June.16,2009 なぜ内緒なのか遊雀の包丁の切れ味
6月13日 三遊亭遊雀勉強会 (お江戸日本橋亭)
まずは恒例の遊雀の挨拶。本日の演目である『包丁』に関して、ここで演ったという事実は残るものの、その内容を人に話したりしないでくれとの頼みごと。おやおや。
ゲストは瀧川鯉斗。先月、深夜寄席で耳にしたマクラと同じ。二ツ目になって自由に演っているなあという印象。名古屋で暴走族の総長をやっていたという鯉斗らしく、選んだ噺が『芝居の喧嘩』。啖呵の切り方、殴り合いの手つきが、いかにもサマになっているのが面白い。ただ、落語としてはまだちょっと雑かなあ(笑)。オマケで南京玉簾。
「鯉斗くんの『芝居の喧嘩』。いかにも喧嘩慣れしてるでしょ。最後に右手に刀を持って「野郎、やっちまえ!」ってとこ、右手の刀は見得を切るところでスッと横に伸ばして止めるのが普通。それが右手の刀をグルグル回してましたもんね」 三遊亭遊雀の一席目は『宿屋の富』。遊雀版の見所はやっぱり、富を引く現場で自分は二番富の五百両が当るんだと主張する男。妄想の世界に入っての、ひとりキチガイの様子はこの人の持ち味のひとつ。五百両を懐に入れて馴染みの吉原の女のところに行く。上がっておいでよという女に、「金がないんだ」と言うと、女がカンザシを抜いて金に換えて男を上げようとする。その段になると男は話しながら泣き出してしまう。これが全てただの妄想なんだから。あはは。
三遊亭遊雀の二席目。「雑誌の編集者に円生の噺として『包丁』と『やかん』を勧められまして、かっぱ橋の道具街にいって憶えて来た」と茶化してから、円生の十八番だった『包丁』に入る。内容は人に言わないでくれとのことなので、あまり詳しくは書かない。ただ、遊雀がなぜ人に言わないでくれというのか知らないが、これがなかなか面白かった。悪仲間の久次に、自分の女房を口説いてくれと頼まれた寅が、酔っ払って女に言い寄る。現代は草食男子なんて人種が現れている時代だが、これはもう、もろに肉食男子の噺だ。女性に抱きついていく寅と、それを拒否する女の艶かしいこと。
当日のチラシにこう書いてあった。「今回は『包丁』ネタ下ろしです。前回の『文違い』同様、悪いヤツが出てくるんですが、なんかこう憎めないというか演ってて楽しいかな、って感じです」 ふうん、そうなんだ。
June.9.2009 構成力の巧みさで聴かせる円福の三題噺
6月6日 両国寄席 (お江戸両国亭)
一日中雨の予報が、午後から晴れ間が出てくる。両国まで歩いて行こうかと思っていたのだが、傘も必要なさそうだし、開場時間も迫っていたので自転車で行く事にした。両国橋を渡って京葉道路を走るとほどなく本所警察署が見えてきた。お江戸両国亭はその隣だ。到着したのがちょうど開場時間。もう列が建物の中に吸い込まれて行く。最後尾について、木戸を通って会場へ。客層はやはり高年齢の方が多い。いつもよりお客さんの入りがいいようで、「土曜だからかしら」とか「やっぱり、楽太郎が出ると違うね」なんて会話が耳に入ってくる。それとやっぱり、仲入り後のクイツキが兼好というのも大きいだろう。私の目当てはトリの円福の三題噺なんだけどね。
まずは開口一番の前座さんは三遊亭楽大。トリの円福が演る三題噺のお題拝借役。すんなり3名のお客さんから、[蛍] [相撲] [代脈]との声がかかり、これに決定して、『狸の札』へ。前座に3年目に入ったところだが、落ち着いた話しっぷりで、安心して聴いていられる。畳んだ手拭いを狸が化けたお札に見立てて、扇子を枕にして寝かしてあげる仕種がカワイイ。
二ツ目の位置は、三遊亭楽市。「岐阜出身です。岐阜っていうとあまり知られていませんが、長良川、鵜飼いというと思い出してもらえるかもしれません。鵜といっても、もとは岐阜にいるわけではありません。茨城の海鵜なんです。それを捕まえて、袋に入れて連れて来るんです。まあ、拉致ですね。その鵜を長良川に放して魚を捕まえて来させる。鵜が魚を飲み込もうとしたところを首に結わえた紐をキュッと締める。陸に引っ張ってきて、喉から魚を吐き出させる。いわば、鵜から魚を搾取するんです。鵜はグ○ド○ィル。ワーキングプアです。働けなくなると野に離してしまう。これが野良鵜化するんですね。これが赤ん坊を襲ったりする。こうなると鵜と闘うか逃げるか保健所に言うしかなくなる・・・って、人の話を鵜呑みしてはいけません」 師匠がCMをやっているサントリーの[グルコサミン&コンドロイチン]のことをマクラに振っておいて、『千早ふる』。在原業平の歌の解釈を巡ってご隠居さん、「だから、千早振るをAとしよう。それで神代も聞かず龍田川をBだとするな。いわばAはグルコサミンだ。となるとBはコンドロイチンになるだろ」 「ぜんぜんわかりませ〜ん」
立川吉幸が休演。両国寄席は毎月一日から十五日までで、毎日同じ人が出るわけではなく、予めその日の出演者は決まっている。それが休演とは驚きだ。代演が三遊亭好の助。自分がナポレオンズの植木(背が高くて眼鏡をかけている方)の息子だということを打ち明ける。そういえば、面差しが似ているぞ。「落語界も、二世がどんどん誕生しています。楽太郎師匠がこのあとご出演になりますが、きょう楽太郎師匠のお弟子さんが三人出ています。開口一番の楽大、そのあと楽市が出て、このあと楽京あにさん。そして他にも楽太郎一門がいるのをご存知ですか? 高座返しをしてるのが一太郎といいまして、楽太郎師匠の六番目のお弟子さん。なんと、楽太郎師匠の息子さんです」 おお、あのちょっとイケメンの前座さんが楽太郎の息子さんか、そういえば面差しが・・・。と言っているうちに『子ほめ』に入ったのだが、それがあっという間に終ってしまう。前半の仕込みの部分を大胆にカットしてしまうという構成で、なるほどこの噺、仕込みの部分ってなくてもなんとかなる。というか、みんなもう毎回前座さんに聴かされているから、知っているんだけどね。
次の出囃子が鳴っているというのに、なかなか林家時蔵が出てこない。なにやら楽屋で「やだよ!」なんていう時蔵の声も聞こえてくる(笑)。長〜い出囃子のあとでようやく時蔵が高座に姿を現す。「着替えに手間取りまして。というのも、前に出ました好の助の『小ほめ』。あれはなんですか。中抜けというより手抜きでしょ。小言言ってやろうと思ったら逃げちゃった。本当は立川吉幸が出るはずだったんですが、今月も休みですよ。円楽一門に二つ目、真打が誕生する時期になると休演が増える。祝儀払わなきゃならないですからね。私は逃げられないんですよ。家がこの近所ですから。新真打や新二ツ目が、家まで挨拶にやってくる」なんてボヤキともつかないマクラから『替わり目』へ。こういう噺は年齢層の高い女性に受けるんだよなあ。
三遊亭楽京は『ちりとてちん』。無愛想で知ったかぶりの男が、腐った豆腐に唐辛子をたっぷりかけたものを食べさせられる噺だが、楽京の演出は、この食べさせられる男が一応苦労して飲み込むものの、それほど苦にしていないそぶりなのが新鮮。あくまで無愛想、知ったかぶりのキャラを維持しようとする様が、深いなあと思う。
三遊亭楽太郎は高座に上がると、「円福のお題が、蛍、相撲、代脈ですか。ちょっと考えてみたんですが、私なら七敗してしまった力士が病の床についてしまう。代脈が来て病状を見るのだが、健康体に思える。どうしたんだいと力士に聞くと『はい、尻に火がついています』」 あらあら、先に言っちゃうのは反則でしょ。円福はこれで、こういう噺はできなくなった。ネタは『お化け長屋』。楽太郎は、後から来る威勢のいい男を、女好きとして描くことに成功している。女が好きで別の女を囲う場所としてこの長屋を使おうというわけである。ところどころでそのお惚気が入り、お化けが出ると知ると好色家ぶりはエスカレートする。お化けって冷たいんだろ。抱いて寝てやるよ。気持ちいいだろうなあ。朝になったらふん縛っておいて、夜また抱くんだ」 子供には聴かせられんねえ(笑)。
仲入り後が、三遊亭兼好で『権助芝居』。歌舞伎や能に関するマクラを振って、落語の方がいいなんて言っておきながら、権助がなかなか芝居心のある所作をするところが見ものだ。田舎もので芝居なんてよく知らないという設定の噺なのだが、兼好の権助はなかなか芝居が上手いんじゃないかと思わせる。
唯一の色物は漫才のニックス。「若手といわれるお笑い芸人は今、二万組いるというのに、なんでわたしらが両国寄席のヒザに出られると思います?」 「なぜ?」 「私が楽太郎師匠のオンナだからです」 「やめなさいよ」 「いや、おねえちゃんが楽太郎師匠のオンナでした」 この姉妹コンビ、久しぶりに見る。そうかあ、楽太郎一門なんだもんね、楽太郎の会に行けば観られる確率が高いんだ。こういう歳ごろの女性コンビらしく、結婚ネタ。「お姉ちゃん、早く結婚しなさいよ。羊水腐っちゃてるかもよ」 「よしなさいよ。そういうこと言って幸田夾未はホサれたんだから」 「私達はホサれるほどテレビに出てないわ!」
足袋ではなく白のソックスを穿いて現れた三遊亭円福。「足袋に穴が空いてしまいまして、お金が無くて新しいのが買えない」 ほんとうかねえ。さあて三題噺だ。後ろの屏風に[ほたる] [すもう] [代脈]と書かれた紙が3枚貼られている。汚い字(笑)。でもその前に、蛍、相撲くらい漢字で書こうよ(笑)。マクラで蛍の習性のことを語るが、これが噺の核心部分に関連することで、しかもサゲにまで影響してくる。女の子に自分の気持ちを伝えられない大学生が主人公。相手の女の子の名前が蛍ちゃんって、安易じゃんと思ったが、友人に蛍ちゃんが自分のことをどう思っているのか、脈があるのか訊いてきて欲しいと、[代脈]を入れたのは合格。蛍ちゃんに脈があるなら、「一緒にすもうと思っている」も合格。これで三つのお題をクリアして、ふたりはめでたくデート。川に蛍狩りに出かけるがという風に持っていった。そこで、うまくマクラで振った蛍の習性が効いて来るサゲに持っていった。声がやや小さくて聞き取りにくいのだが、その構成力には感心した。
一杯の会場を後にする。たっぷり楽しめた両国寄席。自転車に乗っての夜風は気持ちいいぜ!
June.2,2009 阿佐ヶ谷秘密クラブ
5月30日 第一回つくしのシークレット落語会 (阿佐ヶ谷区民センター第三和室)
つい最近まで、同じ会場で、[つくしのシークレットライブ]という落語会が開かれていたのに、よく似たタイトルで第一回が始まった。「どうゆうこと?」という疑問に答えることから、川柳つくしのトークが始まった。なるほどそういう裏事情があったのかと納得。これは会のタイトルどおりシークレットなのだろうから、インターネットには書かない。続いてつい先日に亡くなった三遊亭生之助師匠のお通夜の様子のトーク。駅から斎場までの案内係をしたというトーク。雨の中、喪服を着て、その上から落語協会半纏を羽織り、片手に傘、片手に協会の提灯を持っていると「どこで落語会やっているんですか?」と訊かれたりするなんていうトークで笑いを取り、このあとはまさにシークレットトーク。こういう落語界の裏話を聴きたい人は会場まで足を運んでね。♪秘密、秘密、それは秘密、秘密のつくしちゃん。
30分ものマクラというのか、シークレット・トークのあとは、三遊亭円福・作の『接待ゴルフ』。元の噺は男性が主人公だが、女性に変えて演る。いつも接待ゴルフに行っている先輩が、彼とのデートの約束があっていかれない。そこで後輩のしほりさんに代演(?)を頼む。しほりさんはゴルフ初心者。トートバックの中から出してくるゴルフの道具とは・・・。この前半でベタな笑いを取り、後半は実際の接待ゴルフ。その展開が前半に仕込んだオウム返しも生きてきて爆笑を生み出す。よく出来た噺なのだ、これは。
お客さんから三題噺のお題を貰って、10分間の休憩。今回のお題は[六代目三遊亭円生] [東京駅] [年金未納]。川柳つくしは、ここから三遊亭円生を膨らませて噺を作った。七代目を川柳川柳が継ぐ事になり、歌舞伎座で襲名興行が行なわれるが・・・といった噺。これも内容はシークレットだなあ(笑)。こういう危ない噺を聴きたい人は是非、ナマでつくしを観よう!
さらにもう一席『歌のおねえさん』。幼児用歌番組の収録に、歌のお姉さんが新型インフルエンザに罹り出られなくなってしまう。あらあら、こちらも代演噺。たまたまスタジオにいた歌手に代わりを頼む。洋楽かぶれの女性歌手やら、民謡演歌歌手やら、果ては男性に振られたばかりの女性ADやらに歌わせてみるのだがうまくいかない。ラストはなかなか感動の一席。
阿佐ヶ谷秘密トーククラブ。楽しいよ。うふふ。