2011年8月26日 浅草演芸ホール 毎年恒例、浅草演芸ホールの八月下席夜の部の仲入り後は禁演落語会。読売新聞文化部の長井好弘さんの解説が聴きたくて、毎年一度は観に行っている。 18時50分から仲入りだから、その前には演芸場に着かなくては。18時30分に着くともう、2000円に割引になっていた。これから2時間ほど観られるから、お得。 場内は席がほぼ埋まっている。盛況だ。高座は江戸曲独楽の、やなぎ南玉。曲独楽というと、よく目にするのが三増紋之助の、立ってやる曲独楽だが、南玉は正座したままで行う。真剣刃渡り、風車、そして糸渡り。「この技に使う独楽を、フーテンの寅さんと名付けています。おわかりでしょうか? この独楽はほかの独楽に比べて、アツミがあります」 南玉が下りたのが18時40分。ちょっと押している。正常に戻すには、中トリが10分で上げなければならないのだが、中トリが10分というわけにはいかない。で、上がったのが三遊亭笑遊。何やら、聴き取りにくい調子で入っていったのが『宿屋の仇討』。ええーっ、まともに演ったら40分はかかるネタだ。しかも出だしが、ややもたついた印象だったのだが、江戸っ子三人組が出てきたところで様子が変わってきた。この江戸っ子三人組のバカ騒ぎが尋常ではない。しかも芸者が帰ったあとで、「なんだあの芸者は! ガマガエルを引き潰したような顔で、今輔(先代)師匠のような声出しゃーがって!」。次の相撲も乗り乗り。で、「いはーちぃ、いはーちぃ!」で締めた。うわー、最後まで演らない、いはち落ち。これでいいのだよなあ。20分。 楽屋へ行って、長井好弘さんに挨拶。遊雀師匠も呼んで貰って話すが、なんと遊雀師匠は、禁演落語はトリの師匠だけがやるものだとばかり思っていたらしい。「私ねぇー、禁演落語って持ってないんですよ」 そんなことはないだろうと思うのだが、案外寄席サイズの15分程度で収まる廓噺や間男の噺というのは少ないのかもしれない。「しかも、きょうは押してますでしょ。どうしようかなあ。まっ、『湯屋番』2分って手もあるんですけどね」なんて話をしているうちに、鯉朝師匠が楽屋入り。ゆっくり話す間も無く、開演のベルが鳴る。挨拶だけで客席に戻ろうとしたら、前座さんに声をかけられる。二ヶ月ほど前、ひょんなことから瀧川鯉橋さんと飲むことになって、そのときに一緒だったのが、前座に成り立てだった瀧川鯉和さん。「あー、鯉和さん、あのときはどうも」なんて挨拶すると、長井さんが、「じゃあ、あなたがあの北國新聞の記者だったって人? 北國新聞といえば地方紙としては大きなとこだよねえ」 地方紙の記者をやって、31歳で落語家になったという。長井さーん、長井さんも落語家になったらあ? 長井好弘の禁演落語についての解説。釈台を置いて、その前に座って話をするというスタイルが板についてきた。毎年基本的に話すことはおおむね同じなのだが、毎年、何かしらの工夫がある。この人、話芸も達者。しっかり笑いを取っているんだから、ねえ、落語家におなんなさいよ。 三遊亭遊雀は出てくると、「私ねえ、禁演落語って持ってないんですよ。今出た、長井さん、『高座に上がって、チ○ポ出してくればいいじゃないですか』って、あれで読売の記者なんですからねえ」 何をやるかと思えば、艶笑小噺集。「動物園のゾウの飼育係のおじさんの噺知ってますか?」 これは以前に聴いたことがあるが、最後に演った、「電気屋のおやじさんの噺知ってますか?」は初めて聴いた。こっ、これはキョーレツ。客席に子供がいなくてよかった。 瀧川鯉朝は、聴いたことが無い噺だなあと思って聴いていたが、ああ、これが『にせ金』か。こういう、どうにもバカバカしい噺って好き。もっとも鯉朝が可哀そうだったのは、いよいよ噺がまとめにかかったところで、客席から携帯電話の呼び出し音。ここまで持ってきた勢いが、ここでそがれてしまった感じになってしまったこと。楽屋に引き上げる姿が、やや寂しそう。なにしろ、バカバカしいったらないとしか言いようのない噺。サゲに持って行く気力が失せてしまうんだろうなあ。 Wモアモアの漫才。この人たちの漫才は、東城けんが主に一方的に喋り、それを東城しんが受けるという構成だから、高座に上がってすぐは、けんのフリートークといった形になることが多い。今夜は、午後から降り出した雨の被害のこと、菅総理の辞任後の時期総理選挙の話など。そこから、おもむろにネタに入っていく。「あたしらのねえ、デビューって浅草演芸場でしたよ。ここは朝9時30分から始まるんですよ。9時30分っていったら、お客さん誰もいないと思うでしょ。いるんですよ。私らが高座に上がったら、お客さんひとり。ひとりでも演るんですよ。そしたら、そのお客さんが途中でいなくなっちゃった。トイレにでもいったのかと思って、そのまま私らふたり、黙ったまんまで、つっ立っていた」 うーん、携帯電話もいやだろうけど、お客さんいなくなっちゃうのはねえ。 三笑亭太朗はマクラで、「楽屋にね、禁演落語のネタの題名が書いてある紙があるんですよ。さっき出た遊雀ね、禁演落語何も持ってないって眺めてましたらね、あっ『てんしき(転失気)がある。明日っから、これ演ればいいや』って。よく見ましたら『とんちき』って落語と勘違いしてるの。あれで30年も落語演ってるんですよ」 ネタは『紙入れ』。 北見マキのマジック。無言派の寄席マジック。きょうは珍しくオーソドックスなネタが並んでいた。 トリは三遊亭遊三で『品川心中(上)』。『紙入れ』に出てくる男も貸本屋なら、『品川心中』に出てくるのも貸本屋の男。貸本屋は災難に会うことが多いのか。仕返し編になる下まで聴きたいところだが、そんなに長くは寄席じゃあ出来ないか。 9月1日記 このコーナーの表紙に戻る |