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2011年2月13日『熱海殺人事件NEXT〜くわえ煙草伝兵衛捜査日誌〜』紀伊國屋ホール

 『熱海殺人事件』は中毒性のある芝居だ。一度観ると病みつきになり、再演されれば何が何でも足を運んでしまう。また観に行くたびに内容がガラッと変わってしまっている。それでいて失望などまったくなく、今度はいつ、つかこうへいが『熱海殺人事件』をかけてくれるだろうかと心待ちにすることになる。

 久しぶりに劇場でパンフレットを買ったら、中の対談で、実は『熱海殺人事件』は日本で一番多く上演された芝居ではないかという発言がある。演劇青年たちは、みんなこの芝居を演りたがる。日本各地でいろんな形で演じられて来たに違いないのだ。みんな『熱海殺人事件』中毒になる。そんな芝居だ。

 『熱海殺人事件』を最初に観たのは、VAN99ホールには間に合わなくて、確か1976年の紀伊國屋ホール。この年は紀伊國屋ホールで3月、7月、11月と三回も上演しているが、全て観ていると思う。料金が確か1000円くらいで、当時としても破格に安かった。部長刑事が三浦洋一、刑事が平田満、犯人が加藤健一、婦人警官が井上加奈子。今まで観たこともないような芝居で、まず役者に驚いた。こんな演技ってあるんだ。舞台に繰り広げられる四人の役者の熱演に夢中なったものだ。

 1980年からは三浦洋一の役を風間杜夫が引き継ぐ。もちろん観に行った。しかし1982年の公演を最後にしばらく沈黙が続いてしまう。

 再開したのは、1990年。部長刑事が池田成志、刑事が春田純一、犯人が酒井敏也、婦人警官が平栗あつみ。キャストが一新されての出発に不安を抱いて出かけて行ったが、まったくの杞憂だった。新しい才能がいた。やがて、犯人役が山崎銀之丞に。

 その後も、私はつかこうへいの『熱海殺人事件』が上演されるたびに劇場に足を運んだ。なんせ、1996年の大分つかこうへい劇団版『売春捜査官』を観に、飛行機で大分まで行ったんだもの。

 前置きが長くなってしまった。つかこうへい亡き後の今回、つかこうへい復活祭として『熱海殺人事件』を上演した。演出はつかこうへいに代わって岡村俊一。部長刑事が山崎銀之丞、刑事が武田義晴、犯人が柳下大、婦人警官が長谷川京子。

 山崎銀之丞が犯人役から部長刑事になっていたのがびっくりしたが、まったく問題なし。つかこうへい節を振りまく、振りまく。そしてあとの三人を引っ張って行く。武田義晴は春田純一を彷彿とさせる演技で好印象。柳下大は今までの犯人役からはかなり違う感じだが、ラップを取りいれたりの演出で新機軸を狙っている。長谷川京子は、やや声が聴き取りにくいところもあったが、かわいいからいいや。

 長い『熱海殺人事件』の歴史の中でもかなり初期のテキストを使っているらしく、今から観るとやや物足りない感じもいなめない。そこは、新しい要素を注入することで、まったく新しい『熱海殺人事件』になっている。楽しんごネタを長谷川京子に強要するあたりも、それこそ注入だね。

 つかこうへい亡き後、ようするに、いろんな人が、いろんな『熱海殺人事件』を作ってけばいいんじゃなだろうか。だからNEXTなんだ。

3月17日記

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