May.30,2009 お客さんもギッシリ、内容もギッシリな夜

5月23日 深夜寄席 (新宿末広亭)

        午後9時ちょっと前に着くと、もうすでに凄い列になっていた。深夜寄席、並び始める時間がずっと早くなってきたようだ。ほどなく、きらりさんと柳太さんが料金徴収に回ってくる。きらりさん、2月に一度お会いしただけだが、私のことを憶えていてくれて挨拶してくださった。「顔と名前だけでも憶えていってください」は芸人の挨拶だが、お客さんの顔と名前を憶えるのも芸人の仕事なのかなあ。

        開場時間も早く、それほど待たされることなく入れた。こういう段取りのよさが気持ちいい。

        一番手は橘ノ円満『壷算』だが、兄いのところに壷を買いに行く算段を相談に行くところから始まり、羽織の買い方レクチャーは入るは、まさにたっぷりという感じ。初めて聴くようなクスグリも多く、こういう試みはまさに深夜寄席らしくて、うれしい気分になった。

        開演後もお客さんが続々と入ってくる。かなり立見が出たので、恒例の[お膝送り]。これも、上手い芸人さんと下手な芸人さんがいる。この日は客席後方から、きらりさんが元気よくお願いすると桟敷席のお客さんが大移動。「と゜うもありがとうございます」とさらに元気にお礼を述べると、客席に活気が出る。こうでなきゃ。

        二番手が瀧川鯉斗。おう、ついに鯉斗も二ツ目かあ。前座時代はマクラなしで噺に入っていたが、ついにこの人のマクラを聴くことができた。「小遊三師匠が『芝居を観なくちゃいかんよ』とよく言ってまして、先日連れて行ってもらいました。歌舞伎座かと思いきや、そこは東京ドーム。SMAPのコンサートでした。お客さんがみんなルミカライトを振ってるんです。それを見た小遊三師匠、『おれの会でも、ルミカライトを配ろう』って独演会の入口でお客さんに配ったんです。師匠が高座に上ってみると、お客さんルミカライトをお弁当に照らして食べてた」 実に堂々としたマクラで、そのあと名古屋での暴走族時代の、暴走族とおかんのネタで爆笑を取り『鯛』へ。三枝のこの噺、東京でも演り手が多くなってきたが、おお鯉斗まで! 二ツ目になり立てで『鯛』は難しいような気もするが、意欲は買う。これぞ深夜寄席だ。鯉斗の『鯛』はやや荒削りな印象を受けたが、勢いがあるのがいい。生簀社会での上下関係が、どこか落語界を思わせたりもする噺だ。持ち前のキャラで、落語界に旋風をもたらしそうな気にさせられる鯉斗。楽しみだなあ。

        三番手、神田きらり。お得意の電車の中で目撃した南方系女性のマクラを振り『山内一豊の妻 出世の馬揃え』に入ったら、台詞をとちるは、扇子を飛ばしてしまうはで、本題を離れ「実は今夜はTBSラジオ大沢悠里のゆうゆうワイドのプロデューサーがご夫人と一緒に見にいらしているんです。私、昔っからあの番組に出たい出たいと思い続けていたんです。今日の高座の出来いかんでは番組に出してもらえることになっていて・・・この始末ですよ。皆様のご協力で、このあと奇跡を起こしてください。プロデューサーを『なんだかわかんなかったが、使ってみよう』という気にさせてください」 場内から盛大な拍手が巻き起こる。そこからは順調。「ここからが面白いところですが、続きはNHK大河ドラマ『功名が辻』DVDをご覧ください」で高座を下りるまで突っ走った。

        トリは、春風亭柳太。過去二回、深夜寄席で観ているが二回とも『のっぺらぼう』。この『のっぺらぼう』、私は好きなのだ。荒っぽいなあとは思うものの、この勢いだけで演っているような『のっぺらぼう』面白いのだ。小学校のころの思い出話(嘘か本当か知らないが、なんだかいつもこんな類のマクラのような気がする)に続いて『アメイジング・グレイス』熱唱(笑)と好き勝手なことを演ってから、「習ったときには20分あったんですが、いまは7〜8分。今夜は5分で演ります」と入ったのが『皿屋敷』(お菊の皿)。いやあ、飛ばす飛ばす。5分はオーバーとしても、大胆にカットするところはカットしてあるものの、途中で切ることもなく最後までフルスピードで話し切った。おそらく初めてこの噺を聴いた人は、何のことだかわからなかったろう。そのフルスピードの中にクサナギくんの全裸事件も織り込む周到さもある。終演時間を5分残して高座を下りた。

        終演後、きらりさんに挨拶して、末広亭を後にした。ゆうゆうワイド、出られるといいな。


May.23,2009 スリルとサスペンスの落語会

5月9日 人形町で『お富与三郎』を聴く会 第四回稲荷堀 (人形町翁庵)

        回を追うごとにお客さんの数が増えてきたこの会。今回は満員ギリギリまで予約を受け付けることにした。おかげで超満員。

        噺家さんには楽屋入りの時間は指定しないことにしている。開演時間近くなって楽屋入りなさる方や、開場時間よりもかなり早く前から楽屋入りを希望なさる方もいる。それで、「開演時間までに楽屋入りをお願いします」と申し上げることにしている。そうするとほとんどの噺家さんは開場時間の少し前あたりに楽屋入りなさる人が多い。今回焦ったのが、開演十分前になっても、隅田川馬石師匠も、ゲストの立川談奈さんもやってこなかったこと。さすがに心配になる。まあ、開口一番の立命亭八戒さんが先に出るから15分は持たせられるとはいうものの、もしお二人とも来なかったらどうしようと不安になってしまう。出演の確認は前日にお二人に電話でしてあるので、忘れているわけではないだろう。とか思っているところへ、開演8分前に馬石師匠楽屋入り。続いて開演6分前に談奈さんも楽屋入り。ふーっ、助かった。

        定刻開演。私の挨拶のあと、開口一番、立命亭八戒。前日に私に伝えてくれたネタ(書かないけど)は、やはり自信がないとかで、以前にもかけたことのある『一目上がり』。さすがに演り慣れている噺で、テンポよくいい感じで進んでいく。そしてオリジナルのサゲ。うん、いいね。このあと八戒さんから「実は開演直前に思いついた、もうひとつのサゲがあるんですが・・・」とこっそりそのサゲを教えてくれた。それがまた面白い。もっとも、この『お富与三郎』の会だから効いて来るサゲなんだけどなあ。それでも次回、また『一目上がり』で行きますかあ?(笑)

        隅田川馬石の一席目は『反対車』。これは意外だった。こういう動きの多く、爆笑系の若い噺家向けの噺を馬石が持っていたとは。もっとも毎日ランニングを欠かさず、出演先にも自転車でやってくる馬石向きの噺なのかもしれない。この日も自転車で威勢よく「ラァー、ラァー、ラァー、ラァー」とすっ飛ばしてきたのかもしれない。それが行き過ぎて大宮まで行ってしまったので、戻ってきたら開演時間ギリギリだった、なんてね。

        立川談奈『崇徳院』。前日電話で話したときに、「『崇徳院』か『鮑のし』を演ります」とおっしゃっていた。どちらも翁庵寄席では出ていないネタ。「どちらでも結構です」とお答えしておいたのだが、どうやらこの二席ともここしばらく集中的のかけておられるよう。『崇徳院』は立川流のよさが出ていて、いい仕上がりになっている。特にクライマックスの床屋でのやり取りはいかにも立川流の威勢のよさに、いい気持ちにさせられた。

        さて、隅田川馬石『お富与三郎 稲荷堀』。前回、玄冶店での再会以来、よりを戻したお富と与三郎。実は一番面白いのがこの稲荷掘だと思う。どんどん悪い道へ入っていってしまうふたり。男と女のふたり組といえば、アメリカ映画の『俺たちに明日はない』のボニーとクライドが頭に浮かんだりするが、『お富与三郎』はあくまで日本的。女(お富)が男(与三郎)をそそのかしての犯罪だ。まさに与三郎よりもお富の方が一枚も二枚も上手。稲荷堀での殺人の場面。雨が降り続く中での凄惨な場面は脳裏にまざまざと浮かんでくる。お富の元に帰った与三郎に「とどめはさしたのかい?」と冷静に尋ねるお富。そして自らとどめをさす場面の凄いこと。まさにここは、この長い噺のハイライトと言っていいいいだろう。お客さんが緊張しているところで、いかにもな切れ場となって、笑いが起こる。次回も是非聴かなきゃという気にさせられる上手い幕切れ。

        そばは、稲荷堀にちなんで、お稲荷様だから、きつねそばをお出しする。

        ウチアゲは、緊張感漂う噺とは打って変わって陽気に。談奈さんに、是非『お富与三郎』を木更津に持っていこうと持ちかける。実現したらば楽しいな。


May.7,2009 ぷ〜ん香る酒のいい匂い

4月26日 第三回酒蔵寄席 (木戸泉酒造)

        早く起きて翌日の仕込みを済ませて東京駅に行く。9時発のわかしお3号はもう出てしまったので、10時発のわかしお5号のチケットを買い、東京駅構内をぶらつく。ちょっとした旅に出るのも去年の10月に木更津に行って以来か。やっぱり私は旅が好きなんだろう。わかしお5号で外房の大原へ。この大原の木戸泉酒造さんで桂都丸の落語会があるのだ。せっかく知らない土地へ行くのだから、落語だけ聴いて帰ってきてしまうのはもったいないではないか。まずは会場のある場所だけチェックしておこうと大原の駅を降りて歩き出すと、木戸泉酒造はすぐにみつかった。



        まだ11時30分。開演の2時までにはまだ時間がある。大原駅の周辺をブラブラ歩き、さらに海岸まで足を伸ばす。海岸まではけっこう距離がある。住宅が立ち並ぶ道をひたすら歩く。若い中国人とやたらとすれ違う。どうやら工場でもあるのだろう。日曜だから中国人たちも休みを楽しんでいるらしい。海岸というよりも漁港に出た。風が強い。外房の荒々しい海といった感じだ。しばらくぼんやりと海を見続けていたが、腹が減ってきたので大原駅の方へ戻ることにした。大原駅周辺の店はほとんど休みだったのを思い出し、国道沿いのドライブインにした。ガスト、ラーメン屋、そば屋などがあったが、「まっ、軽く何か食べられればいいや」とすき家に入り、牛丼ミニ。

        1時45分に会場へ着くと、もう客席はいっぱい。定員120名が完売したそうだ。

        定刻、木戸泉酒造の社長さんの挨拶。そして、いすみ市市長さんの挨拶。

        開口一番は落語ではなく、シンガーソング・ライター藤谷明美のミニライブ。浅草に住む藤谷さんの歌は東京の下町の情景を歌にしている。『浅草寺』 『柳ばし』 『燈籠会』 そして二日酔いの歌『もう一杯』。千葉で東京の下町を歌った歌を聴き、このあと都丸の上方落語って、うははは、贅沢というかなんというか。

        桂都丸の一席目は、来年高座名が、桂塩鯛(しおだい)に変わるいきさつの説明。都丸の師匠朝丸が、ざこばに変わった(ざこばとは魚市場のことだと初めて知った)こともあり、都丸も丸のついた名前から別の名前にということらしい。とすると、この一門、いまに魚の名前だらけになるのかしら。急性すい炎を患った経験談から、恋の病の『崇徳院』へ入る。「百人一首に、人食いというのがあるやろ」 「それをいうなら崇徳院や」 なんてやりとりを聴いているとぷ〜んと日本酒のいい香りがしてくるのだ。ふわふわといい気持ちになってくる。いかんいかん。



        仲入りを挟んで二席目は、この場所にふさわしい『試し酒』。都丸の飲みっぷりを観ていると、早くお酒が飲みたくなってくる。「いい酒ですなあ。香りといい口当たりといい。何てお酒です? えっ? 木戸泉?」 うおー、ますます飲みたくなってきたではないか。待ちきれな〜い、待ちきれな〜い。これだから呑んべいはいかんねえ。

        帰りに水戸泉300mlのお土産が出た。これで2000円は安いやねえ。

        終って、関係者のウチアゲに参加させてもらった。


 


         まずAFS(アフス)で乾杯! うっ、旨い! 右の白玉香(はくぎょくこう)はグイグイやると危ないということで水を飲みながら。山菜や、たこ餃子、焼き魚など食べ物もテーブル一杯。古酒までふるまってくださって、ほーんといい気持ち。「いい酒だから、翌日残らないから大丈夫」なんて言葉に安心してしまって、ついつい飲み過ぎちゃいました。



May.6,2009 テンポがある若さの『髪結新三』

4月25日 柳家三三独演会 春 (中野ZERO小ホール)

        国立演芸場から一旦帰宅してから中野へ向う。なにせ開演が7時30分なんだもの。

        開口一番は桂三木男『猿後家』。祖父が三代目桂三木助、叔父が四代目桂三木助。ようく見ると確かに似ている。真打昇進のときには三木助を襲名するんだろうか。楽しみになってきた。

        柳家三三、一席目。「三木男くん、いわばお坊ちゃまですよ。来月第一回目の独演会があるんですが、ゲストが立川談志って、どうしたらそんな偉い人が呼べるんですか。先日夢を見まして、私が三木男くんに『やかん』を教えるんですが、それを独演会で三木男くんが談志師匠の前で演る。『やかん』といえば談志師匠の十八番。そこに私がなぜかいまして、何か言われるとドキドキしていると『いや三木男は悪くない』。そこに談春師匠もいまして『教えたお前が悪い』」 ネタは『口入れ屋(引越しの夢)』

        一旦引っ込んで、改めて高座に上がり直した。二席目は何かと思ったら、なんと『髪結新三』。円生の録音で聴いたことがある程度の噺だったので久しぶりに聴く事ができた。長い噺なので、途中で仲入り休憩を挟み、上、下という形になった。上の切れ場が、新三が忠七を騙して置き去りにするところ。この場所がなんと稲荷堀なのだ。『お富与三郎・稲荷掘』でも稲荷掘は犯罪の現場であったが、う〜ん稲荷堀には犯罪の臭いがする。下に入ると土地の親分源七と新三の緊張感あるやり取り。そして大家と新三の、どこかとぼけた所のあるやり取りと、三三は観客をグイと噺に引き込んでいく。その力技に拍手だ。そしてなによりテンポがいい。

        昼間聴いた喬太郎の『心眼』は、八代目桂文楽の十八番。三三の『髪結新三』は六代目三遊亭円生の十八番。文楽も円生もいいのだが、喬太郎、三三には若さがある。その若さがそれぞれの噺に活力を吹き込んだように思う。落語ファンは、まだまだ楽しめる時代になったんだなあ。


May.5,2009 辛いテーマであるが圧巻の『心眼』

4月25日 花形演芸会30年ー受賞者の集い− (国立演芸場)

        開口一番は柳亭市也『子ほめ』。頑張ってね。

        SMAPのクサナギくんが酔っ払って公園で全裸になって逮捕されちゃったって事件。寄席の高座では盛んに話題になっているだろう。桂ひな太郎も「あれと同じことやっている(落語家)仲間、いっぱいいる。でも誰も逮捕されないですもん。うちの仲間が逮捕されたら落語協会、社団法人取り上げになるかもしれない。そんな人間を出演させている国立演芸場はけしからんてんで、取り壊しになるかもしれない」 ネタは『酢豆腐』。「きのうは楼にまいりまして」 「おい、牢に入ったってよ。酔っ払って牢屋に入ったんじゃないかい?」

        昭和のいるこいるの漫才。のいるが風邪に効く効能を盛んに説明する。「大根おろしに蜂蜜を混ぜて飲むといいそうだよ。それから黒豆の煮汁とかね。それと長ネギを焼いて喉の巻くのも効果があるらしい」 「風邪薬買った方が早いんじゃない?」 ふはは、そりゃそうだ。

        「国立演芸場開場三十年ということだそうですが、私も来年噺家生活三十年です。『お前は三十年何をやってきたんだ。国立演芸場は毎日お客さんを楽しませ続けていたんだぞ。お前は歌ばかり歌ってた』なんて言われそうですが」と言うのはもちろん柳亭市馬。ネタは『首提灯』

        テツandトモ。最近テレビの露出が減ったなあと思っていたが、この人たちの本領はやっぱりライブでしょう。当て振りや、お馴染みの『何でだろう』。そして『笑点』のテーマの顔芸。絶品だね、この人たち。

        ナポレオンズのマジック。脱力系のマジックだけど、とにかくお客さんを楽しませようという構成がいい。不思議だなあと思わせるのがマジックだけど、やっぱり寄席のマジックは第一に楽しくなきゃ。

        トリの柳家喬太郎はマクラも何も入れず、スッと『心眼』に入る。『心眼』といえば、なんといっても黒門町、八代目桂文楽だろうが、喬太郎のものもいいではないか。特に梅喜が茅場町の薬師様に日参して満願の日。目が開かないと薬師さんに毒づくところ。さんざんに文句を言ったところで突然目が見えるようになるとガラリと態度が変わるあたりは圧巻。「さっき騒いでいたのは、私じゃありません。私に似た誰か・・・私の中の別の人格・・・」 サゲの有名な台詞も自嘲ぎみに梅喜に言わせるあたり、ぐっと来てしまった。しかし顔の良し悪しが出てくるこの噺、ポツドールの『顔よ!』を今回は思い出してしまった。我に返ってみるとこういうの辛いテーマだよなあ。『短命』は素直に笑えるのに『心眼』は、う〜ん辛い。


May.4,2009 観劇以前の問題

4月19日 『その男』 (東京芸術劇場 中ホール)

        どうやら三幕あるらしい長い芝居。その一幕目が終ったところで退席してしまった。別に芝居がつまらなかったわけではない。それ以前の問題なのだ。私の座った席はD10。下手側のかなり前の方の席である。このチケットを手にした時にはかなり喜んだ。ここなら役者の顔がバッチリと見える。かなり後ろまで同額の入場料の公演に入ったときなど後ろの方で見ているとなんだか損をしたような気になる人もいるだろうが、私は基本的に席は選ばない。渡された指定席が後ろだろうがあまり文句を言わない。前の方の席が取れたときはうれしいには違いないが、後ろの方でも別に不満はない。

        しかしだ。今回だけは観続けることが、あまりに苦痛だったのだ。私の座ったD10の席と舞台中央のちょうど間にC11という席があり、これが丸被りなのだ。C11にはやや背の高い女性が座っていたが、そういう問題ではない。この人物が小柄の人だったとしても丸被りで、舞台中央が見えなかっただろう。芝居はほとんど舞台中央で行なわれる。それがまったく見えないのだ。時代劇ともなると座った演技が多くなるから見えなくなるということもあるが、この席は立っている人物すら見えない。

        まずいけないのが、この劇場の舞台が低いということ。もっと舞台が高ければ観やすいはずだ。それと前の方の席の傾斜がなさすぎるということもある。舞台中央が見えないという状況を想像してもらえるだろうか? ときどき前の人の頭からはみだしてきた役者さんが見える程度というのは我慢ができない。落語だったらば、まあ声だけ聴こえるという状態でもまだ我慢できる。しかし芝居はそういうわけにいかない。

        一幕目を見ているうちに、だんだん気分が悪くなってしまったのである。軽い吐き気を感じた。これ以上観劇を続ける事は不可能と思えたので劇場を後にした。これで11000円はあんまりじゃないですか?


May.3,2009 おっと都市伝説

4月18日 落語大将軍〜古今亭今輔ひとり会〜 (なかの芸能小劇場)

        開口一番は笑福亭羽光。もちろん鶴光のお弟子さん。軽く古典の前座噺でもするのかと思いきや新作だあ! 動物が進化して人間になる噺。サルだけでなく、トラ、ヘビ、ウシ、イヌ、カメレオンらが進化して人間に。彼らは(なぜか全員男、いや雄かあ?)大学に進学して進化論研究会を立ち上げる。やがて、女子大のテニスサークルと合コンにすることになる。ついつい、動物だったころの仕種が出てしまうトイッタギャグは古典の『元犬』を思い出させるね。

        古今亭今輔一席目。「私、よくマクラで、昔よく行っていたおかしなラーメン屋のことをお話することがあるんです。チャーハンが600円で、ラーメンとチャーハンのセットも量が同じで600円。それじゃあチャーハンの立場はどうなるんだっていうようなことを喋っているんですが、時にはこのマクラだけで降りてきてしまうことがある。そういうときはネタ帳に[中華十八番 今輔]と書いてもらうことにしているんです。先日ある人のブログを見ていたら、浅草演芸ホールで私の出番に[ラーメン屋 今輔]と書いている。『ラーメン屋』といったら先代の有名な噺です。もちろん私には出来ませんし、30分もある噺ですよ。浅草演芸ホールの15分の持ち時間では出来るわけありません」 なるほどねえ、下手に想像上だけで演目を書いちゃいけないってことなんだ。ネタは今輔が寄席でもよくかけているチームオクトパスの噺『ワルの条件』。ラストでドーンと噺全体がひっくり返る構成は上手いし、サゲもいい。

        二席目は古典『禁酒番屋』。出身地で『井戸の茶碗』を演って、地元の新聞に「江戸情緒溢れる『井戸の茶碗』を熱演した」と書かれたと、マクラでさかんに笑いに変えていたが、この『禁酒番屋』もなかなかいいのだ。特に侍がいい。案外こういう侍が出てくる噺、今輔に向いているのではないだろうか。

        三席目が新作ネタおろし。マクラでおニャン子クラブの曲『おっとCHIKAN!』の歌詞を紹介してくれたのだが、痴漢冤罪事件を煽っているような凄い歌詞! 恐るべし秋元康。新しいネタは『東京幻想』。田舎町の青年シンジローは東京に憧れて、故郷を捨てて東京へ行く決心をする。それを止めようとする恋人のタマコは東京の都市伝説をあれこれ語り、東京は恐ろしいところだと説得するのだが、シンジローは彼女を捨てて上京してしまう。彼は作家デビューを目指すが鳴かず飛ばず。しかしやがてタマコの語った東京都市伝説を下敷きに書いた小説が賞をとり、一躍人気作家に。うれしさから銀座のバーにやってくると・・・。都市伝説を次々とギャグ交じりで語ってみせる前半は、「ああ、いつもの手だなあ」とケタケタ笑っていたら、「ああ、やっぱりそういう展開になるのか」と思わせて、さらにひと押しある。もうこの際だから『おっとCHIKAN』まで都市伝説に取り入れてしまったら、もっと恐ろしかったかも。


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