March.29,2009 座談が上手いふたり

3月20日 第13回翁庵寄席 も〜大変なんすから (人形町翁庵)

        3月の明治座『三平物語』に小宮孝泰さんが出演するという情報を去年いただいた。公演日を見ると3月19日以降は夜の部が全て休演。なぜかと思ったら二代目三平襲名興行が鈴本演芸場で始まるからで、一門からのゲスト出演が困難になるからという理由らしい。もっとも蓋を開けてみれば、鈴本の披露興行は異例の昼の部興行。これじゃあ結果的に夜の部も出来たんじゃないかという気がするのだが。まあ、こちらとしては都合がいい。小宮さんに夜の部休演の日を使って翁庵寄席に出演してもらえばいいのだから。

        「共演はまた喬太郎師匠にしますか?」と問い合わせると、「今度は他の人とやりたい。彦いちさんなんてどう?」という答えが返ってきた。さっそく林家彦いち師匠に問い合わせると、20日なら空いているとの答え。では春の翁庵寄席は3月20日に決定。タイトルはどうしようかと考えた。3月20日は小宮さんが出演している映画『釣りキチ三平』の封切り日でもある。それに明治座『三平物語』出演中。彦いち師匠は林家である。まんざら関係ないわけでもない。先代三平の口癖から取りたいと思った。「身体だけは大切にしてください」 「ど〜もすいません」 ここはやっぱり「も〜大変なんすから」でしょ。何が大変なのかわからないけどさ。結果的には三平の話は何も出ないという落語会になってしまったのだが。

        小宮さんは早くからネタを『幇間腹』と決めていて、翁庵寄席の前に方々で盛んに『幇間腹』をかけて練っている。それが3月に入ってから、「もう一席演っていい?」と連絡してきた。「ネタ下ろしになるけど、『つる』を演ってみたいんだ」 これに反対するわけがない。いいですよ、小宮さん。どんどんネタ下ろししてください。

        今回は久しぶりに下座にお囃子さんが入った。スタッフが買って出てくれたのだ。やっぱりナマのお囃子は迫力が違う。早めに楽屋入りして出囃子の稽古が始まる。明治座昼の部を終えた小宮さんも早めに楽屋入り。彦いち師匠も地方戻りの足で楽屋入りだ。彦いち師匠はこれで3年ぶり二回目の出演。いつもながら上機嫌の様子。楽しい落語会になりそうな予感がする。

        お客さん満員。定刻を5分押しで開演。開口一番は立つ家扇治『堀の内』。去年、『茶の湯』を15分で演りますと言って、どうやったって『茶の湯』は15分では収まらないだろうと思ったら、「ははあ、ここで切るのか」という見事な終わり方をしたのが印象に残っている。今回の『堀の内』も思いもよらないところで切っていた。ふうん、なるほど。

        小宮孝泰一席目は『幇間腹』。小宮さんの『幇間腹』を聴くのは二回目だが、以前よりも落ち着きが出てきた。笑いの要素も増えていて、いやはや堂々たるもの。役者目線でしか出来ない工夫もたくさんあって、これは小宮さんの十八番になりそう。

        林家彦いちはたっぷりのマクラから『権助魚』。本当はこういう噺、前に回って観たいのだよねえ。彦いちの落語は顔芸とでもいうものが武器だ。絶対に声だけではわからない顔の表情で客を引きつける噺家なのだから。それでも、今きっとこんな顔をしているなあと想像する楽しみはあるのだけど。後幕の裏で私は何回も爆笑していた。

        仲入り後、小宮孝泰二席目。ネタ下ろしの『つる』。これも前で観たかったなあ。生半可に憶えたつるの名前の由来を人に聞かせようとしてうまくいかない男の表情は、きっと小宮さんなら、こんな表情をするのだろうなあと頭の中で想像する。

        林家彦いちの二席目は、お得意の『睨み合い』。JR車内での出来事を、繰り返しによって客を引っ張って引っ張って、「どうなるんだろう」という興味から、さらに引っ張ってストーンと落とす。これは彦いちが作り出した地噺の手法で、この人しか出来ないものだ。

        クロージングトークは小宮さんと彦いち師匠による釣りの話。小宮さんが彦いち師匠を相手に選んだ理由のひとつが、座談の名手であること。案外、このトークがやりたかったのかも。さすがに釣り好きでもあり座談の上手いふたり、釣りに興味のないお客さんでも夢中にさせる話術を持っている。「5分くらいで終るよ」と言っていたのが15分に。もっと喋りたいといったところだったけど、時間の関係で打ち切り。

        お客さんにおそばをお出しして、後片付けをしてから、近所の居酒屋で打ち上げ。今回は打ち上げ参加者の数が多い。とても楽しい宴会となった。さて、秋は何を考えているかというと・・・。


March,24,2009 裏ポカスカジャン

3月15日 色物の逆襲2 ポカスカジャン (シアター711)

        シアター711こけら落とし公演、下北沢演芸祭。発売日にインターネットでチケットぴあにアクセスして取ろうとしたのだが、取れたのは最初にアクセスしたこの公演のみ。次に他の公演を取ろうとしたのだけれど、全て予定枚数終了。まっ、いいか。ポカスカジャンだけ見られれば。

        シアター711は、映画館だったところを本多グループが買い取って芝居小屋として運営を始めるとのこと。そのオープニング・イベントの一環の企画。だから、この手の小劇場としてはいい椅子なので楽だ。興味を引く劇団が出たら是非とも来たいという気にさせられる。

        ポカスカジャン、出てくるなりネタに入らずに二代目林家三平の襲名披露パーティの様子を三人で話し出す。危ないトークもチラホラ(笑)。

        まずは短いネタ。市馬と一緒に演ったこともあるという『歌舞伎 ずいずいずっころばし』。『悲しい酒 つぼ八バージョン』 『北の宿から アフリカ民族音楽バージョン』 『笑点バイ・ミー』(スタンド・バイ・ミーの替歌) 『おら東京さ行ぐだボサ』 『津軽ボサ』 『サーフィン与作』(ビーチボーイズ風『与作』) 『函館の人 ジプシーキングスバージョン』 『魚市場フラメンコ』 ここからは、ちょっと大きなネタ。久しぶりに見る『剣の舞 津軽三味線バージョン』(なぜか沖縄の三線使用)、そして名人シリーズ、『はぎ名人』 『吹き名人』 『あいくるしい名人』

        ゲストは清水宏。映画予告編シリーズ。『ハリウッド版ドラエもん』 『名古屋版ミッション・インパッシブル』 『沖縄版パイレーツ・オブ・カリビアン』 『ヒップホップ一休さん』

        ポカスカジャンに戻って、久しぶりに演るという『精神病ビートルズ・メドレー』というのが凄かった。これ、危ないネタだけど凄いと思う。エンディングは『さよならの歌』。

        営業ネタもいいけれど、こういうところで聴くポカスカジャンの密室芸ネタは、なんだか秘密クラブ的な危なさがあって面白いのだ。 


March.21,2009 圧巻!風間杜夫の三平の高座

3月14日 『三平物語』 (明治座)

        本来は春風亭小朝が演出・出演するはずだった公演。それが去年の小朝、泰葉の離婚騒動で白紙になってしまったという、曰く付きの公演。だからといって中止するわけにもいかなかったんだろう。

        物語は三平の二ツ目時代の話。一幕目は、やや単調でところどころ睡魔に襲われてしまった、それでも楽屋風景の場面で、三平役の風間杜夫が追い出し太鼓を叩くところにはびっくり。どうやらかなり稽古したようだ。

        二幕目の冒頭で、林家一門の日替わり応援出演コーナーがあった。この日の出演者、林家しゅう平、林家ライス・カレー子、林家ペタ子。林家しゅう平は名前だけは知っていたが落語を聴いた事がない。林家ライス・カレー子は漫才コンビとのことだが、初めて知る存在。しかもかなりの高齢者じゃん。林家ペタ子というのも初めて知った。どうやら落語家ではないらしい。ミュージシャン? 小噺と謎かけ。こういうの、お家芸とでもいうんだろうか。

        二幕目から物語が動き出す。話の中心は三平の浮気。原案が三平夫人の海老名香葉子。実体験なのだろうが、脚本と演出はそれを暗くならずにコミカルに描いていく。小宮孝泰の役は三平の弟子。三平は二ツ目でもう弟子を取っていたことになる。

        そして三幕目。他の噺家仲間からは三平の落語は落語じゃないとの批判される中、二ツ目でトリを任される。当時、落語協会にはふたりの二ツ目スターが存在した。三遊亭歌奴(現・円蔵)と林家三平。このふたりなら十分に客が呼べると判断した鈴本演芸場が、このふたりにトリを取らせることにした。まさに今から考えると「えーっ! そんなことがあったんだ」という思いがある。二ツ目で弟子を取る事といい、二ツ目でトリを取る事いい、今だったら到底考えられない、許されないことだろうと思う。圧巻はその三平の高座を風間杜夫が再現する場面。あとから聞いたら、これは脚本家がオリジナル台本で、それに風間杜夫が三平が実際にやっていた小噺などを散りばめて作ったものだという。もうそれこそ、三平が乗り移ったような高座。なんだか凄いものを見せられたという感じ。なんでも稽古中でも、この高座場面は長い事スタッフ、キャストに見せずにいたらしい。

        終演後、風間杜夫さんの楽屋へ行き挨拶。その後、小宮孝泰さんと居酒屋で話す。春の翁庵寄席まで、あと一週間。


March.19,2009 人間は優越感から逃れられないのか

3月8日 ポツドール
      『愛の渦』 (THEATER/TOPS)

        2006年の『夢の城』以来、ずーっと見続けてきた劇団ポツドール。その一作前の岸田國士戯曲賞受賞作品の再演。とにかく気になる劇団なものだから出版されている『愛の渦』の戯曲は読んでいた。活字で読む限りにおいては、それ以降に見た『恋の渦』 『激情』(再演) 『人間失格』 『顔よ』といった作品の方が台本としては出来がいいと思っていたのだが、なにしろ芝居というものは台本が全てではない。これをどう演出するかによって、かなりの違いがあるに違いない。

        いよいよ閉館になってしまうTHEATER/TOPS。劇団のセレクトがよくて数々の良質の芝居を見せていただいた。私にとってこれが最後の一本になる。

        話としては、どこか都心部のマンションの一室。乱交パーティの営業が行なわれている。そこにやってくきた5人の男と5人の女の話。といっても、ほとんどセックス目的の男女の話で、それ以上に物語が展開していくわけでもない。それでいて妙に目が離せなくなる芝居なのだ。

        男はみんな初めてこのパーティにやってきた者たち。女のひとりはほとんど毎日やってくる常連で、もうひとり二回目だという者、あとは初めての参加者。最初、参加者には気まずいムードが漂っている。即、誰彼構わずセックスに入るというわけでもなく、まずはお互いの探りあい。お笑いタレントの話題など、当たり障りのないことを話している。去年のM−1グランプリのこと(やっぱりNon−Styleではなくて、オードリーだろう)など。やがてカップルがひとりでき、ふたりでき、男と女は上にあるプレイルームに消えていく。プレイが進んでいくにつれ、参加者たちに優劣が生じてくるのがこの芝居の面白さで、勝ち組、負け組に別れていってしまうのが、この世の中を象徴しているようで面白いのだ。

        人間って、どうしても優劣をつけたがる。自分より劣っている人間を見ると優越感を感じ、差別化しようとする。ポツドールの芝居の底に流れているのは人間の優劣を付けたがる心情なのだと思う。それはセックスというテーマを見てはいけないものとすると同じように、優劣をつけたがる人間の本心も見てはいけないと思うだという心のブレーキが働くからなのかも知れない。無言劇『夢の城』でのひとりだけ相手にされない女だったり、『恋の渦』での不細工な女と出来てしまう男だったり、『激情』でのもろに差別だったりするわけだが、『顔よ』などは、人間の外観というもので優劣が生じてしまうという、もう見ていて居たたまれなくなることが語られていた。

        ひょっとして私がポツドールに惹かれてしまっているのは、テーマがセックスということよりも、人間が優劣という基準で差別しあっているという、見てはいけない部分に身を置きたがっているからなのかもしれない。ポツドールの芝居に出てくる人物たちは、ほとんどが、しょーもないとしか言えないやつら。そんなやつらを見て、どこか彼らに対して優越感を持っている自分がいるのが、またいたたまれなくなるのだが。


March.16,2009 ♪エーサオー 玄冶店

2月28日 人形町で『お富与三郎』を聴く会 第三回 玄冶店 (人形町 翁庵)

        こんな長い噺を六回に分けてなんて、お客さんはいらしてくださるんだろうかとの不安を抱えながらスタートした企画。一回目の『発端』は満員とはならなかったものの客席はほぼ埋まった。そして二回目からは満員の盛況。三回目は早いうちからの満員御礼となった。店内にある椅子で会場を作ると32席までしか用意できない。それで毎回、町会が持っているパイプ椅子を借りに行っていのだが、これだけ毎月のように落語会をやるようになってしまったので、思い切って折りたたみの椅子を買ってしまおうかと思い立った。

        しかし思いたったのが、会の前日。当日の朝、御徒町の多慶屋の家具館に出かけた。幸い、いい椅子が見つかった。従来のパイプ椅子よりも小柄で洒落ている。しかも何よりいいのがクッションが柔らかいことだ。パイプ椅子は長時間座っていると、そのクッションの悪さで尻が痛くなってしまうこと不満だったのだ。一脚約4000円。これを8脚購入するとなると、約32000円の出費。ええーい、買ってしまえ! レジに行きクレジットカードを出そうとするとレジには「クレジットカードは使えません」との文字。焦るが、現金をかき集めてみるとなんとか払える額があった。ふう、よかった。店員さんにタクシーに乗れる道路まで運んでもらい、タクシーのトランクに詰め込む。家まで着くと運転手さんに待ってもらって現金を取りに行く。

        5時過ぎに隅田川馬石師匠楽屋入り。三味線の師匠を連れて来ると馬石師匠が言っていたのだが、その師匠を見てびっくり。恩田えりさんではないか! うわー、感激! とにかく不思議な人としかいいようがないオーラを醸し出しているお囃子さんなのだ。普通のOLさんから24歳で初めて三味線を手にして、寄席のお囃子さんになってしまった人。お若いのにお着物が地味だと思ったら、着物は全て先輩から貰ったものだとか。

        開場時間を過ぎてからゲストの柳亭市馬師匠が楽屋入り。楽屋への階段を登る足取りが、ゆっくりゆっくり。二階にたどり着くと「よいしょ」とひと言。「この歳になるとねえ、辛いんだよ」とのことだったが、どうやらこの日、体調がかなりお悪いようだった。

        定刻開演。開口一番は立命亭八戒。八戒さんにしては短いマクラから『権助魚』へ。魚屋での魚選びが八戒さんらしく時事ネタをふんだんに盛り込んでいて爆笑もの。

        今回は、公にしていなかった出演者がもうひとり。バイオリン演歌の楽四季一生さん。今や演り手が少なくなったバイオリン演歌を継承している数少ない芸人さんだ。珍しいレパートリーは『男はつらいよ』のテーマ。う〜んそうかあ、今やこんな曲ももうバイオリン演歌となるのかあ。

        隅田川馬石の一席目は『鰻屋』。なんでこの噺をしたのかというと、傷だらけの鰻の名前が与三郎というクスグリがあるからだというのに、聴いていて気がついた。あとから、お客さんに、鰻を捕まえる所作が圧巻だったとのこと。観たかったなあ。

        柳亭市馬は、鹿芝居での馬石の様子を嘘か本当かわからないエピソードで茶化す。「みんなで記念写真を撮ろうということになったんですが、馬石旦那だけどこかにいなくなっちゃった。探したら楽屋で化粧し直していましたって出てきた。『船徳』の若旦那みたい。いやですねえ」 ネタは『雛鍔』。お節句まであと3日。いいネタをかけてくださいました。ありがたい、ありがたい。

        ここで仲入りなのだが、市馬師匠には無理を言って、春日八郎の『お富さん』を歌ってもらう。師匠、すみません。

        ここで時刻は7時30分。あと5分くらい休憩を入れようと思っていたら、馬石師匠と恩田えり師匠が下りてきた。「そろそろ、始めましょうか。尺が1時間近くありますので」 「ええーっ! そうなんですか!」 さっそく『お富与三郎 玄冶店』の開演だ。今までのあらましをざっと語ってから、いよいよ『玄冶店』の場。クライマツクスでは三味線のはめもの入りで、芝居調になる。その見事なこと! お客さんも満足している様子だ。

        外は寒いので、この夜は、たぬきそばをお出しする。

        たぬきそばだと、あとの片付けが楽。ウチアゲにも早く参加できた。恩田えり師匠の隣で、いろいろな話をうかがえたのがなによりの収穫。さあ、これで『お富与三郎』は折り返し点を迎えた。いよいよ与三郎は悪の道に入り込んでいく。本当に面白いのはこれからなのだ。


March.14,2008 今、勢いを感じるふたりの会

2月22日 居酒屋ライブ!談奈・きらり二人会 (代々木・ななかまど)

        半蔵門の国立演芸場から、代々木へ。インターネットに出ていた地図を頼りに歩くと、会場の居酒屋はすぐに見つかった。地下へ降りてみると、なかなか広いスペースの空間に立派な高座が作られていた。これだけの空間はうらやましいのひと言。木戸銭は2000円でワンドリンク付くという。地焼酎ダイニングとのことなので、焼酎のお湯割りをいただく。

        まずは、神田きらりが講談を初めて聴く人向けのマクラから、女流講談の代表作(?)『山内一豊 出世の馬揃え』で客を引き込む。

        客席後方に楽屋があり、きらりと入れ替わりに立川談奈が出てくる。「楽屋っていっても一畳か二畳の狭い空間なんです。ふたりでいるには気まずい感じでして。それに壁が薄いんでしょうか、隣のビルの地下から話し声がする。数人の女性の話し声なんですが、『きょうは道具を使う人が多かったわね』なんて声が聞こえてくる。気になってしょうがないんですが、(店長に)隣、何なんですか?」 「ダンス教室の更衣室です」 「ああ、なるほど。それで納得しました」 前田隣の葬式帰りにここへやってきたと、前田燐の思い出話をマクラに『近日息子』へ。

        神田きらりの二席目は『源平盛衰記 那須与一 扇の的』。私は、きらりさんの『寛永三馬術 誉れの梅花 愛宕山』が好きなのだが、やはりこういう動きのあるものの方がいいと思う。キリッと話に引き込む力は、他の女流講談と比較しても、決して負けていない。

        立川談奈の二席目もマクラに前田隣の話。臨終の報を聞いて入院先の病院での様子が細かに、ところどころ笑いを入れ、そしてしんみりと語られる。もうこれだけでいいのではないかと思えるほどだったが、そこから『ねずみ穴』へ。昼間の葬式の動揺が、ある意味この噺にうまく作用したのか、弟の口惜しさが妙に迫って来る。

        終演後、きらりさん、談奈さんと個別に話す。ご相談、ご相談。



March.8,2009 歌縛り

2月22日 第357回花形演芸会 (国立演芸場)

        開口一番の前座さんは古今亭志ん坊『子ほめ』。頑張ってね。

        このところヤホー検索ネタでブレイクした感のあるナイツ。サザン・オルスターズの出鱈目解説(ヤホーで検索したとは言わなかった)から入って、選挙演説のネタで盛り上げる。こういう普通の漫才の方が慌しくなくていい。選挙応援のとき用の歌を作ったと歌いだしたのが『世界でひとつの花』。替歌にするのだろうと思ったら塙は、最後まで歌いきってしまった。

        三遊亭王楽は桂三枝の『涙をこらえてカラオケを』。カラオケが好きだったおじいさんが死んで、遺族は焼香代わりに出席者が全員カラオケを一曲ずつ歌ういうネタ。葬式にはふさわしくない歌をチョイスしてしまうというおかしさを売りにしているわけだが、いささか一曲ずつが長く感じる。王楽が、ただ歌を歌いたいためにやってるネタじゃないの?(笑)。

        おかげで次に出てきた桃月庵白酒が、「きょうは歌縛りですか」と一曲歌いだす。「♪さらば地球よ 旅立つ船は 宇宙戦艦ヤマト〜」 ネタが『佐々木政談』とネタ出しされているので、佐々木功に引っ掛けたわけね。白酒は本当に子供が出てくる噺が絶品だ。

        紙切りの林家二楽も、出てきてクリスタルキングの『大都会』を歌ってみせたけど、どうせ後半の二楽劇場は歌をながすのだ。お客様の注文は『学芸会』 『浦島太郎』 『宝船』 『宇宙旅行』。お待ちかねのスライドショウ二楽劇場は、松山千春の『恋』と『大空と大地の中で』を流しての恋愛ドラマ。

        仲入り後はボカスカジャン。『夏をあきらめて サザエさんバージョン』 『星降る街角 冠婚葬祭バージョン』 『瀬戸の花嫁 十二支バージョン』 『お酌スキャット』 『精霊流し F1観戦バージョン』 『アリスの作ったアルプスの少女ハイジ』 『コブクロの大きな栗の木の下で』 『金八先生の歌う仮面ライダーの歌』 『長渕剛が歌うドラえもん絵描き歌』 『レット・イット・ビーかくれんぼ』。レパートリー豊富だよなあ、この連中。

        鏡味正二郎も出てきて、『あしたのジョー』のテーマ。五階茶碗、傘とやって、鍬に茶碗はグラスを乗せて回転させる曲芸。うふふ。

        トリの古今亭菊之丞も出てきて歌う。「♪晴れた空 そよぐ風〜」。『憧れのハワイ航路』、おいおい、懐メロかよ。そんな年齢じゃないでしょと思っていたら、マクラで市馬とカラオケで7時間半、サシで歌いあったことがあるという。好きなのね。ネタは『法事の茶』。よくほうじてから湯をかけると、会いたい見たいという人が現れるというお茶を手にした幇間が、若旦那の前でこの茶をほうじてみせるという噺なのだが、ようは菊之丞の物真似大会。三代目金馬から始まり、以降は高座へ上がるまでの携帯模写まで入れて八代目桂文楽、六代目三遊亭円生と八代目林家正蔵のリレー落語『真景累ヶ淵』 さらには現役の柳家さん喬、立川談志と爆笑の嵐だよ。

        それにしても、みんな歌好きだねえ。


March.7,2009 追い込まれた人間の可笑しさ

2月21日 三遊亭遊雀勉強会 如月会 (お江戸日本橋亭)

        予約段階で満員。当日立見覚悟の当日券が出るという盛況ぶりとのことで、予約は済ませてあったが早めに会場へ着いたら、もうすでに長蛇の列。寒い夜だけど並ぶ価値のある会だ。

        恒例の挨拶。「誕生日にカミサンに作ってもらいました」と、獅子座流星群をイメージしたという着物で現れた三遊亭遊雀。これまた、お客さんから教えてもらったという『みんな太郎』という本を取り出して、本の紹介。立川左談次の『読書日記』じゃないよ。麻生太郎が総理大臣になったのを当て込んで作られたらしい一冊。100人の太郎さんを集めた本とのことだが、遊雀の本名が畠山太郎なので、遊雀も載っているよとお客さんから教えられたとのこと。章が、モーレツ太郎、ロマンティック太郎、人気者太郎、ビックリ太郎、マイナー太郎に分けられているので、自分はひょっとしてマイナー太郎の章かと思ったら、人気者太郎に分けられていたと笑いを取る。著者がその人物のことをよく知らないで書いているので、遊雀の出囃子[粟餅]がなぜか勘違いされていて、粟餅が好きということになっている。「粟餅なんて食べたことない」という遊雀。インターネットで見ると京都に粟餅で有名なお店がありますね。う〜ん、京都へ行ったら食べてみたい。

        開口一番の前座さんは、春雨や雷太のはずだったのが、出てきたのは昔昔亭A太郎。雷太さん、前の仕事の終わり時間を間違えていたとのことで、A太郎代演。前座さんの代演というのは珍しいなあ(笑)。A太郎は遊雀から教わったという『桃太郎』。頑張ってね。

        三遊亭遊雀一席目は『二番煎じ』。寒い夜の火の用心の見回りの話だけど、高座は暑いらしい。見回りに出た旦那衆が「寒い! あんまり寒いから汗が出てきますね」と手拭いで額の汗を拭う。番小屋に入って猪鍋で一杯やりだすと、「あったまってきた。ここでいくら汗をかいてもかまわない」と大熱演だ。この話、このように大きくふたつに分けられる。夜回りの場と番小屋の場。私は前半はあまり好きでなかった。というのも、見回りに出る旦那衆のひとりひとりの個性を描き分けられる噺家が少なかったからなのだと思えてきた。遊雀のはきっちりと個性を描き分けている。それが、番小屋に入ってからも生きてきているのだ。

        小宮孝泰は、このところ集中的にやっている『幇間腹』。たいへんな職業ということで遊園地の着ぐるみショウで三宅祐司の正義のガンマン対悪いオオカミを演ったときの思い出をマクラに、ネタに入る。これがいかにも小宮孝泰らしい『幇間腹』。いろいろと入れ事が入っていて、若旦那が最近凝っていることを次々に想像する幇間のパターンが新しかったり、これから若旦那のいる座敷に入る前のシュミレーションがあったりと、まあ一種の想像芸。コント赤信号時代の暴走族コントのネタを持ってきたりするのもファン・サービス。さらにサゲが工夫してあって、「皮が破れてなりませんでした」のあとがまだある(笑)!!

        三遊亭遊雀の二席目は『お見立て』。遊雀の落語の面白さのひとつは、実は、困ったことに追い込まれた人物がもだえ苦しむ様にあるのではないかと思う。それは番頭が、花魁が客に会いたくないので病気だと言って断ってくれいったことから、どんどん困った事になっていって、嘘をどんどん上塗りしていって窮地に追い込まれていく。そんな番頭のひと言が「花魁が病気と申し上げたときに帰っていただければ、こんなことにならなかったんです」。これが番頭の心情をものの見事に表しているではないか。それに対して、墓参りに行くと言い出したお大尽に、つい墓は近くだと言ってしまった番頭に花魁は「それはあなたの失言なんだから」と、あたしのせいじゃないよと冷たく突き放す。どんどん追い込まれていく番頭。これがこの噺のミソだなあ。また、花魁は死んだと言われて「うぉーん、うぉーん」とオオカミの遠吠えのように泣くお大尽。それを見て番頭「ダー様が泣いているなんて初めて見ました。ダー様が殺したようなものじゃございませんか・・・それは落語の『たちきり』の台詞」なんてクスグリも。

        ハネてから楽屋へ。遊雀師匠や小宮さんとウチアゲに。遊雀師匠上機嫌。芸談をたっぷり聞かせてもらい、お腹もいっぱい。ほろ酔い気分で、日本橋の街を歩いて帰宅した。3月には、小宮さんは翁庵寄席でまた『幇間腹』を聴かせてくれる。お相手は林家彦いち。楽しみだなあ。


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