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客席放浪記

ハルナガニ

2014年4月19日

 薬師丸ひろ子のファンだったというわけではないが、去年、『あまちゃん』を観て、すっかり薬師丸ひろ子にハマってしまって、ナマの薬師丸ひろ子が観たいというだけで観に行った芝居。シアタートラムは、それほど大きな劇場ではないし、幸い三列目というかなり舞台から近い席が手に入った。

 原作は藤野千夜の『君のいた日々』。それを木皿泉が脚本にした。原作とはだいぶ変えているらしいのだが、不思議な芝居だった。

 春生(渡辺いっけい)は、一年前に妻・久里子(薬師丸ひろ子)と死に別れ、その久里子のことを忘れられないでいる。会社に行かず、ひとり自宅でフランク永井の『おまえに』をカラオケで歌っているところを、高校生の息子・亜土夢(細田善彦)に見つかってしまう。そこへ、死んだはずの久里子が帰ってくる。亜土夢は驚くが、なぜか春生には久里子は見えていない。また久里子も春生のことが見えていない様子。亜土夢だけが、ふたりを見えていて、春生も久里子も亜土夢しか見えていない。突然どこからともなく現れた久里子は、春生の方が一年前に死んだのだと思っている。そのうちに、亜土夢も実は死んだのは父親の方だったのかもと思えてきてしまう。そこへ、今度は父親の同僚の西沢(菅原大吉)と三浦(菊池亜希子)がやってくる。どうやら彼らは春生も久里子も見えるらしい。そのうち、どうやら春生も久里子も実はお互いが見えているんじゃないかという風になってくる。

 なにやらわけがわからない芝居なのだが、笑いの要素も多いし、まったく退屈はしない。観る側に、いろいろな解釈で観てもらおうという意図が感じられる。これは、亜土夢の夢の中の世界のようにも感じられるし、枝分かれしてしまったパラレルワールドが入り混じってしまったようにも思える。あるいは、家というものの持つ「記憶」の物語というようにも解釈できる。

 薬師丸ひろ子、いい役者になったなぁ。『あまちゃん』の女優役もよかったけど、『ハルナガニ』も、どこか天然ボケなキャラクターで、観ていて楽しくなる。こういう人と夫婦だったら、確かに夫は楽しかったろうと思うし、いつまでも諦められなかったろうという気がする。なんかポチャとした体形がまた可愛く感じられるんだなぁ。
 渡辺いっけいがまたいい。ところどころアドリブとも取れる台詞が入って、それがまた可笑しい。きっとこんな夫を持てば奥さんも楽しい生活だったんだろうという気がする。

 上演時間は1時間20分とコンパクト。あまりダラダラしすぎないで、このくらいがよかった。もう少し薬師丸ひろ子を観ていたかったとこもあるけど。

4月20日記

静かなお喋り 4月19日

静かなお喋り

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