2012年2月8日池袋演芸場二月上席昼の部 開口一番前座さんは、柳家さん坊『子ほめ』。頑張ってね。 金原亭馬吉は『ざる屋』。ゲンを担ぐ旦那のうちに入ったざる屋が目出度いことばかり言って祝儀をたくさん貰う噺だ。始めにやる噺としてはこんなに景気のいい噺はない。そのせいもあってか平日の昼の部だというのに場内は満員だ。 ダーク広和の奇術は、トランプの飛行なるもの。「ハートのカードだけ五枚使います」と出してみると、ハート四枚とジョーカー。「四枚でも出来るんです」と数えてみると、今度はハート三枚とジョーカー。「三枚でもできるんです」と数えてみると、 今度はハート二枚とジョーカー・・・。こういう話術と手の技が組み合わさった手品が演芸場向きで好きなんだ。 蜃気楼龍玉は『鰻屋』。鰻裂き職人がいなくなってしまった鰻屋。焼くのは出来ても裂くのは出来ない、って、旦那、お坊ちゃんで育っちゃったんだろうなあ。鰻の丸焼きを出されてもねえ。 「落語が好きだと言う人がいて、よく聞くと志ん生とか円生なんて昔の人だったり、ホール落語にしかいかないなんて人がいますが、こういう寄席で、なんだかわからない落語家を、一緒くたに観るっていうのがいいんですよ。この人つまらないからロビーに行こうなんて言わないように」 桂文雀は『伽羅の下駄』。豆腐屋さんが、酔っ払ったお侍さんに水を飲ませただけで、三百両はするという伽羅の下駄を貰う噺。豪気なもんだねえ。 ひびきわたるのキセル漫談。キセルで赤ん坊の声を出したりする、お馴染みの漫談だが、この人、それよりも次々と繰り出す冗談みたいな駄洒落が面白い。「沖縄でおみくじを引くといいそうですよ。吉(基地)ばかり」 桃月庵白酒は『金明竹』。この噺、最近は東京でも大阪弁が浸透してきちゃったことと、妙にゆっくり、はっきり演る人がいて、なんとなく意味がわかってしまったりする。白酒のゴニョゴニョっとした大阪弁の言い立ては、解りにくくて可笑しい。 金原亭伯楽は『親子酒』。禁酒した親子。おやじさん、酒が呑みたくて仕方ない。おかみさんに酒を呑ませてくれと遠回しに頼むが、なかなか呑ませてくれない。「人のオデキの上を針でつっつくようなこと言うね」 鏡味仙三郎社中の太神楽。仙志郎、仙三の毬の曲芸、五階茶碗に続いて仙三郎の土瓶の曲芸。仙三郎も昭和21年生まれというから、そろそろ65歳か。いぶし銀って言葉がぴったりの芸人。 もともと満員の客席が中トリの柳家喬太郎の高座が始まるころには立見が出始める。スッと『寝床』へ。「ざる屋さんはどうしたい?」「祝儀をたくさんもらったとかで、どうやって使うか気が狂ったらしくて」「魚屋さんはどうした?」「芝の浜で五十両拾ったとかで寝てます」「出てない噺もあるな・・・まあ、いいんだ。鰻屋さんはどうした?」「鰻を裂くのに苦労してまして、前に回って聞いてくれってんで、行方不明です」「若旦那はどうした?」「こんなグルグル回る家はいらないと言って酔っ払ってます」「豆腐屋さんはどうした?」「伽羅の下駄とかいう高価なものをお侍さんからいただいたそうで大騒ぎでございまして」 前の人のネタを拾って自分のネタに盛り込む。喬太郎お得意の技。こういうのは寄席の番組の中でこそ活きてくる。サラから観てるともっと面白いんだよね。駄目押しは戻って来たお店(たな)の魚屋に「おや、魚勝さん、どうしましたい?」「へい、それが夢だっんですよ」 ははあ、とうしても『芝浜』を無理矢理入れたのは、これがやりたかったんだな。 仲入り後、クイツキの柳家三三がいつになく明るい。「ここ池袋演芸場は改装前は、夜興業しかなかったんですよ。昼は土日のみ。それがいつの間にか昼もやるようになった。それを誰も知らない。お客さんも知らなければ、出演者も忘れて来ないということがありました。だからいつも昼ははガラガラ。お客さんひとりってこともよくありました。一対一。面接じゃないんですから。紙切りの人が上がりまして『何かご注文はありますか?』。たったひとりのお客さん、目を合わさないようにしている。仕方ないから自分で切りたいものを次々に切って、お客さんの前に並べていく。あとでそれを前座さんが拾って片付けて」。ネタは『しの字嫌い』。 五街道雲助は『手紙無筆』。自分の弟子が三人とも出演しているこの興業。この位置で軽い噺を演って繋ぐ。この人もいぶし銀。 柳家小菊の俗曲。都々逸が聴けるなんて寄席の世界だけのこと。♪この雪に よく来たものと 互いに積もる 思いの深さを 差してみる トリは隅田川馬石で『居残り佐平次』。馬石演出は、なんといっても最後に佐平次が見得を切る七五調の歌舞伎演技が見どころだ。決まった! 佐平次の捨て台詞がまたいいのだ。「凶状持ち? おれは居残りを家業にしている佐平次ってもんだ。いい旦那だね。仏のようだ。カナをつければバカだな」 このいきなりの悪党に変身する佐平次がかっこいいんだなあ。 2月9日記 静かなお喋り 2月8日 このコーナーの表紙に戻る |