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2009年11月7日第14回人形町翁庵寄席 落語人形市
 今年の正月に、プーク人形劇場に新作落語の会を聴きに行った時のこと。瀧川鯉朝が『街角のあの娘』をかけていた。この噺を聴くのはこのとき二回目。噺を聴きながら、私の頭にあるアイデアが浮かんだ。秋の人形町人形市に合わせて、人形が出てくる噺を並べたらどうだろうと思いついた。さっそく楽屋に鯉朝師匠を訪ねる。「秋の落語会に出て欲しいんですけど」 「ええ、いいですよ。きょう演ったような噺ではなくても、いろいろ出来ますから」 「いや、きようのあの『街角のあの娘』をお願いしたいんですけど」 鯉朝師匠には三年前、まだ二ツ目で昇輔という高座名だったときに一度、翁庵寄席に出てもらったことがある。あのときは正式な出演者ではなく、ちょっとしたお手伝いで落語は無し、漫談だけという形になってしまった。一度、きちんと落語を演っていただこうと気になってもいたという事情もある。これであのときの借りを返せそうだ。
 人形の出てくる古典落語はいくつかあるが、まず頭に浮かんだのが『人形買い』。二ツ目の噺家さんでこの噺を持っている人はいるだろうかと思っているうちに、春風亭一之輔さんに会ったときに、この話をしたら、「じゃあ憶えてきます」と言うので一之輔さんにお願いしてしまった。
 もう一席欲しいなと思っていた時、またこの話を川柳つくしさんにして、話の乗りで「つくしさん、人形の出る噺、作ってみませんか?」と口にしたら、「やります!」という答えが返ってきた。よし、これで秋の企画は決まった。

 開演。まずはいつもの前座役、立命亭八戒。「人形縛りなんでしょうけど、私は人形の出てくる噺を持ってないから」と高座に上がると、人形がらみのマクラをたっぷり。そこから『狸さい』というより、『ミッキーマウスさい』?
 春風亭一之輔は、本当にこの日が『人形買い』のネタ下ろし。まさかネタ下ろしとは思えないほどの完成度にびっくり!
 川柳つくしが作ってきた噺は、結婚生活に疲れた女性が人形と結婚するという噺。いかにも女性視点で作られた噺という感じがする。タイトルは『妻の結婚』。これが、オタク男が人形と結婚する噺だったらグロテスクになってしまったろうなと思う。お見事、お見事。つくしさん、どうもありがとう!
 瀧川鯉朝は、先日亡くなった圓楽師匠の裏話をたっぷり演って、実は『動物園』を改作した、かなりアブナイ噺を演りたがっていたのだが、ネタ出しがしてあるのでと『街角のあの娘』。うん、完璧!

 ウチアゲは、さらに楽しいものになった。つくしさんから、モニターで一之輔の高座を観ていた鯉朝師匠が「凄いね」と言ったとか、一之輔は鯉朝師匠のマクラを寝っ転がって観ていたが噺に入ると起き上がって観ていたという話を披露すると、一之輔が鯉朝師匠に「今度、落語教えてください」 「いいよ、なんでも教えるよ。『よるのてんやもの』でもいいよ」 ううう、古典派の一之輔のイメージが! 鯉朝師匠はサービス精神が凄い。何しろウチアゲの席で落語が始まってしまうのである。こんな噺家さん初めて。ははは。

11月23日記

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