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2010年11月20日 第16回翁庵寄席 天国への階段

 桂小春団治師匠のネタに『天国への階段』という、三話からなる噺があるということを知って以来、これがどうしても聴きたかった。ただ何しろ三話全部演ると75分かかるということで、なかなか聴けるチャンスがない。ただでさえ上方の噺家さんである。東京で聴ける機会も、そうそう無い。

 ようし、久しぶりに翁庵寄席に呼んじゃおうか。こっちが大阪まで交通費と宿泊費を出して聴きに行くなら、噺家さんの方に交通費と宿泊費を払って来てもらった方が手っ取り早いではないか。

 こうしてこの企画が私の頭の中でスタートしたのが去年の夏。八戒さんを通じて小春団治師匠に連絡を取ってもらい打診してみる。快諾の返事をいただき一安心。

 今年に入り話を詰めていく段階で、『天国の階段』には、はめものが必要だということが初めてわかった。当初、テープを使おうかという案が出されたが、これだとテープを回すキッカケを相当打ち合わせしておかないとならない。キッカケを間違えると噺自体がグズグズになってしまう恐れがあるからだ。

 しかし、はめものともなると下座がいる。『天国への階段』には、三味線、太鼓、笛が必要になってくる。上方から呼ぶとなると下座さんたちの交通費、宿泊費、ギャラが浮上してくる。迷った。木戸銭はそんなに高くは設定できない。すでに小春団治師匠ひとりの出演料、交通費、宿泊費だけでも、当日満席になったとしても、全ての収益が飛んでしまう。

 この企画は諦めようかとも思いかけていた今年5月。父が他界した。父は落語が大好きだった。私に落語の楽しさを教えてくれたのも父だった。今天国にいる父に『天国への階段』を聴かせること。これが父への追悼になるのではないかいう思いが私の中に湧き起こった。

 小春団治師匠と再度の打ち合わせで、三味線のお姐さんは東京の人にお願いすることで、交通費、宿泊費を節約する。笛は上方からこの噺に慣れた人を連れて来てもらう。太鼓は手の空いている者が叩くということで落ち着いた。

 となると、東京からもうひとり出演者をと考えていた人選はすんなりと決まった。瀧川鯉朝師匠以外に考えられなかった。小春団治師匠とも親交はあるし、元は高知出身で関西文化圏の人。鳴り物もなんでもこなせる。それになんといっても細かな心遣いの出来る師匠だ。頼りがいがある。

 鯉朝師匠に東京の三味線のお姐さんを紹介していただき、小春団治師匠用の出囃子の音源と、『天国への階段』で三味線の独奏で使う曲をお伝えする。

 当日。いつものように朝からひとりで出来る準備を開始する。座布団、毛氈、メクリ、メクリ台、照明、モニターの準備。楽屋の準備。そして終演後にお出しするそばの準備。

 16時30分に三味線のお姐さん、下座で笛を吹いてくださる笑福亭三喬門下の喬若さんが楽屋入り。さっそく打ち合わせが始まる。と同時にスタッフも集まり会場設営開始。

 17時30分鯉朝師楽屋入り。18時開場。18時10分小春団治師、昼間の大阪での出番を終えて楽屋入り。

 開演までのBGMはレッド・ツェッペリンの『天国への階段』をエンドレスで流す。

 小春団治、平太鼓。鯉朝、締太鼓。喬若、笛で二番太鼓。笛まで入ると生の鳴り物は迫力がある。

 今回は開演時間がいつもより遅いのと、長講が待っているので立命亭八戒さんの開口一番は無し。私のマエセツも短めに終わらせる。

 瀧川鯉朝『竹の水仙』。楽屋に置いておいたネタ帖で、まだ『竹の水仙』が出ていないのを確認して、あとに邪魔にならないのを配慮しての選択とのことだった。宿の主人が階段を上がるところで足で高座を叩くのだが、板の間の高座ではない。店のテーブルを高座にしたものなので、あまりいい音がしないのだ。首をかしげながら階段を上って行く仕種をしながら「うちの階段、鉄板が入ってたっけ?」というアドリブはさすが。

 桂小春団治『天国への階段』は、三人の作家が同じテーマで書いたものを持ち寄ってオムニバス形式にしたもの。天国への入国審査で、指令を達成出来た者だけが天国へ入れる資格を得られるという設定で、さまざまなミッションを与えられた主人公たちが現世に戻されて奮闘するという噺だ。

 第一話は、映画の『メン・イン・ブラック』を下敷きにしたらしい。3日以内に地球を危機から護れという漠然としたミッション。地球防衛軍シークレット1998という組織に入り込んだ主人公のドタバタした様が可笑しい。

 第二話は、大相撲の前頭三枚目になれというミッション。トリガラのような体型を持つ貧弱な男が相撲部屋に弟子入りするのだが、これがまた可笑しいのなんの。内容は秘密秘密。大爆笑ものです。

 第三話が、小春団治師匠の書いたもの。三ヶ月間で300万円を稼げと言うミッション。三ヶ月で300万円は、シャカリキに働けば不可能ではないと思った主人公。「明治時代なんていうのはだめですよ」なんてダメ出しを付けて地上に戻ってみれば・・・飛んだ落とし穴。

 一話終わるごとに、レッド・ツェッペリンの『天国への階段』のイントロが笛で入るという構成も面白い。ラストにエピローグが入ってストーンとサゲが入るのも見事だ。

 終わって、そばをお出しする。

 店を片付けて居酒屋のウチアゲに参加。楽しいウチアゲになる。

 今年5月に他界した父はどんなミッションを言い渡されたのだろうか。「翁庵寄席を成功させなさい」だったのだろうか。だとしたら、おやじ、ありがとう。立派に成功したよ。

11月23日記

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