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2011年3月6日『百栄の節句・新作っぽい日』(東京芸術劇場小ホール)

 春風亭百栄のCD第二弾発売にからめた落語会。百栄三席にゲスト二人。計五席。

 春風亭百栄の一席目は『誘拐家族』。この落語の構成の面白さは、最初は誘拐犯のとぼけた感じと、誘拐された女子中学生の会話のやりとりにあるのだが、後半は娘を誘拐された父親に集約されていくところ。どこまでもどこまでも悲しい存在の父親というのが浮かび上がってくるというラストは、苦い笑いに転換してしまう。世のお父さんみんなに聴かせたいなあ。

 三遊亭白鳥は、師匠の圓丈の『悲しみは埼玉に向けて』を白鳥流に改作した『悲しみは日本海に向けて』。改作といっても、この噺が、珍しや一人称落語とでもいうものなのと、なーんとなく似た雰囲気を醸し出しているというところだけが共通しているという、まったくの別物。自分史を一人称で語っていく。時に誇張らしきものも入るが、これがけっして自慢話などではないところが、この人の聴かせ上手たるところ。

 仲入り後、春風亭百栄『茶金』を始めた。あれ?今日は新作の会だったのではと思ったのだが、なるほど新作っぽい日なのね。こうして聴いてみると、古典の『茶金』を大きく崩さず、百栄らしい笑いをところどころ入れている。いかにも百栄らしい『茶金』。

 三升家う勝は、実は落語をやりに来たのではなく、自分が小勝に入門したときのいきさつに、百栄がからんでいたとしいう体験談『ウエストコースト・ライン』。漫談ネタだが、この入門に至るエピソードは面白い。またそれを面白く聴かせるというのも芸。この人、初めて聴くと思うのだが、今度、落語も聴いてみよう。

 トリは春風亭百栄『天使と悪魔』。古典の天使と新作の悪魔が、その日のネタを決めようとしている落語家に言い寄ってくる噺。おそらく百栄の体験から生まれたものだろうが、新作も古典もやっている噺家さんは、みんな抱えていることなんだろう。サゲが皮肉なのもいい。

4月1日記

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