March.28,2008 喬太郎v.s.いっこく堂ガチンコ勝負

3月20日 YEBISU亭 (恵比寿ザ・ガーデンルーム)

        柳家喬太郎一席目は、『擬宝珠』。れっきとした古典だが、金属を舐めるのが好きな男の噺なんて、よくぞ昔の人が作ったものだ。まるで現代の新作派落語家が作ったもののよう。カレーライスを食べるときのスプーンが口に当る感触が好きという説明はうまい。私など逆にあの金属のスプーンが口に入る感覚が好きではないのだが。

        いっこく堂のファースト・ステージは、吉助氏(キチ・ジョージ)とカルロス・セニョール・田吾作の二体の人形を使った腹話術。ムスッとした助氏と、デレッとしたカルロスの対照が面白い。

        いささか乱暴とも思える司会ぶりの、まあくまさことのトークでは、喬太郎といっこく堂が同年代とのことで盛り上がる。ムーディー歌謡、70年代後半当時のアイドル歌手の歌が次々とふたりの口から歌われ、客席も唖然。喬太郎が作った社歌『福屋書店社員ブルース』が聴けたのも儲けもの(笑)。学生時代に『笑ってる場合ですよ!』の根暗大会に偶然ふたりとも出演していたことが明らかにされたのもハプニング。

        いっこく堂のセカンド・ステージは、気が弱い目覚まし時計、喋る電子レンジ、地球に優しい洗濯機、堅苦しいカーナビ、などのネタが続々。

        柳家喬太郎二席目は『ハワイの雪』。喬太郎独特のエキセントリックな登場人物の造形でどうなるものやと思うと、それがラストで涙に持っていくし、たたかな噺だ。喬太郎もここぞというときに出してくる勝負噺。気合入っていたなあ。同世代同士負けられないという気持だったのか?


March.15,2008 春が来た

3月9日 鈴本演芸場3月上席夜の部

        仲入り時間からの割引料金2000円になるのを待って入場。仲入りを区切りにして帰る人の群れに逆行するように客席に向かう。中トリの正蔵を聴けばいいという人が多かったのか? これからがいいのにねえ。それでも残っている人も多い。空席を見つけてそこに座る。

        柳家小菊は先月に続いて『梅は咲いたか』から。この時期はこれから入るんだな。都々逸をいくつかと、そろそろ春場所ということで『櫓太鼓の曲弾き』まで。

        柳家喬太郎『ほんとうのこというと』だ。久しぶりだなあ、これ聴くの。自分の書いたものを調べたらなんと6年ぶりか。彼女を家に連れて行って家族に紹介するというテーマなのだが、喬太郎の手にかかるとこういう噺になるのかという展開ぶりが面白い。

        紙切りの林家正楽。お客さんからの注文は、土俵入り、柳家喬太郎、お花見、らくだ。らくだは「動物のですか? 人間のですか?」と問い返して動物のらくだを。ひとこぶらくだが2頭、背景にピラミット。

        トリは柳家さん喬『唐茄子屋政談』。夏の噺だが、若旦那が吉原田圃にさしかかったときに楽しかった花魁とのひと時を回想する場面が冬。ここが好きなんだなあ。「若旦那、鍋でもとろうか」と言う花魁。「・・・口の中でしらたきが結ばれた」なんて、う〜ん色っぽい!

        追い出し太鼓を背に外に出ると、もう陽気は暖かい。春なんだなあ。


March.4,2008 感情の豹変ぶりが楽しい遊雀の落語

3月1日 第346回花形演芸会 (国立演芸場)

        開口一番の前座さんは橘ノ美香『狸の札』。頑張ってね。

        「メタボな噺家の間でもビリー・ザ・ブート・キャンプが一時期流行まして、それでもキツイんで続かないんですね。そんな連中がみんな今ではかえってリバウンドしてしまってパンパンになってしまっている。ビリー・バンバン」 柳家初花はスレンダー・シェイバーの話を持ってきて、いよいよ「今から私は運動不足を解消するためにこの話をします」と『反対車』。半年前にも聴いたけれど、例のスレンダー・シェイバーが今回も登場。このサゲはオリジナルかな?

        「先週の爆弾低気圧の日に、湯島天神の梅まつりで野外で演りました。突風が吹いてきて、なんとこの釈台が飛ばされた。拾ってきて手で押さえながら演ったんですが、手が塞がっていて張り扇が叩けない」 一龍斎貞橘の講談は槍の権三の話、『笹野名槍伝 海賊退治』 ばったばったと海賊を倒す派手な部分だ。

        鏡味正二郎の太神楽。おや、最初の皿回しで3回続けて皿を落としてしまう。「これはやらなかったことで」と不安な気持になったが、そのあとの出刃包丁を使った皿回しは見事に決まった。最初に不安感を募ったほうがハラハラして面白い。何しろ正二郎の芸は安定しているからねえ。

        林家彦いちは、いつも出囃子が鳴ると気を溜めて一気に高座に飛び出してくる。長良川河口堰反対運動で河原で一席演った話や飛行場カウンターでの出来事などをマクラにしていると、客席から『蘇民祭!』と声がかかる。リクエストに答えて蘇民祭に参加してきた顛末のさわりを。ネタの『厩火事』になかなか入れない(笑)。

        「花形へ出ると、私はいつもテレビによく出ている人のあとなんです。爆笑問題、ホリ、ユリオカ超特急。演りにくかったんですが、今回は彦いちさんのあとなんでホッとしていたら、蘇民祭でしょ。楽屋ではみんなでスレンダー・シェイバーをつけてみたり、彦いちさんに蘇民祭の話を聞いたり・・・その話をそのまま高座でも演ってる」 三遊亭円馬『蛙茶番』。フンドシのネタが彦いちの蘇民祭と被るなあ(笑)。


        柳家紫文の長谷川平蔵市中見回り日記は、材木屋、葬儀屋、綿屋、相撲取り、漁師。大岡越前の葬儀屋篇、それに忠臣蔵から天ぷら篇。

        トリは三遊亭遊雀『御神酒徳利』。遊雀のこの噺の面白さは何といってもキャラクターの豹変ぶり。徳利を見つけて得意になって酔っぱらっている善六が、大阪へ来てくれと言われて突然に素面になる様子。その顛末を女房に話して弱りきっていると、女房が「うわっはっはー」と笑ったかと思った次の瞬間に「行っといでよ」と放つ一言。神奈川宿の宿屋で失せ物を占いで探して欲しいと頼まれて、インチキ占いがバレてはまずいと逃げようとしている善六が、忍んで来る女中にアタフタしたと表情を浮かべたと思えば、事情を聞いて一変するといったコロリコロリと変わる様。遊雀のサゲは前半のしっかり者の女房がうまく描かれていないと決まらないサゲなのだが、それを見事に演りきってしまうのが凄いところ。長講40分がまるで長く感じなかった。


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