いつきは神田陽司の講談『坂本龍馬と勝海舟』。勝海舟を斬りに行った坂本龍馬が、逆に勝海舟に感化されてしまう出会いの一席。「海は好きか? 海の向こうのものは何でもでかいぞ。米なんてこんなにでっかい。バターというものを付けて喰うんじゃ」 それはパンでしょ。海の向こうに行ってみたいと思ってしまう坂本龍馬の心境がわかるなあ。

        「正月の過ごし方も国によってまちまちでして、中国では爆竹を鳴らして祝う。子供じゃないんだからと思いますが、インドではガンジス川に入るんだそうで。身を清めるってんでしょうが、あれは汚い川ですよ。何が楽しくて新年早々入るんでしょう。もっともあれガンジツ川」 柳家紫文はいつもの長谷川平蔵市中見回り日記。材木屋編、やかん売り編、赤鬼編、金魚売編。そして季節限定の掛取り編。大岡越前は隠れキリシタン編と老舗編。残り時間を踊り『片足かっぽれ』。

        「噺家って暇そうで、悪事に手を染めている人がいるように思われがちなんですが、案外いないんですね。先日新聞を読んでいましたら、覚醒剤で逮捕なんていう記事を見まして、桂なんて書いてある。これは歌丸師匠のお弟子さんかと思いましたら、桂銀淑。歌手だったんですね」 「赤福が賞味期限を改竄。その前は白い恋人でしょ。赤、白ときて、今度は黄色が来るんじゃないかと思いまして、すると次は木久蔵ラーメン・・・」 危ない話題を振りながら古今亭菊之丞『付き馬』。志ん朝、志ん五系列のテンポのいい口調の『付き馬』だ。聴いていてうっとりといい気持になってくる。これでさらに菊之丞らしさがさらに加われば、さらに良くなっていくだろう。


December.22,2007 道徳臭がなく、それでいて普通の人間が生きている『井戸の茶碗』

12月16日 池袋演芸場12月中席昼の部

        浅草、新宿、国立ときて、池袋だ。定席通いというのは癖になる。いろいろな芸人さんが入れ替わり立ち代り高座に上り、15分〜20分の持ち時間を消化すると、お後と交代。ホールでの落語会のように見る側も演る側も、そんなに力が入っていない。まったりとした時間が流れていく。とはいえ、12月中席の昼の主任は三遊亭遊雀だ。気持が高ぶりながら昼の池袋演芸場へ。

        開演にちょっと遅れてしまったので、前座さんと、二ツ目さんの高座を見逃してしまった。席に着いたら、やなぎ南玉の曲独楽が始まっていた。この人、先日浅草でも観たが、今まで観たことのない曲独楽を演る。回っている独楽の上にもうひとつ独楽を乗せて回す、[お染久松相生の独楽]の見事なこと! 「この独楽はどうやって回すかと言いますと、親指と人差し指で輪っかを作り、それに独楽を入れ回します。そのとき小指で軸に回転を加えてやる。それで私の小指はタコが出来ている。これが痛いんです。だから私は一年中(小指を立てて)コレで苦労します」 この人の曲独楽は、他の人のよりもさらに曲芸的といえるかもしれない。それを涼しい顔でサラッと演ってみせる。好きだなあ、この人の曲独楽。

        桂米福。「店でサンマ定食を食べたんです。すると、ご主人が『肉じゃが付けましょうか?』って。貧乏な噺家だって知っていてサービスしてくれたんだなってうれしくなりました。でも勘定を払う時に、しっかり肉じゃが代も取られました」 うんうん、私も同じ経験があるのだ。浅草の場外馬券売場の裏の煮込み横町。「おしんこでも付けましょうか?」と言われて、うなづいたら、白菜の漬物がどっさり。これはひょっとしてと思ったときはもう遅かった。会計のときに、しっかりおしんこ代も取られた。しかもこの白菜の漬物、もう醗酵臭がひどくて食べられたものではなくて、一口だけ食べて残してしまったのだ。って、こんなことを書いている場合ではない。米福のネタは『素人うなぎ』。こちらのキュウリのしんこは旨そうだ。

        「このあとも、ぞくぞくとイケメンが出てまいります」と始めた三遊亭円馬。「・・・イケメンって・・・池袋のメンバー」。ネタは『本膳』

        松旭斎小天華のマジック。長いロープをチョキチョキと、つぎつぎと短く切っていく。繋がるのかなあと思ったら、そのままゴミ箱にポイ。その直前に小さく切った新聞紙を再生するマジックをやった後だから、これは効果的。

        三笑亭夢太朗は、『竹の水仙』に入った。トリネタにもなる大きな噺だが、どうするのかと思ったら、キッチリ15分で終えた。ふうん、こんなに短くても出来る噺なんだ。

        老夫婦が新婚旅行に行った宿に再び泊まるという小噺。ちょっとエッチなんだけど小さな男の子がゲラゲラ笑っている。ギョッとした表情になった三遊亭遊三だが『壷算』をキッチリと。「この甕が疑惑なんだなあ」 甕なら食品でないから大丈夫。

        東京太ゆめ子の漫才は、お得意の戦国時代の殿様と家老のネタ。京太が形勢悪くなると、コロコロと「役を変えてくれ」とやる間がなんとも好きだ。

        「歌舞伎座の前の方の席、いくらするかご存知ですか? 15000円ですよ。プロレスのリングサイド10000円。相撲の砂っかぶり、あれ、飲み食いしちゃいけないんです。それで15000円くらい。池袋演芸場、こんだけ近くで観られて飲み食い自由で、いくらですか? 2500円ですね」 三遊亭春馬は相撲のマクラをたっぷり取ってから、『相撲風景』の一升瓶ション便ジョンジョロリン。汚ったねえ〜。

        例によって、客いじりしながらだらだらとマクラを振っている古今亭寿輔。「新宿末廣亭は持ち時間15分。ここは20分なの。だから今5分潰しているところなの」なんていいながら、この日も『地獄めぐり』。先日の国立で聴いた地獄へ行った芸能人のお店のところまで行かずにおしまい。「全部演ると1時間20分。この続きは明日演ります」 一度、寿輔の『地獄めぐり』完全版を聴いてみたいな。

        松乃家扇鶴の音曲。「♪去年の今夜は知らない同士 今年の今夜はうちの人」ってね。ようよう!

        さあ、お待ちかね三遊亭遊雀だ。「今年最大の思い出といえばですね、玉川スミ師匠と裸の付き合いをしたことですかね。末廣亭の楽屋って夏は暑いんですよ。あのスミ師匠が下着姿でいるんですよ。そしたらあたしにね、『暑いだろ!? おまえもお脱ぎ!』って。それで私も下着一丁になって、スミ師匠と差し向かいですよ。スミ師匠、稲荷寿司を食べていらしたんですね。そしたら『お前もお食べ』って。スミ師匠と裸で楽屋で稲荷寿司を食べた」 三遊亭遊雀と玉川スミが下着姿で稲荷寿司を食べている姿を想像したら笑いが込み上げてきてしまった。この日のネタは『井戸の茶碗』。私、正直に言うとこの噺、苦手なのだ。登場人物全員が善人で、なんだか道徳教室を受けているような気になってしまう。かといって嫌いじゃない。古今亭志ん朝師匠のものはある意味完成形だと思うし、現役の噺家では柳家権太楼、立川志の輔のものは、まさに宝物といっていい。さて、その権太楼の弟子であった三太楼(=遊雀)は、この噺をどう演るのか。私の隣に座っていたのは老夫婦だった。このご夫婦、始めからずーっとほとんど無表情で誰が出てきても笑うことすらなく無言で観ていた。それが遊雀がマクラを終え、噺に入って10分ほどしたときだろうか。ご主人の方が突然奥さんの方を見た。奥さんもご主人の顔を見る。するとこのご主人ニヤッと笑ってポケットからボールペンを取り出すや、赤の芯で目の前のプログラムの遊雀の名前の上にグリグリと赤い丸を書き出した。遊雀の『井戸の茶碗』は、誰のものとも違う。権太楼のように大仰な清兵衛でもない。変わったクスグリを入れるわけでもない。途中、風邪を引いて病み上がりの清兵衛が「ひどい風邪を引いてしまいまして。足腰が立たない。時津風邪っていってね・・・(素に返って)もう古いですね」とやったくらい。登場人物ひとりひとりをキッチリと演じ分けるということを主眼にして、そのキャラクターで見せていく。そのひとりひとりがしっかりしているから、聞き終えて、全員が善男善女という印象がない。それぞれ生きている人間達なのだ。道徳の噺を聴かされたという印象にならない。井戸の茶碗を殿様が買上げて大金を貰い受け、高木作左衛門から半額を預かって千代田卜斉のところへ持っていった清兵衛が、言葉にならずにゼスチャーで差し出すところはまさに圧巻。奇をてらわずに、それでいてキャラクターをしっかり演じわけるその高座に凄みを感じた。マクラも入れて50分。まさに至福の時間だった。


December.16,2007 女性目線のポツドール

12月9日 ポツドール
       『女の果て』 (赤坂 RED THEATER)

        国立演芸場を出て赤坂に回る。

        ファースト・フードのハンバーガー屋で時間を潰してRED THEATERへ。当日券の補助席まで満員。

        三浦大輔作・演出ではなく女性スタッフのみで作られた企画第二弾。デリヘルの事務所が舞台。デリヘル嬢4人、店長、男性スタッフ1人(途中まで運転手スタッフがもうひとりいる設定)、女性スタッフ1人。妻帯者である店長にデリヘル嬢は全員好意を持っているという設定で、女の闘いが繰り広げられていく。見ていて、女って生き物は、恋愛にしか興味がないのかと思えてくる。三浦台本・演出だと、男ってSEXにしか興味がないのかと思えてくるのと好対照だと思える。そう考えると、俄然と男と女の考え方の意味がわかってきて面白い。

        4人のデリヘル嬢とそれぞれ関係を持ってしまっている店長。そこに妻まで乗り込んできてのドロドロ。男ってバカだなあと思う一方、なんであんな店長に惚れるかなあという男心が起きてくる。三浦が書くのと違ってエロ度、暴力度は控えめ。その分、女の持つドロドロした感覚が全編に漂う。ラストシーンが、それまであまり前面に出ていなかったデリヘル嬢役の役者が、チラシとそっくりなポーズで立つシーンになる。

        ポツドールだから、店長もスタッフ男性も本当にダメ男なんだけど、どこか救えるのは女性スタッフ作・演出だからか? 店の女性スタッフもが実は店長に好意を寄せていたと思われるラストにいたっては、「しょーもねえなあ」と、女性にもてたことのない私は溜息をつくのである。        


December.15,2007 そのスジの人

12月9日 国立演芸場12月上席

        今月に入って、浅草、新宿と久しぶりに定席を回ってみた。そういえば国立演芸場の定席もずいぶんと行っていないなあと思いたって足を運んでみた。都内5軒の寄席の中では唯一全席指定制。テケツで席を選んだ時点では後の方はかなり空いていたが、始まってみるとほぼ満席になっていた。

        開口一番の前座さんは瀧川鯉斗。「きのう仲間とおでんパーティーやってたんですよ。竹輪とかハンペンとか大根とか入れましてね。そうそう牛スジなんかも入れました。するとピンポーンとチャイムが鳴ったんです。誰が来たんだろうと思ったら、おでんだけに、そのスジの人が入ってきました」 鯉斗くん、余裕が出てきたね。ネタの『動物園』演っても楽しそう。

        瀧川鯉橋『子ほめ』。「これが赤ん坊か。顔が赤いね」 「そうだよ。赤いから赤ん坊っていうんだ」 「そうだよな、青ければ青ん坊、黄色ければ黄疸だ」

        ぴろきのギタレレ漫談。いわゆる自虐ネタがズラリ。「プロポーズしたことがあるんです。あなたと結婚できなかったら死んでしまうと言ったんです。急いで式場を押さえてくれました・・・・・そういうことです」 「彼女から家に誘われました。『今度の日曜日、誰もいないから』って言われたんです。当日行ってチャイムを押しました。ピンポーン・・・ピンポーン・・・・・ピンポーン。そう、本当に誰もいませんでした」 そのスジの人と思われたんじゃないだろうな。

        三遊亭遊史郎『湯屋番』は、若旦那が銭湯に着く前から妄想が始まってしまうバージョン。その分、ひとりキチガイ度が増して面白い。

        東京丸・京平の漫才は、この日はなんだかグズグズ。それというのもアドリブで目の前の席で弁当を食べている女性をいじりだしてしまったからで、ネタが中途半端になってしまった印象。でも日曜の昼間のこのまったり感がなんとも気持いい。

        客いじりといえば古今亭寿輔が見逃すわけがない。出てきて引き続いて弁当を食べている女性をいじりまくる。さんざんいじったあげくに『地獄めぐり』へ。勝新太郎が経営しているパンツ専門店。「なんでも隠せるパンツを売ってます」 「パンツは玉隠すんじゃないんですか?」 「玉緒はまだ生きています」 古いネタだねえ(笑)。今の人にはもうわからなくなっているんじゃない?

        仲入り後は北見マキのマジックから。ロープのマジックを終えたところでネタが見えちゃったあ(笑)。それでも見事だよな。最後のトランプ当てもいつも不思議に思っていたのだが、どうやら見当がついてきた。あんまり何回も見にきちゃいけないのね(笑)。

        桂伸治『初天神』。「おとうちゃん、あたいね、飴舐めながら歌を歌うことができるよ。♪いやんバカーン、ウフ〜ン それはおへそなの〜」 「歌うんじゃない!」

        紙切りの桃川忠は初めて見た。今まで見た紙切りの人との大きな違いは、座布団に座らず、テーブルを前にして立って切ること。しかも身体を揺らすということもしないで、モクモクと切っていく。切るスピードはかなり速い。そして切りながらのトークもあまりなく、ややぎこちない印象なのだが、切り絵自体はかなりの腕前といっていい。しかも一度に2枚から3枚の紙を重ねて持ち、複数の作品を切ってしまう。「私のは、皆様のリクエストを勝手に切りやすいものに変えてしまうんです」というだけあって、はぐらし方も巧み。「出初式ですか。では来年の干支ねずみを切りましょう」 「朝青龍ですか。それでは横綱の土俵入りを」

        トリの三遊亭円遊『御神酒徳利』。「12月13日という日は日本中が大掃除をしたそうでして、アポロ13号から地球を見れば、日本からポンとホコリが上がったのが見えたくらい」 そうそう、この噺も大掃除のところから始まる、そもそもは年末のネタだったんだよな。寄席に来てばかりしていないで、来週は部屋の大掃除でもしようか。


December.9,2007 季節の噺、季節はずれの噺

12月8日 新宿末廣亭12月上席夜の部

        4時45分入場。お客さんいっぱい。定席をサラから観るのは久しぶり。

        開口一番の前座さんは柳亭市丸『出来心』。頑張ってね。

        続いて出てきたのは古今亭志ん公。後の人のことを気遣ったのか、『たらちね』の名前を訊いたところで切って降りてしまった。

        この日、昼夜、吉祥寺の前進座の高座がある柳家三三が出番を早めて上がる。それで志ん公は早く切り上げたのかな? ネタが『権助提灯』って、吉祥寺から新宿、新宿から吉祥寺ってシャレなのか。提灯持っていってらっしゃーい!

        変わって柳月三郎の民謡。「師匠から『言葉をはっきりと歌え』って教わりましたが、それでも日本の民謡って何歌ってるかわかんないものが多いの。青森の民謡とか沖縄の民謡。さっぱりわかんない」 でもこの人本当に声がいいの。歌詞が聞き取れなくても、うっとりと聞き惚れてしまう。

        「NHKの朝ドラ、今『ちりとてちん』やってますでしょ。知り合いが落語の『ちりとてちん』聴きたくなって寄席に行ったんですって。ところが誰も演ってくれないって、そりゃああれは夏の噺ですから、今演る人はいません。それでは、今日は特別に」って、古今亭菊輔が本当に『ちりとてちん』を演ってくれた。時期外れだけど、これもうれしいサービス。

        笑組の漫才。「テレビの占い番組って、胡散臭いでしょ。演ってみましょうか。あなた、付き合っている人がいる・・・(目で確認を求める)」 「います」 「そうでしょ! その人は年下ね」 「いえ、年上です」 「私より年下って意味よ! 付き合って4年」 「いえ、2年です」 「あなた双子座でしょ。二人分で4年よ!」 「あなたたち、いずれ別れるわね」 「いや、来年結婚します」 「いつかは死んで、別れ別れになるのよ!」

        三遊亭生之助『尻餅』を演ってくれた。『ちりとてちん』と違ってこちらはズバリ季節ネタだ。この時期にしか聴けないもんね。

        古今亭志ん橋『居酒屋』。この噺の小僧さんって、ほんといいなあ。酔っ払いの客にいじられっぱなしだもんね。昔はこんな居酒屋がたくさんあったんだろうね。今は、チェーン店ばかり。

        アサダ二世はお客さんが引いたカードを風船の中から出すマジック。話術が巧みなので、寄席向きの芸人さん。

        古今亭志ん弥『宮戸川』。持ち時間が短いのか、これも半七、お花のいいところまでたどり着けず。う〜ん、惜しい(笑)

        春風亭一朝『幇間腹』。師匠柳朝ゆずりの気持いいテンポで聞かせる。「まさか、お茶屋の二階で、お医者さんごっこやるとは思わなかった」 一八さん、災難。一八に腹を出させておいて、「さて、まず本を取り出してと」 「ちょっと、これから本を見ながらやるんですか? なんですかこれ、『張りのある暮らし』って!」

        仲入り後の食いつきは、古今亭志ん馬『時そば』。まさに食いつきにふさわしい(?)

        ギター漫談ペペ桜井。落語協会色物のヒットメイカー。この人くらい着実に笑いが取れる人はいない。新しいネタは何もなかったけど、いつ聴いても、この人は面白い。

        柳亭左楽『馬のす』をかけてくれたのはうれしかった。こういう軽い噺って、いかにも定席向きでいいのだ。でもこれ、枝豆が出てくるから夏の噺じゃないの?

        柳亭市馬の落語というのは、何を演っても気品があると思う。それは下ネタだろうと抑制が効いていて嫌味がない。そんな市馬が『雑俳』を始めたときには驚いた。市馬という人は流れるように落語をする人だと思いこんでいたから、こういう、笑いがブツブツと切れる噺には向かないと思い込んでいたからだろう。いやあ、結構な『雑俳』でした。帰りの電車で「初雪や タコの足跡 藤の花」のフレーズ浮かんできて、何回も思い出し笑いしてしまった。

        和楽、小楽、小花和楽社中。小花は先月、ピンで花形演芸会の高座に上がってたから、五階茶碗も安心して見られる。3人のナイフの交換取りもきれいだ。

        トリが古今亭志ん輔。この人も、この日は前進座昼夜に出ていたはず。前進座夜の部が終わって駆けつけたのだろう。さて、この時期に何を演ってくれるのだろうかと思ったら、なんと『御慶』だった。これも年末年始にしか聴けない噺だ。長いし、時期を選ぶし、どうってことない噺だから演り手が少ない。ここで『御慶』に遭遇できたのはうれしい。

        久しぶりに定席をサラから仕舞いまで観た。「さっき『時そば』聴いたから、そば食って帰ろうか」なんてお客さんの会話が耳に入る。外に出ると、おおさぶい。年末だなあ。


December.8,2007 きっと遊雀はキャラクターから落語を作り上げているのだ

12月2日 浅草演芸ホール夜の部

        仲入り後、割引料金1500円で入場。高座はナイツの漫才。あらあら、スティーブン・スピルバーグでたらめプロフィールなんてネタ演ってる。先日聴いたのはSMAPでたらめプロフィールだったっけ。この人たちこのパターンをいくつか持っているらしい。

        桂幸丸はたいてい漫談だけの人。この人の噺ってまだ聴いた事がない。この日はどうやら『昭和の時代』というネタらしいのだが、昭和30年代の様子を語るというネタ。『ALWAYS 三丁目の夕日』世界だね。テレビ(プロレス中継を含んで)、冷蔵庫、洗濯機、扇風機、電子レンジといった電化製品が初めて家に来たときの様子。そして後半は昭和の流行歌。坂本九『上を向いて歩こう』、中尾ミエ『可愛いベイビー』、梓みちよ『こんにちは赤ちゃん』、都はるみ『アンコ椿は恋の花』などの歌詞を取り上げて突っ込みを入れる。昔っからの漫談のスタイル。「橋幸夫の『いつでも夢を』。♪星よりひそかに 雨よりやさしく・・・ このあと、江戸時代の言葉になっちゃう。♪お待ちなさいな ですよ! それで引き止めておいて、♪いつでも夢を なんて、大きなお世話だ!」

        続く柳亭楽輔も漫談が上手い人なんだけど、軽快にマクラで客をつかんだ後は『黄金の大黒』に入ってくれた。合わせの絽の羽織(裏が新聞紙)をとっかえひっかえ着て大家さんのとこに挨拶にいく長屋の連中の様子が軽快に描かれる。気持のいい落語だ。

        マジックジェミーのマジック。お客さんからお札を借りて、そのお札を消して、オレンジの中からそのお札を出すというマジック。まだ若い女の子が手を上げて一万円札を渡す。この子、まだ20歳そこそこといった感じ。さっきから落語を聴いていて可愛い声で笑っていた子だ。ジェミーにいじられながらもニコニコ笑っている。

        三笑亭夢太朗『紙入れ』。不倫するのは貸本屋の新吉。浮気がバレたかと旦那に探りを入れに行く。「おう、新吉。こんなこと言いたかねえけどよ、お前のやることはあくどいんじゃないか!?」 「すっ、すいません・・・」 「おめえ、貸本屋だろ? おれんとこにきているのは『ドラえもん』の36巻までなんだよ。続きが読みたくてイライラしてんだ」

        ヒザが、やなぎ南玉の曲独楽。軸の無い皿独楽というのを初めて観た。皿回しの要領で棒の先で回す。南玉という人はずーっと高座で座ったままで全ての曲独楽をこなす。これは、他の人には無い技だろう。

        トリの三遊亭遊雀が出てくると、「待ってました!」の声がかかかる。確か、遊雀になって定席でトリを取るのはこれが初めてのはずだ。ネタはこれも十八番といっていい『明烏』。おそらく遊雀の落語というのは、まずキャラクターの造形から始まるに違いないと思う。登場人物ひとりひとりをどう演じるが、まず先にあるのだと思う。『明烏』だと、まず若旦那、若旦那の親父さん、茶屋の女将、それに源兵衛と太助。これらのキャラクターを見事に演じわけて見せる。特に顕著なのは源兵衛と太助だろう。他の人はこのふたりのキャラクターはそんなに大きく扱っていないような気がする。遊雀の源兵衛、太助のなんと生き生きとしていることか。「大門で止められる」のくだりのふたりのやり取りのなんと楽しいことか。「人の話聞くときは、耳でなく目で聞いてもらいてえもんだ!」の顔の演技は爆笑もんなんだもの。さらには一夜明けてのこと。フラれた太助が、若旦那だけいい思いをしたと知るや、「おらあよう、どんなに悔しくたって滅多に泣かないたちなんだけどよう、こんなに悔しかったことはねえ!」と泣きながら帰ってしまうところ。ここが好きだなあ。遊雀はこの噺の見せ場のひとつ甘納豆のくだりをバッサリと切って捨てている。この場面はいらないとの判断に違いない。それはもうその他の場面で源兵衛、太助を描き尽くしているからだろう。甘納豆のくだりをカットして太助の悔し泣きに持ち込んだほうがいいと考えたのだと思う。そしてそこから一気にサゲへ。きっちり30分。

        夜の浅草は、早めに帰ってしまうお客さんも多いが、この日最後まで残っていたお客さんは明らかに遊雀目当てと思われるお客さんがいた。マジックジェミーにいじられていた女の子もおそらく初めての寄席体験だっただろうが、『紙入れ』 『明烏』なんて艶笑ネタに楽しそうに笑っていた。また新たな寄席好きが生まれるといいな。


December.2,2007 落語ブーム?喬太郎ブーム?

12月1日 『柳家喬太郎独演会 夜の部』 (紀伊國屋ホール)

        渡されたプログラムにはまずは前座が一席演ることになっていたが、出てきたのは柳家喬太郎。前座が見つからなかったとかで、自分で一席。柳家に入って最初に習う『道灌』を見事に演ってみせる。これが見事なのだ。普通この噺、定席に行くと前座さんが演っていることが多いが、やっぱり芸が未熟で眠ってしまうことが多いのだが、喬太郎はグイグイと引き込んでいく。この調子だと、他の師匠の『道灌』聴いてみたくなる。きっと、惚れ惚れする『道灌』が他にも聴けるに違いないんだけどなあ。「それは有名な太田道灌の絵だな」 「大きな土管ですか」 「大きな土管は有名でも無名でもない。道灌公が狩倉(かりくら)に出たときのことだ」 「何人もの人を殺したローマ帝国の暴君」 「それはカリギュラだ。どうしてちゃんと前座噺をしようとしない!」 余裕のクスグリだね。

        喬太郎の弟弟子、柳家さん弥『野ざらし』。いきなり「ご隠居!ご隠居!ご隠居!」とうるさい出だしから騒々しい(笑)。このテンションが釣りの場面では最高潮に達する。いやいや実に騒々しい『野ざらし』だ(笑)。「着物、乱れすぎ!」と自分で突っ込みを入れてる(笑)。

        柳家喬太郎の二席目。「落語ブームなんだそうですが、なんか中途半端なブーム。どこでもワーワー言っての大きな落語ブームじゃない。『タイガー&ドラゴン』 『しゃべれどもしゃべれども』 『ちりとてちん』といったドラマや映画のおかげで、潜在した落語好きが世間様に顔見せできると知って確認作業。いわばカミングアウトしているだけなんじゃないかと」と、いつもより長めの落研マクラを振って『すみれ荘二○一号』へ。お見合い相手が『東京ホテトル音頭』を歌ったところでは、紀伊國屋ホールらしいクスグリが入る。「自分で作ったの?」 「ええ、人には頼めないので・・・。帝都無線(紀伊國屋2階のレコード屋)で売ってます」

        仲入り後は林家二楽の紙切り。鋏試しの『桃太郎』に続いて、お客様からのお題が『お正月』と『亀田と朝青龍』。『お正月』は毎年切りなれているらしい。羽根突きをする女性ふたり。『亀田と朝青龍』はしばらく迷ってから切り抜いたのが、揃いの毛皮(!)。さすが! 切り絵劇場は『ウルトラマン紙切り』と『少年時代』のメロディーに乗せての男と女の物語。

        柳家喬太郎、最後の一席は、マクラも短く『文七元結』。長兵衛と文七が顔を合わせる吾妻橋の場面が圧巻。女物の着物姿の長兵衛に助けられた文七が、長兵衛の身なりを見て「あなたを見たら生きる勇気が湧いてきました」と嘘をつくあたり。五十両を渡していいものかどうか躊躇して、文七に「ツラー(顔)見せろ」と横顔を見させて、「死んだ目になってやがらあ」とつぶやくところ。喬太郎は演技過多にはならずにサラリと演ってみせた。それでいて遊びも忘れない。店に戻った文七に、お久がいる吉原の店を尋ねる場面。「確か・・・吉原の・・・紀伊國屋・・・」 「喧嘩売ってんのかよ!」 「確か・・・吉原の・・・ジュンク堂」 「そんなバテレンみたいな店は無いよ!」

        『文七元結』を聴くと、「ああ、年末だなあ」と思う。今年、あと一回くらい他の噺家さんで聴くことができるだろうか?


December.1,2007 年貢の納め時?

11月24日 『平成噺座 柳家喬太郎作品集』 (博品館劇場)

        「喬太郎が出なかったら、来なかった人、います?」柳家初花が会場に問いかけると、かなりの手が上がる。「お前ら、帰れー!」 前座時代に開口一番でよく見かけていた二ツ目の初花、久しぶりに観たなあ。なんだかふっくらしてきた感じ。「さきほど、野末先生が私のことを、『ただのデブ』とおっしゃいましたが、以前は痩せていたんです。二ツ目になって急に太り始めまして、それはストレスが減ったからなんでしょう。師匠と毎日会わなくてもすむし。どのくらい腹が出ているかというと」と突然、着物を脱ぎだした。喬太郎作品を演るからといって、腹まで真似しないよーに!(笑) 『午後の保健室』の腹を叩いて「愉快、愉快!」とのたまう生徒会長が堂に入っている。

        神田ひまわり『白日の約束』を講談に。男が広島出身で、広島弁で喋るというのが、喬太郎版にない新機軸。講談らしく後日談まで語りハッピーエンドのまとめに持ち込むのも講談ならでは。やや座りが良すぎるような気もするのだが・・・。思い切って、いいところで切れ場を作って終わらしちゃうとか(笑)。

        「喬太郎アニさんの作品を演ることになったと人に言ったら、『トリビュートね』と言われまして」と春風亭栄助。「『トリビュートって何?』と聞いたら、『人のネタを演ることだよ』と教えられまして、なんだか人様の作ったネタをパクッたみたい。で、辞書で調べましたら、[感謝][証明する]なんて出ていまして、さらに読んでいくと[強制的に取り立てる][年貢を納める]なんて出ている。年貢を納めることなんですか!?」と、『寿司屋水滸伝』へ。次々と出てくる寿司職人の、押しの面白さをそのままに残し、寿司屋主人の引きの面白さを加えてきた。このへんが栄助落語の魅力。この噺がまたひとつ面白さを加えた感じだ。途中、突然素に戻って「迷ったんですよ。『寿司屋水滸伝』にするか『バイオレンス・チワワ』にするか。迷ったけど、ボク、猫派なもんで」なんて裏話を入れてみせたりするのも喬太郎トリビュートか?

        仲入り後のゲストはもちろん柳家喬太郎。「落語というのは、人にネタを教えて伝えていくということがあります。それでその噺が進化していくってことがあるんですね。私もね、人から教わることがあるわけです。三遊亭円朝師匠のところへ行って、『師匠、牡丹灯篭、教えてください』なんて行く事がありますよ。またあの方がたいへん気さくな人で」なんて言いながら『純情日記 横浜編』。携帯電話なんて無かったころのおはなし。あのころの男なら誰でも(そして私も)体験しただろう初デートを題材にした噺。いや、今の若い人も同じように体験しているんだろうなあ。その分、普遍性がある名作になっているんだなあ。


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