October.18,2008 昼の部だけど、今夜もありがとう
10月11日 鈴本演芸場昼の部
鈴本近くの居酒屋のランチを食べて、鈴本演芸場に入ればもう前座さんが始まっていた。三遊亭たん丈で『出来心』。頑張ってね。
春風亭一之輔の『初天神』は、子供の方が一枚上っていう噺。「おとうちゃんに、あれ買ってくれ、これ買ってくれなんて言わない、男と男の約束だったよな」 「私、女」 「そんなわけないだろ!」。通行人まで巻き込んで、まんまと飴屋の前に父親を連れて行くと、店主は子供に向って「いい腕だな」。団子屋を見つければ、また父親を丸め込む。団子屋の店主、子供に「グッジョブ!」
一之輔が高座を降りたところで、楽屋にダッシュする。楽屋のドアを開けるとちょうど一之輔さんの姿があった。来月の『人形町で「お富与三郎」を聴く会』のゲストで出てもらうことにしていたのだが、直接会って挨拶するのはこれが始めてになってしまっていたのだ。私の名刺、会のチラシ、店までの地図、これまでのネタ帳のコピーを手渡し、挨拶をして客席に戻る。
高座では松旭斎美智、美登のマジックが始まっていた。美智が空っぽの袋の中から次々とキャラメルを取り出しては美登に向って投げ、美登はそれをバドミントンのラケットで客席に打ち返す。「気持ちのプレゼントです」。客席がキャラメル一粒で沸くこと沸くこと。前座さんを捕まえて、前座さんいじりも。「お名前は?」 「林家たい木です」 「誰のお弟子さん?」 「木久扇師匠です」 「大学はどこを出たの?」 「専門学校です」 「へえー、どんなことを学んでいたの?」 「よしもと」 ははあ、お笑いの専門学校から落語会へ。エリート・コース? マジックのあとは、ふたりで『かっぽれ』を踊る。
ここでお客さんがドッと増え、お茶子さんが場内整理に大わらわ。この日も客席は満員だ。
「今年のノーベル賞は日本人が4人も受賞しまして、うれしいですねえ。ああ、オレにも日本人の血が流れているんだ。頭がいいんだと思うんですがね、その4人の受賞者の名前がどうしても憶えられない」。橘家円太郎は『たぬきの札』。
おおっ、三遊亭金馬は『四人ぐせ』だ。手で目を擦る癖のある人、指で鼻の下を擦る癖のある人、袖わ引っ張りながら話す癖のある人、「こいつはいい」と手を叩く癖のある人の四人が、それぞれの癖をやったら罰金を払うという賭けをやる噺。金馬が実に楽しそうに演っている。その顔を観ているだけでこっちも楽しくなるのだ。
大瀬ゆめじ・うたじの漫才『平行線・箸』。ステーキハウスへ行ったことから始まるお馴染みの漫才だが、新しいギャグも入っている。「その店のメニューを見ると、松坂、松坂、松坂、松坂、松坂・・・」 「松坂ばっかりだね」 「その店、レッドソックスのファンなんだ」。サゲのキーワードになる群馬県が出てきたところで、ザワザワと笑いが起こる。どうやらサゲを言わなくてもわかってしまった人が多いらしい。群馬の出身者が多いのかな。
「差し歯の忘れ物があるそうです。無くされた方は木戸銭を払った窓口までおいでください。あの窓口をモギリといいます。モギリよ今夜もありがとう」。春風亭正朝はスーパースター与太郎の出てくる『金明竹』。
五街道雲助は『粗忽の釘』。雲助のサゲは通常のものと少し違っていて、「お宅ではあそこに箒をかけますか?」というもの。うふふ、これも可笑しい。
三遊亭小円歌の三味線漫談。二上がりにして高座に上がったらしい。一曲弾いてから二上がりの出囃子の代表曲『老松』を弾いてみせる。志ん朝師匠の出囃子だ。『老松』に乗って志ん朝師匠が高座に上がってくる姿が甦ってくる。本調子に直して『一丁入り』。こちらは志ん生師匠。「重々しいでしょ」。三平の出囃子『祭囃子』を弾いてみせ「にぎやかでしょ。次はウチの師匠演歌の出囃子」 円歌の出囃子は『二つ巴』だ。「どうです? 軽いでしょ。人間も軽いから」 シメは『見世物小屋』。
春風亭一朝は座布団に座るなり、「いいですなあ、小円歌さん。まだ小円歌さんの香りがこのへんに残っていますよ。楽屋口で高座を見ていて、『ああ、次にあのあとに座れるのか』と思っていたら、余計な奴が座布団ひっくり返していきやがった」と、楽屋の前座をキッと睨みつけて『天災』へ。
ホームラン。勘太郎、たにし共に50代コンビの漫才だ。このところテレビで20代、30代の漫才ばかり見せられていると、ホームランにはほっとする。勘太郎が「私は本当は漫才師になりたかったわけではなくて、歌手になりたくて広島から出てきたんだよ」と言えば、たにしが「その顔で、ワハハハハ」と切り返せば、勘太郎は「歌は顔じゃないよ」と返す。いいなあ、ゆったりした時間が流れていく。
古今亭志ん輔は、おおっ、『夕立勘五郎』だ。古今亭のお家芸。さすがの一言。
柳家はん治は『ぼやき居酒屋』。この噺、昔の歌謡曲について語る部分がある。『夜霧よ今夜もありがとう』に関して「御丁寧なことに夜霧にまでお礼いったんですからね」って、モギリにお礼に行った人もいるんだよなあ、きっと(笑)。
太神楽の鏡味仙三郎社中は、仙三と仙花のふたり。仙三の傘、仙花の五階茶碗。仙三のバチ。そしてふたりで花笠の取り分け。
トリは昨年名跡を継いだ春風亭柳朝。「14年前、この鈴本十月中席から前座入りしました。今回席亭の御計らいでこうしてトリを取らせていただきました」と感無量。東西の銭湯ではケロリン(風呂桶)のサイズが違うという知識を披露してくれたり、有名人の墓の話などをマクラにして楽しませてくれる。「ハンフリー・ボガードの墓には墓碑銘が記されています。どんな墓碑銘かというと『オレに用があるときは口笛を吹いてくれ』というもの。それを聞いて立川談志師匠も自分の墓にも墓碑銘を書いてくれと言ったそうでして、どんな墓碑銘かというと、『オレに用があるときは事務所を通してくれ』」 噺は『不動坊』。先代の流れるような口調を受け継いだ感のある、きれいな『不動坊』だ。吉公に嫉妬した長屋連中にも傍から聞いているとそんなにドロドロとした嫉妬心が感じられず、後味がいい。
このまま夜の部も残ろうか・・・あっ、鈴本って昼夜入れ替え制だったんだっけ。
October.11,2008 残していきたい『福禄寿』
10月4日 第五回東西師弟笑いの喬演 (国立演芸場)
六本木俳優座を出て、青山一丁目まで歩く。7月に骨折してしまった左足も、まだ少し歩き方がぎこちないがさほど不自由なく歩行が可能になっている。途中、東京ミッドタウンの前を通る。元防衛庁の敷地跡に建てられたこの建造物を見るのは初めて。六本木も変わったなあ。青山一丁目から地下鉄で半蔵門へ。地上へ出たところにある書店で何冊か買物。骨折してあまり外に出歩けなかったときには、Amazonドットコムばかり使っていた。Amazonも便利だが、こうやって書棚に並んでいる本や平積みになっている本を手にとって、買おうかどうしようか躊躇するというのも楽しいのだ。
国立演芸場は満員御礼の札がかかっている。ロビーに入ると、あちらこちらで知人の姿が。挨拶など交わしているうちに開演時間。あわてて席に着く。
開口一番前座さんは柳家小ぞうで『初天神』。頑張ってね。
笑福亭三喬、柳家喬太郎の二人会は2年前から行われていたが、東京で行われるのはこれが二度目。しかも今回はふたりの師匠も加わるという豪華版だ。東京ではこれが2回目。前回は去年の9月だった。「去年、国立演芸場の近くまで来ましたら、ヘリは飛んでいるは報道の車は走り回るは、喬太郎人気は凄いものだと思いましたが、安倍総理の辞任だったんですね。今年もやってきたら、また福田総理が辞任してました」 笑福亭三喬は『あみだ池』。東京に移されて『新聞記事』となった元の噺。『新聞記事』はよく耳にしているが『あみだ池』はなかなか聴けないでいた。こうやって聴いてみると、『あみだ池』が米屋に入った殺人強盗の噺が、東京では天ぷら屋になったわけで、このへんが東京落語らしいし。『あみだ池』の首を切り落としてというくだりは、東京人に受けないと思ったんだろうなあと思う。東京に移すに当りの工夫が感じられて面白い。
柳家さん喬は『福禄寿』。「円生師匠が東横落語会で『福禄寿』をかけられたのを袖で聴いていまして感動したのを憶えております。師匠の小さんに『いい噺ですね』と言ったら、『ああ、いい噺だ』とおっしゃたんですが、どうもよく知らなかったらしい」 こういう噺は残していかなければならないと始まった『福禄寿』。ほんと、いい噺なのだ。ただ地味なのだ。そしてなんか説教くさいところがあり、これは今ではさん喬くらいしか演り手がいないのではないか。たまに聴くにはいいが、何回も聴きたいとは思わないなあ(笑)。
柳家喬太郎の持ち時間は30分。ネタは『派出所ビーナス』と出ているから、これはマクラたっぷりか。地方に営業に行った話やら、車内で見かけた柿喰う男の話のマクラで爆笑を取り、池袋の三越が無くなるという話題からネタに入る。一時期、私は喬太郎というと『派出所ビーナス』に当るという時期があったのだが、ここしばらくは遭遇していなかった。こうやって久しぶりに聴いてみると、最後の方は5人の登場人物が派出所に同時にいるという設定で、これは結構たいへんな技術がいる噺だという思いがしてきた。
トリの笑福亭松喬は『質屋蔵』。さん喬がしんみりとさせる『福禄寿』を演ったのを意識していて「上方では、笑いがない噺は受けませんので」とネタに入る。後半は、はめものも入り賑やかな怪談噺。上方落語は怪談も陽気だ。
帰りにも、知った顔をあちこちで見かけ挨拶を交わす。あらあら、地下鉄のホームでも、地下鉄の車内でも。やっぱり落語会通いは楽しい。
October.5,2008 今のお笑いブームはこの会があってこそ
10月4日 ラ・ママ新人コント大会250回スペシャル20年越えちゃいました (俳優座劇場)
今のお笑いブームを支えてきていたのは渡辺正行が行っていた渋谷ラ・ママの新人コント大会によるものが大きいと思っていた。しかし私は一度も行っていないのだが。毎月最終金曜日の夜では私は行かれる環境にない。その250回記念イベントがあると知って土曜の昼に出かけた。客席は若い女性客でいっぱい。
準一本ネタコーナー
Hey!たくちゃん・・・ものまね。基本は吉田照美らしい。『サザエさん』のアナゴさんとマスオさんの会話、『笑点』の好楽と昇太って、観てない人にはわからないだろうなあ。
鬼ヶ島・・・三人組みの医者コント。医者と看護婦、それに医者の子供という設定。R18指定(笑)。
ラバーガール・・・電報受付センターコント。このコンビはテレビでよくネタを観る。面白いなあと思っていたがナマで観るのは初めて。突っ込み役の飛永の冷静な抑揚が可笑しい。
風藤松原・・・オカマみたいな口調で話す漫才。このコンビもテレビで観て知っていた。「やだね〜」という、やだね〜ネタが続いていく。「マクドナルドが半額セールやってるよ」 「0円のスマイルも半笑いだよ」 「やだねえ〜」
THE GEESE・・・卒業式のフォーメーション。このシュールなコントをやるコンビは私の大のお気に入り。うまく作られたオチに向うこのネタは、ほどほどのシュールさが生かされていて傑作だと思う。
ゲストコーナー
うっちゃんなんちゃん。ラ・ママの思い出から、突然渡辺のリクエストでネタに入る。『ユニットバス』『ミニスカート三題』。久しぶりのネタなので戸惑いながらのふたりが可笑しい。
一本ネタコーナー
流れ星・・・ラジオ体操を題材にした漫才。このコンビもテレビで何回か観ている。安定した実力漫才。
火災報知機・・・田舎のおじさんが美容院に行くコント。ボケ役の高松の存在感が凄い。
磁石・・・このコンビもよくテレビで目にしている。結婚式スピーチの漫才。
キング・オブ・コメディ・・・レストランのアルバイトコント。このネタ、テレビで観たことがある。最近のコントではよくあるパターンだが、テンポもいいしよく練られている。
エレキコミック・・・ウンコをもらした学生のコント。ウンコを持ち出したところでもう反則技だろ(笑)。
バカリズム・・・ピン芸。根本という男がやったことが可笑しいという話を他人に語ろうとするのだがうまくいかないというひとりコント。春風亭百枝あたりと共通する感覚か。
アンジャッシュ・・・『結婚相手は親友の母』。テレビで何回か観たネタだが、よく出来ているので何度観ても面白い。
コーラスライン
いわゆるゴングショー・コーナー。つまらないと思った審査員が×印を出して5人になると退場させられる。ゲストは東ちづる。
ヴィンテージ・・・勢いがある漫才・・・だけど(笑)。
関あっし・・・ピン芸。絵に描いた着替えのひとりコント。ついつい先が知りたくて観てしまう。
小糸ちくわ・・・ピン芸。出てきた途端に×が並び、ネタに入る前に退場(笑)。
ダブルネーム・・・エグザイルのものまね。上手いけど、他のネタあるのかなあ。
オーノ泰広・・・ピン芸。チョイ悪おやじネタ。芸人仲間から×印が出て退場。
阿佐ヶ谷姉妹・・・漫才・・・だと思う(笑)。シュールなのかなんなのかわからないまま、×印がひとつも出ないまま最後までいってしまう。
川村エミコ・・・ピン芸。女の恨み節ネタ。「どろんどろん。どろんどろん」 ううう、わからん。
ザ・ゴールデンゴールデン・・・三人組みコント。銀行強盗コント。これもテレビで観た。×印で途中退場。人質になるOL役の北沢のキャラが濃い(笑)。
合同コント
渡辺正行、エレキコミック、キングオブコメディー、アンジャッシュらによる刑事コント。渡辺のゴシップをネタにしたコントに渡辺のハリセンが飛びまくる。
終わってみれば約3時間。笑い疲れた感じもあるけど、楽しかったなあ。