January.27,2008 きらりと光る

1月26日 深夜寄席 (新宿末廣亭)

        あいかわらず長蛇の列が続く深夜寄席。お客さんがパラパラとしかいなかった以前の深夜寄席が嘘のようだ。

        まずは最初に上がった三笑亭朝夢が座を暖める。マクラでお客さんの気持を持ってこようと一生懸命だ。ようやくお客さんが笑える気持になってきたところで『時そば』。まずいそばを喰わされる男が、汁をすするなり「ちょっと湯をうめておくれよ」と言うなり、「船場吉兆の女将じゃないけど、頭の中が真っ白になっちまった」 かと思うと「竹輪が入っていない」と文句をつけると「入っているはずです」の返答に、「そういう答弁が今の年金問題になったんだ!」とタイムリーな話題を持ち込み、笑いを取っていく。

        いよいよ真打昇進今輔襲名も近い古今亭錦之輔。この日も『パネルクイズ アタック25』出演をマクラにしたが、これがばかに受けている。[錦マニ]あたりでこの話をすると、普通のマニアックな錦之輔ファンが集っているのか静かな笑いになってしまうのだが、こういう若い客層を前にするとこれが爆笑になっていく。『アタック25』の出場権を獲得したのだが「収録日に仕事が入っていると、仕事を取るかクイズを取るか迷うところ」と笑いを取って、「もうひとり自分がいたらいい」と『影武者』へ。いつも遅刻ばかりしている高校生が、影武者を雇って授業に出てもらうことにする。その影武者というのが鎧兜のまさに戦国時代の影武者だったからというドタバタの一席。ネタに入っても笑いがドッと来る。これは若い人には受ける噺だ。

        神田きらりがいい。この日のネタは『寛永三馬術 愛宕山の乗り切り』だが、きらりは『寛永三馬術 曲垣平九郎 誉れの梅花 愛宕山』としていた。これは講談初心者を相手にするにもうってつけのネタだが、きらりはこのネタでグイグイとお客さんを引っ張っていく。緊張の続く話に、愛宕山の石段が「遠くから見るとさほどではないが、近くで見ると断崖絶壁」とやってから、自分の話に脱線して笑いを取り、また緊張の話に戻るという計算の確かさ。歯切れのいい淀みの無い口調の心地よさ。今、女流講談師の最注目だよ!

        トリは三笑亭月夢。四度目の結婚、しかも相手はアメリカ人という、いつものマクラで笑いを取る(カーテンにお守り。高座着を洗濯)。愚痴なのか惚気なのかわからないのだが、そこからお色気噺『短命』へ。「手と手が触れる。肩口にそっと手を回し、そっと引き寄せて・・・」という仕種がやけに生々しいぞ。

        今月はこれで芸協の深夜寄席を二回観たことになる。それで思うのは、芸協の二ツ目は確実に伸びてきているということ。うれしいじゃないか!


January.20,2008 怒り、泣き、そして笑い

1月19日 志の輔らくご in PARCO 2008 (PARCO劇場)

        毎年楽しみにしている立川志の輔のパルコ。特に新作を2作ほどネタおろししてくれるので、これがうれしい。今年は『歓喜の歌』が映画化されて2月からロードショウされるとあって、毎日『歓喜の歌』だけは演るとのこと。それに日替わりで古典一席と、ネタおろしの新作一席。

        まずは新作ネタおろし『異議なし!』。昨年末の地球温暖化会議で各国の首脳が集って何も決まらなかったというマクラを振って、会議なんてなかなかまとまらないもんだとネタに入る。マンションの管理組合で、エレベーター内部に防犯カメラを設置しようという会議が始まる。防犯システムの業者を呼んで説明を聞くが、カメラの購入設置、月々の管理費が高すぎるのに躊躇しはじめたところから、志の輔らしい笑いが生まれてくる。オンラインで24時間警備体制のシステムはあまりに金銭の負担が大きすぎる。防犯カメラを設置するだけなら、かなり安くなるが、それでは犯罪が起きてしまってから警察に資料として提出するだけで、犯罪を阻止する役にはたたない。それじゃあ、いっそダミーのカメラにするか。それよりエレベーターを総鏡張りにしようとか、お札を貼ればいいんじゃないのか等々の意見が出されていく。この落語的飛躍が可笑しい。現実の管理組合ではここまで話が飛躍したりしないが、おんなじようなことはどこのマンションでもあるんだろうなあ。ちなみに私の住むマンションでは防犯カメラは区に申請したら全額、費用が出た。まず、自治体に問い合わせてみたら?(笑)

        二席目の古典は、年の初めごろは干支にちなんで『ねずみ』、そのあとが『抜け雀』になって、この日は『宿屋の冨』だった。「厄払いをしようと神社に行ったら、一万円、二万円、三万円の三種類があるという。こういうふうに分かれていると、ほとんどの日本人は真ん中の二万円を選択するらしいんですね。西洋の人のようにYes or Noとはっきり分けられないのが日本人。Yes or Noの間に、まあまあというのがあるんです。YesでもNoでもなく、Or。その神経が素敵なんじゃないかと」とネタに。「奉公人が1万3000人いる」とか「敷地には宿場が三つある」なんて大ぼらを、突っ込みもしないでまともに受けてしまう宿屋の主人。漫才がこの時代にあったら、突っ込み返していたかもしれないな。『異議なし!』では途中に『蝦蟇の油』が出てきたが、『宿屋の冨』では、「千両あったらどうする?」 「みかん買いたい」。千両が当って、驚きのあまり「あったったっ、あったったっ」とまともに喋れない一文無し。当りくじを懐に入れようとするが手が思うように動かず、「懐が無い」と言い出す仕種をたっぷり。

        「人を怒らせたり、泣かせたりというのは割と簡単なんです。落語が難しいのは、これに笑いを入れていかなくてはならないということなんです」と、『歓喜の歌』へ。中華屋へワンタンメンを注文するところから、公民館の主任と事務員が、来年は大晦日は閉館にしようと相談している。大晦日には2時〜3時までママさんコーラスの公演が入っている。「3時に終わって、片付けが終わって4時、家に帰って5時、風呂入ってメシ喰って、ようやく紅白間に合うくらいだものなあ」。いいなあ公務員は。こっちは大晦日は毎年かきいれ時で、朝早くから夜遅くまで仕事だ。この怠惰なことを言っている導入部があとになって効いてくる。志の輔はこの噺で、怒りをぶつけ、泣きを取り、そして爆笑まで取る。まさに全て完璧に落語になっている。以前無かったギャグもいくつか入れてあり、より面白くなっていた。

        この日、テレビカメラが入っていた。またWOWOWで放送されるのだろう。私の笑い声は入っているだろうか?


January.14,2008 アクシデント

1月13日 浜町・一琴の会 (中州コミュニティルーム)

        前回は去年の4月だったから、9ヶ月ぶり。それでも続いているのだから主催の浜町消防団の皆様には頭が下がる。開催日が決まったのが12月。席亭が年末の忙しさで動けなかった上に、年が明ければ風邪で寝込んでしまうというアクシデント。十分に宣伝活動が出来なかったらしいのだが、それでも会場はほぼ満席となった。

        今回は前座さんが見つからなかったとのことで、いきなり柳家一琴が高座に上がる。「15年ほど前に『落語のピン』という深夜に放映されていた番組がありまして、立川談志と、他に何人かが出るという番組でした。先に談志師匠が出て、私はその後にという段取りでしたが、出囃子が鳴っても談志師匠はステテコのままで楽屋でお客さんと話している。スタッフが飛んできまして、先に私に出てくれと言うんです。慌てて着替えて高座に行きましたが、心の準備が出来てなかったんでしょう。噺を始めてみたら、仕込みの部分でサゲを演っちゃったんですね。焦りましたが、なんとか本来の別のサゲで終えました。どうやらこの『落語のピン』、今度DVDになるそうで、出していいかどうか電話がありました。私の部分、出していいですと言うと、そのままDVDになりますが、嫌だというと特典映像行きなんだそうで・・・。今日はそこで演った噺を演ります」とネタに入った。何かなあと思ったら『松竹梅』。隠居に知恵を授けられて婚礼の余興を稽古する松さん、竹さん、梅さん。「いいかい、テレビではそこで間違えたんだよ」 きっと稽古の段階で「大蛇にな〜られた」と演っちゃったんだろうなあ(笑)。

        「私が小三治師匠に弟子入りしたのは、師匠の『芝浜』をレコードで聞いて、『これは完璧だ』と思ったのがきっかけでした。マクラも何もなくいきなり『ちょいとお前さん、起きておくれよう』から始まるんです。あれから弟子入りしてみればマクラ1時間30分で、『小言念仏』演って降りてしまう師匠になってしまうとは思いませんでした。それでも一度秋田で『芝浜』を演られたのを御一緒させていただきましたが、そのときはやはりマクラ無しでしたね」と、師匠への尊敬の念を語り、親への恩をどう返すかという思いを語りながら二席目『初天神』へ。「あ〜、東京コロッケだあ〜。と言っても東京の人にはわからないだろうなあ。パチンコをして入った穴によってもらえる数が違うんだよなあ」 私も知らなかったのだが関西の屋台では東京コロッケなるものがあり、小さな小さなコロッケを串に刺して売っているものだったらしい。東京にはないのに東京コロッケ。ふうん、一度食べてみたいなあ。とうちゃん、買っておくれよう! このあとアクシデント。団子を買ってもらう場面で、「子供が食べるんだ、アンコに決まってるだろう。蜜は手が汚れるからダメ。(息子に)どっちがいいんだ」 「アンコ」 ここで一瞬凍り付いてしまう一琴。「なっ、アンコがいいんだろ。そう注文したんだ」 「やっぱり蜜」 うまく切り抜けた一琴。なんとか『松竹梅』に続いて今回も事なきを得た感じ(笑)。

        前座が出なかったということで、ここでサービスの紙切り。一琴の紙切りは始めて観た。「普通、紙切りというのは切りながら、いろいろとお話をするんですが、私の場合切りながら話そうとすると手が止まります」 いやいや本職でないんだから仕方ない。しかしその切り方の早いこと早いこと。数十秒で切り抜く。しかもそれがことごとく上手いのだ。干支にちなんでの鋏試しはミッキーマウスとミニーマウス。子供さんが客席にいたので、ドラえもんに桃太郎。さらにはお客さんの似顔切抜きまで。その上手いこと上手いこと。本職の人、負けそうですよ。

        実は私も注文で切っていただいた。浜町消防団が主催の会なので、出初式を注文。「始めて切るお題ですが、やってみようと思います。私、出初式を見たこともないのですが」



鋏を入れて、ほんの30秒ほどで、
「よっ!」


January.6,2008 どっしょーぃ〜

1月5日 深夜寄席 (新宿末廣亭)

        末廣亭も正月初席興行の真っ最中。場内に入って気がついたのは、桟敷席の後の引き戸が全て取り外されていること。これって、桟敷席の後にも立見の客を入れようってこと?

        幕が上がるともっと驚き。高座の後にカラフルな背景が作られている。それも謹賀新年ではなくて、 と明るいこと! 上手下手には獅子舞の絵が描かれた凧が飾られ、下手の床の間には一斗樽。華やかだねえ。

        一番手は瀧川鯉橋。「夏の噺なんですけど、あえて今演りたいんです。3月までに演っておいて、それ以降は演らなくてもいい」 あらら、ひょっとしてこれは『ちりとてちん』かあと思ったらズバリ。知ったかぶりの嫌な男のキャラクター作りが面白い。鰻の蒲焼を勧められて、「どうせ養殖だろ」 「最近は養殖でも旨く食わせるそうだよ」 「どうせ人間に飼われてたんだ。顔に生活のあとが見られない」と言い放つ。この男、灘の酒を飲み干してもガッツポーズのように「どっしょーぃ〜」と叫び、鯛の刺身をガツガツと食い終わると、「どっしょーぃ〜」、鰻の蒲焼をモグモグと頬張って食べ終わっても「どっしょーぃ〜」。これに旦那が、腐った豆腐の唐辛子和えちりとてちんを食べさせるように持ち込むことに成功させると、今度は旦那が横を向いて小さく「どっしょーぃ〜」と小さくガッツポーズ。これがやたらと可笑しい。そして腐った豆腐を食い終えた男が大きく「どっしょーぃ〜」

        「去年はメディアが落語を取り上げてくれまして、おかげでちょっとしたブームになりました。NHKの朝ドラ『ちりとてちん』、ちょっと前だと『タイガー&ドラゴン』、映画『しゃべれどもしゃべれども』、それに中村勘三郎、柄本明の『やじきた道中 てれすこ』。お前『てれすこ』できるかと言われまして演ったんですが、終わって、違うって言うんです。そりゃあ映画とは違いますよ。あちらは落語を元にして作った別の話なんだから。『ちりとてちん』だって腐った豆腐を食べる話じゃなくて、若い女の子が頑張る話ですから」と、三笑亭夢吉『てれすこ』へ。7分で終わってしまう噺なので、亡くなった文治師匠のことなど、あちこちと脱線しながら。二ツ目に上がって、まだ一年とちょっとでこの余裕は何? 注目株と言ってしまおう。

        この夜一番香盤が上の春風亭鹿の子は、電車の中で化粧をしている若い女性の生態を、女性らしく詳しく語ってみせ、「こんな人と付き合っている人がいたら、早く乗り換えた方がいいですよ。電車だけに」とオチまでつけて、『一目上がり』。「これは六だな」 「いや、七福神」と決めたあと、立ち上がって踊り『宝船』。

        正月は黒紋付、袴姿で高座を演るのがしきたりだそうだが、それも三箇日くらいまで。あとは着ても着なくても自由らしい。鯉橋は黒紋付で出てきたが袴を穿き忘れていた。夢吉は袴を穿いて黒の羽織だったが着物は普通のもの。鹿の子は黒の着物を端整に着こなしていた。で、トリの三笑亭可龍はといえば、袴もなしで、着物も羽織もカラフルなもの。「去年はKYなんて言葉が流行りまして、空気が読めない。略してKY。今夜始まる前に、『今日は何を演る?』って4人でネタを出し合うんですよ。私は、新年だからおめでたい噺をと思って『黄金の大黒』を演るからと言っておいたんですよ。それがいきなり出てきた鯉橋ですよ。『ちりとてちん』。寄席の方では別の人が演ったネタと被るのは演らないというしきたりがある。食べ物を食べる所作がある噺が出たら、もう被るネタはやらないんです。『黄金の大黒』にも食べ物を食べる所作が出てきます。しかも『ちりとてちん』は夏の噺。まさにKY」 そこへ私服に着替えた鯉橋が楽屋から出てきて手をつき「アニさん、すみません!」 ということは、別の噺を演るのかなと思ったら、そのまま『黄金の大黒』へ。なんだ、演るんじゃん!(笑) しかしこの『黄金の大黒』が良かった。高座に落ち着きがあるし、自然と笑いが取れる。頼もしい二ツ目だ。

        この夜の深夜寄席は、4人ともかなりレベルが高かった。いい気分になって帰途についた。


January.5,2008 外は寒いが、プークは熱い

1月3日 新作落語初笑い大会 (プーク人形劇場)

        前座さんは鈴々舎やえ馬。短い新作を二席、ひとつは弁護士事務所にアルバイトに入った男の噺。もうひとつが、クルマで初デートしようとした男のカーナビの噺。元気がいい話し方が好印象。頑張ってね。

        三遊亭ぬう生を聴くのは久しぶりだ。どうも私が聴いていなかったうちに、ホスト・クラブのホストの噺をいくつも作っているらしい。最近売上が落ちているホストクラブ[ロミオ]。どうしたら売上が上げられるだろうと、店長はホストのひとり東大出のガリレオに相談を持ちかける。ガリレオは独自の座敷童子理論を持っていて、流行っている店は座敷童子がいるからで、その店から座敷童子を連れてくればいいと言い出す噺『ホスト座敷童子』。いやあ、これが面白かった。ぬう生凄いよ! どうも去年作ったものらしくて、偽装、内部告発といった時事ネタがヒントになっているようだが、これは結構普遍なテーマだから、これからも使っていける噺だ。うーん、もっともっと、ぬう生のホスト噺が聴きたい!

        「男女の出会いは急に来るものでものでして」と桂花丸『相合傘』に入った。恋人のいない高校生の男の子、母親に雨が降るから傘を持って出るように言われる。学校帰りに雨が降り出す。そこへ妙齢なお姉さんが、傘に入れてくれないかと呼びかけてくる。週刊誌の『女にもてる10の方法』という記事を読んでいた高校生は、この女性に話しかけるが・・・。週刊誌の前振りと失敗パターンが落語の王道。ラスト、バックで森高千里の『雨』が流れるアイデアは効果的だ。

        「沢尻エリカは、沢尻会という仲間を持っていてよく飲み歩いているらしい。でもあれだけ稼いでいるにもかかわらず、奢ることはないそうです。『お勘定は?』と聞かれると『別に』」 立川談笑の噺はいつも誰かかに監視されているという強迫観念を持った男が、街でそんな人を守る会の者だと言われ、ここに行きなさいと渡されたカードのところに行くと、そこは精神病院。ついに男は入院させられてしまうが・・・。ここからの展開が、それこそあっと言うもので、それこそ昔の実験落語会当時を思わせるアイデアに向う。そして最後はそれこそサプライズ!!

        三遊亭白鳥は、去年聴くことができなかった『人生掛け取り劇場』を演ってくれた。これだけでも儲けもの。『任侠流山動物園』 『雨のベルサイユ』と続くシリーズのエピソード1に当るもの。市馬、喬太郎と演った『掛け取り』競演で、白鳥は、か・け・と・りという文字と、大晦日に借金の取立てにやってくる噺ということだけを手がかりに、まったく別の噺を作り上げた。借金を抱えた上野動物園のアライグマのところにやってきたのは一羽の大きな鳥(満員電車→コンドルというギャグが可笑しい)。借金返済を迫るコンドルの前に立ち塞がったのは、このシリーズの主役豚次。男気溢れた豚次の活躍を、白鳥は怒涛のギャグとストーリー展開で聴かせた。そのスピードとほとばしる熱気は、今の新作落語家の中でもトップを行くだろう。

        林家彦いちは、大晦日K−1の三崎和雄、秋山成勲戦の模様を熱く語って、『保母さんの逆襲』。こちらも熱い。
        柳家小ゑんが、「歌舞伎なんて嫌いだ」と、歌舞伎を笑い飛ばしてみせて、「きょうはもうわかる人だけがわかればいいという噺を演ります」と始めたのが『アキバぞめき』。電気少年から家電会社を立ち上げ、今や大手家電メーカーの会長にまでなった男が、今の秋葉原を見て倒れてしまう。電気少年の街だったはずの秋葉原が、今やメイド喫茶とオタクの街になってしまっているのにびっくりしてしまったからだ。病院に担ぎ込まれた会長のために、社員たちは倉庫の2階に昔の秋葉原を再現した街を作り上げる。古典の『二階ぞめき』をヒントに作られたものだが、電気少年だった小ゑんの薀蓄と怒りが爆発する力作だ。懐かしい電化製品の数々に、こちらも興奮してくる。それだけじゃない。今はなくなってしまった隣接していたやっちゃば(ここには旨い食堂があったのだ)や、鉄道博物館にまで触れてくれる。なんだか小ゑんと一緒に昔の秋葉原を思い出していると、『ALWAYS 三丁目の夕日』を見たときのように、いろいろと個人的な思い出が甦ってくる。

        この日の出演者は本当にみんな熱演だった。その熱気に当てられて家路に着く。翌日は仕事だというのに妙に興奮が収まらなかったぞ。


January.3,2008 円丈の老人ものに変化

1月2日 新作落語初笑い大会 (プーク人形劇場)

        前座さんからと思っていたら、いきなり林家しん平。なんでもこれから家で新年会があるそうで、先の出番になったそう。去年離婚した小朝と泰葉の馴れ初めの裏話をマクラに、『仮面ライダーのゆうつ』。ショッカー退治に50歳を過ぎてもやっきになっている本郷猛こと仮面ライダー。ラーメン屋で地道に働いているショッカー達に説教されてハローワークへ行って就職口を捜すが、50歳過ぎの男にはなかなか仕事が見つからない。なんとも悲しい話だなあ。

        ここで本当の前座さん、三遊亭たん丈。道で倒れて足から血を流している女性を介抱しようとする男。近くに知っている店があるから、そこへ連れて行ってくれと女性に言われて言われて一緒にその店に行くと・・・という噺。

        春風亭栄助は、二席。『落語家インタビュー』『乗り突っ込み・浮世根問』。以前聴いた『落語家インタビュー』は『時そば』だったけど、今回は『子ほめ』。ふうん、いろいろバージョンがあるんだ。

        古今亭錦之輔は去年11月に『錦マニ・バンデミック』でネタ下ろしした『バクダン』。これで聴くのは2回目だが、あらためて聴くと、これはなかなか面白い。ネタ振りのようにみえる導入部から、噺がいきなり錦之輔ワールドに入り込む中段、そして昔昔亭桃太郎の結婚ネタシリーズを思わせるクライマックスと噺が展開していく妙が、たまらなくいい。

        夢月亭清麿『時の過ぎ行くままに』。沢田研二じゃないよ。どうも清麿のイメージするのは、ボギーの『カサブランカ』、『As Time Goes By』の方ね。ハードボイルドを気取った男が横浜のバーに入ると、女性がひとりカウンターでブランデーを飲んでいる。学生や佐田啓二似の気障な男が彼女に話しかけるが、あっさりと振られてしまう。そしていよいよ男の番だ。なんだか先に出た、たん丈の噺と被っている気もするのだけど、まさに清麿ワールド。

        三遊亭丈二『SMの世界』。川から流れてきた大きな蝋燭。おじいさんとおばあさんが割ってみると中から元気な男の子。この子にM太郎という名前をつけると、大きくなってサドヶ島にサド退治に行くと言い出す。M&Mチョコを腰に下げて歩いていくと、首輪をつけて四つんばいになった犬男や、猿ぐつわをされた男、タブロイド紙にエロキジを書いている男などが現れる。いざサドヶ島へ・・・って、快楽亭ブラックがネタにしそうな噺。これをあの二枚目の丈二が演るから驚き。演って悪くはないんだけど、ううう、丈二に対するイメージが。

        トリの三遊亭円丈は、去年の夏にネタ下ろしした『結婚センター5080』。50代から80代を対象にする熟年結婚センターにやってきた102歳の男。年上の女性と結婚したいと言う。コンピューターで登録メンバーを検索してもらうと、鶴や亀ばかりが出てくる。動物を排除して検索しなおすと今度は樹齢230年の松。このへんがバカに可笑しくてゲタゲタ笑ってしまった。そしてついに105歳の登録女性を発見して、焼き場でデートすると・・・。最近、円丈は老人を主人公にした落語をよく作るが、なんとも暗いイメージが付きまとっていた。だがこれは、それら一連の老人ものの中では突き抜けている。なんとも明るいのだ。ラストもあっけない形で迎えるのだが、それがオチに繋がるという構成。こういうのを待っていたのだ。62歳の円丈、明るい老人噺に光が見えてきた。


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