July.25.2009 よりブラックな味わいの喬太郎『死神』

7月19日 『圓朝祭』 (みらい座いけぶくろ)

        みらい座いけぶくろって、どこだ? とよく見ると、豊島公会堂と付記されている。なあんだあ。開演時間が午後4時っていうのも、なんだか中途半端だなあ。とかなんとか言うのも開演時間に間に合わなかった言い訳にすぎないのだけど。

        会場に入ってみれば、ハナの隅田川馬石『粗忽の釘』が終わろうとしているところ。隣の家に上がりこんでのおのろけ話が絶好調だったところ。最初から聴きたかったな。

        桂つく枝改〆桂文三が見台の前に座る。長く続いているこの会、上方からも噺家を呼んで欲しいとの声に応えて実現したものらしい。その意気やよし。銀座の高級喫茶店の値段にびっくりした話から観客を引き込んでいく。「ケーキセット2100円でっせ。2100円ゆうたら[王将]で餃子がどれだけ出てくるか。そのケーキの小さなこと。SoyJoyくらいのケーキ!」 それから、東京と大阪のオバチャンの比較が始まる。これも上方の噺家さんの定番になってきました。ネタが『ろくろ首』。上方版は初めて聴いたが、にぎやかな噺になっていて楽しい。

        『まかしょ』の出囃子が長いこと鳴ってから、柳家喬太郎が高座に上がってくる。「楽屋へ入りまして、包みをほどいてみると、足袋、肌襦袢、ステテコが入っていないと慌てるものでございまして。幸い、家が池袋なものですから持ってきてもらいました。それが届いたのが文三さんの高座が終わる一分前」 それにしては落ち着いている喬太郎。ネタが『死神』。今回の呪文は「あじゃらかもくれん 池袋三越無くなっちゃったあ」 喬太郎の『死神』はラスト近くが面白い。半回転のトリックをかまして外に出た男が、死神に出会う。「なんてことをしてくれたんだ。あれはオレだ」という死神に、「えっ、あれ、お前さんだったんだ。お前さんたちみんな似た顔しているからわからなかった」と言うと、死神は「モーニング娘。みたいに言うんじゃない」と答えたり、それに続けて「おかげで、オレの夏の賞与はカットだ」と死神が言ったり、消えてしまった蝋燭を見てた男が「この蝋燭は白い蝋燭だか黒い蝋燭だかわからない」なんて言うと「それはマイケル・ジャクソンだ」なんてのも序の口。死神の言うこのあとの言葉がブラック。「おめえはまだ50年間生きるはずだった。それを大宮の旦那の蝋燭と交換しちまったんだ。おめえ、悪いことしたな。大宮の主は今88歳。138歳まで生きなきゃならない」

        中トリが三遊亭楽太郎『船徳』。楽太郎の『船徳』はダイナミックだなあという印象。徳が船を出して「竹屋のおじさ〜ん、大桟橋までお客さんを送って行きま〜す」と声をかけるお馴染みの場面。名人八代目桂文楽だと、「徳さ〜ん、大丈夫かあ〜い」となる。それが楽太郎だと、「やめろー!!」と直接的だもんね。岸にぶつかってしまって、客にこうもり傘で土手で突いてくれと頼む場面でも、「あそこにこうもり傘13本刺さってるでしょ。あれ、みんな私がやったの。月末になると熊さんが集めに来る」

        中入り後は二席。まずは三遊亭圓歌の、いつもの『中澤家の人々』。「オレも今年80だよ。落語会で最年長だと思っていたら、落語芸術協会では、米丸も笑三もオレより上なんだってさ」 この日は30分バージョン。完全版は1時間30分を超えるっていうんだから、この人元気なうちに完全版を聞いておきたいもの。

        トリが五街道雲助の圓朝もの『緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)』から『おすわ殺し』。この膨大な噺、部分部分しか聴いていないのだがいつの日か全貌がわかる日が来るのだろうか。『おすわ殺し』はかなり凄惨な殺人場面がクライマックスになっていて、思わず引き込まれてしまった。誰か通しで演ってくださる人がいれば、翁庵寄席は喜んで場を提供するんだがなあ。だって私が聴きたいんだもの。


July.21.2009 シュールな演劇系コント

7月11日 猫のホテル プレゼンツ 表現さわやか
      『ベスト・オブ・表現さわやか』 (本多劇場)

        猫のホテルのコント・ユニット公演。表現さわやかなんてタイトルが付けられているが、さわやかなんて表現とはかなり異質なコントが並ぶ。だって、最初のコントからしてパチンコの景品交換所からサダの幽霊が出てくるなんてネタなんだもの。さわやかさとは程遠い。

        続いてどこかのキャバレー(?)。ヤクザの親分の前でお笑い芸人が芸を披露するというコント。

        ボーイスカウトのコント。これがけっこう長い(笑) でもシュールで好き。

        刑務所の作業場コント。これ、以前にも見たけれど、妙に可笑しい。

        合唱部のコント。カップ麺を食べながらのこのコントも妙にシュール。それが次に繋がり、表現さわやかの代表作ともいえる、山崎春のパン祭り。このばかばかしさといったら、ちょっと他に思いつかないのだけど、これは凄いとしかいいようがない。テレビのバラエティで演ったら面白いと思うのだが、山崎春のパン祭りじゃあ引っかかるだろうなあ。

        続いて、長井大、空を飛ぶ。香港のワイヤー・アクションをネタにしたコント。

        そして、いよいよ好きな彼女をテ゜ートに誘うコントから、マッスル・ミュージカル!! これがまた可笑しいのだ。これから筋肉質にします、ってな人が混じっているのがねえ、ははは。

        地獄の警備員コント、そして遺跡発掘コントを終えたところで、冒頭のキャバレーのお笑い芸人のコントに繋がり、そして、次は『トワイライトゾーン・フアミレス編』、ここど山崎春のパン祭りに繋がるという、「うまい!」と唸ってしまう構成の妙。

        池田鉄洋の才気あふれる、このコント・ユニット。私は支持するぞ!


July.16,2009 様々模様の民宿ストーリー

7月11日 ブルドッキングヘッドロック
       『ケモノミチ』 (中野 ザ・ポケット)

        なにやら怪獣が東京を襲い、都市が壊滅してしまったというオープニングで、これはどんな話になるのだろうと思ったら、すぐに話は東京近郊の海岸にある民宿が舞台になる。東京は大変な事になっているというのに、ここはいつもどおりの日常。話としては、いわゆるグランドホテル形式で泊まり客たちの様々な人間模様といったところなのだが、民宿という形態上、この民宿の経営者家族の話が実は中心になっている。

        実質的に現在運営しているのは、この家の長男夫婦。祖母がいるのだが2階で寝たきりになっている。この祖母が用があるとブザーを鳴らして知らせる。私の母方の家が、やはり祖母が寝たきりになってしまって、やはりブザーで知らせていたのを思い出す。父はすでに無く、母親はいる。下に妹がおり、そこへ次男が帰ってくるという設定。この次男が少年時代にクラスメイトの女性を殺して少年院から帰ってくるところから始まる。それに人間が演じる猫一匹。

        社会がメチャクチャになりながらも、この民宿の祖母は亡くなり、葬式が執り行われるという極限状況だが、全てはスムーズに進行する。この中にもいろいろなドラマが発生していくのだが、脚本はそこのところを見事に交通整理している。

        2時間半、様々な人生がてんこ盛りの一幕。あまりに凄すぎて文章にならない。役者陣の熱演、脚本演出の斬新さ、これは時間を忘れさせる面白さだったと書いておくしかない。細かいことは、書きようがないが、人生って悲しくて可笑しく、そして愛おしい。


July.8,2009 コスプレしゃぶしゃぶより楽しい? いっぷく寄席

7月4日 第16回いっぷく寄席 (深川資料館通り商店街事務所2階)

        深川にある喫茶店[いっぷく]が主催する落語会。2ヶ月に1回のペースで開催されていて、以前から気になる会だった。地図で[いっぷく]を確認しながら歩いて行くと、[いっぷく]はすぐに見つかった。しかしこれから落語会が始まるといった感じでもない。店の人に聞いてみると、会場はここではなく、道をしばらく戻ったところにある商店街の事務所だと教えられる。教えられたとおりに戻ってみると、道の反対側に立て札が立っていた。



        路地に入ると開け放されたドアが見えた。靴を脱いで2階へ上がと、そこは広い板の間。詰め込もうとすれば7〜80人は入れそう。奥に高座が作られ、手前が木戸口。木戸銭は1000円で、ラムネが1本付く。ラムネを飲みながら開演を待つ。

        まずは、柳家小蝠。1年前に膝の手術をしたそうで、もうほぼ治ったものの不安があるということで足の下に正座椅子を入れての高座。マクラの、真打披露興行中のウチアゲで行ったという池袋のコスプレしゃぶしゃぶの話が大受け。そこから、噺家になって最初に習ったという噺『道灌』。柳家ですからね。でも小蝠は元は立川談志の弟子。こちらも柳家ですが。談志には自分のビデオを観て憶えろと言われて噺だというから、直伝ではないのか? 久しぶりに演ったとかで、言葉に詰ってしまうところが何箇所かあったけれど、それもご愛嬌。さすがに前座さんが演る『道灌』とは違い、面白く聞かせる。

        この会は毎回小蝠がやっている会だが、ゲストがひとり入る。今回は雷門花助。小蝠のコスプレしゃぶしゃぶの話を受けて、コスプレしゃぶしゃぶでの噺家さんたちのはしゃぎっぷりをさらに詳しく話してくれる。ふはは、コスプレしゃぶしゃぶねえ。そのあと、小蝠のプライベートな話まで。小蝠に「ここでは何を喋ってもいい」と言われたので喋っちゃったとかだけど、いいなのかなあ。うふふ。ネタはこれは珍品『両泥』。花助が掘り起こした噺だと聞いていたが、ここで聴けるとはうれしかった。すっとぼけた噺だが、これは面白い。まだ何回も高座にかけてないのだろうが、もうすっかり自分のものにしている。

        柳家小蝠のトリネタは『子別れ(下)』。マクラもそこそこにスッと入る。小蝠のエンジンがかかった。後半の盛り上げやよし。亀ちゃんを、わざとらしく子供っぽく演る人が多いが、小蝠の亀ちゃんは大人との堺にある感じ。そりゃそうだろ、女手ひとつで育てられてきた子供だもん、しっかりしていて当然だよな。父親から貰った50銭を見つけて、このお金をどうしたんだと亀ちゃんに詰め寄る母親のところの熱演は、こちらもホロッとなる。

        終演後、会場がウチアゲ会場に早変わり。主催者が買い込んできた缶ビールとオツマミで、お客さんたちと、小蝠さん、花助さんと盛り上がる。高座では話し足りなかったコスプレしゃぶしゃぶの話やら、もっとディープな落語界の話やら、時を忘れて楽しんだ。また行こうーっと!


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