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2011年7月30日『ベッジ・パードン』(世田谷パブリックシアウター)

 二ヶ月公演の千秋楽一日前。それでもさすが三谷幸喜作品とあって立ち見も出る大入り。

 文壇にデビューする前の夏目漱石のロンドン留学中の話といえば、即座に山田風太郎の『黄色い下宿人』が思い出されるが、こちらは推理劇ではない。簡単に言ってしまうと、留学中の夏目漱石が下宿先でイギリス人の若い娘に出会い、日本には妻子がいるというのに、この娘に恋してしまうという話。

 夏目金之助時代の漱石に野村萬斎。この神経質そうな役にぴったり。ベッジ・パードンことアニーに深津絵里もはまり役。同じ日本からの留学生ソータローに大泉洋。この人をキャスティングしたのが、この芝居の妙。全編に渡って軽く笑わせておいて、ラスト近くでしんみりとさせる。そうか、ソータローは、そう思っていたのかと、この人物の存在が浮き上がってくる構成はさすが。役者はあとふたり。アニーの弟役に浦井健治。そして驚異のひとり何役なのかの浅野和之。まったくこの人が、舞台を攫う攫う!

 夏目がアニーと一緒になるという結末には至れるわけがないのだが、この芝居で一番心に残った台詞は、「大事な事は、声に出さないと伝わらない」ということ。日本人って、言葉にしなくったって、わかるだろ。察しろよ、という文化なのだと思う。それが西洋では、ちゃんと口に出して言う。そうしなければ伝わらないのだという文化なんだってことなんだよなあ。

8月2日記

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