2009年9月19日 サスペンデッズ 『夜と森のミュンヒハウゼン』 (三鷹市芸術文化センター星のホール) 客席の扉に入ると、そこは大変なことになっていた。なんと、いつもの客席が取り外されている。しかも薄暗い。しかも、それどころではない。劇場内はいわば森の中! 木々が立ち並び、床は木屑やらなにやらが敷き詰められている。その中を進むと奥に座席が見える。普段はステージのある場所の、そのステージも取り外されていて、そこに座席が逆向き、つまりいつもは客席だった方向に向けて配置されている。妙に居心地の悪いというか、いいというか、不思議な気分にさせられた。 劇場全体が舞台なのだ。観客は森になってしまった劇場全体を舞台として、そこに繰り広げられる芝居を観ることになる。 ひとりの女性が森の中に迷い込んでくる。この森の中は一角獣がいたり、殺人鬼がいたりする不思議な空間。女性は、この森の中にポツンと一軒だけたっている家にたどり着く。この一軒家には兄と妹がふたりだけで暮らしている。妹は病に冒されていて、森の外に出ることを禁じられている。迷い込んできた女性は看護師の仕事をしていたのだが、不倫関係の生活に疲れ、旅に出て、この森に迷い込んできたということが語られていく。 芝居が始まった当初はなんだか、それこそ森の中で狐に化かされたようで、何が起こっているのかわからず、しかも何を言いたい芝居なのかもわからず、森の中で不安に襲われてしまったが、ラストに向かって、ひとつひとつの断片が繋がってきて、見事に腑に落ちた物語になっていくのに驚かされた。 芝居が終わってカーテンコールがあっても、なかなか観客が座席から立ち上がれずにいたのは、この空間の余韻をもっと味わっていたかったからだろう。こんなセットを作った勇気あるスタッフ、それを許した劇場側の心意気に盛大な拍手を送りたい。 9月26日記 このコーナーの表紙に戻る |