2011年11月12日第18回翁庵寄席 泰孝くんと孝泰くん そばを出さない初めての翁庵寄席。そばの仕込みがなければ急いで準備することもあるまいと思いながらも、午後には店に行く。一ヶ月間放っておいた店は、なにやら嫌な臭いがこもっている。窓を開けて空気の入れ替え。こっちのものをあっちへ、あっちのものをこっちへと店の中を片付けているうちに、どんどん時間は経っていく。 15時、小宮孝泰さん早々と楽屋入り。今月迫って来た一人芝居の台詞を憶えたいからと楽屋でひとりで稽古に入る。 16時にスタッフが集まりだしたので、会場の設営。いつものことながら慣れたもので、さっさっと準備完了。 16時30分には林家正蔵師匠、楽屋入り。開演一時間半前の楽屋入り。これまでの噺家さんの中では最速。楽屋で小宮さんと楽しそうな会話が聞こえてくる。 17時30分開場。どんどん客席が埋まっていき、開演前には超満員となる。 18時、まず私が出て、翁庵寄席のこれまでの歩みを説明する。終わって下座に下がったら20分も喋っていた。 開口一番の前座さんは三崎家桜の輔。翁庵寄席には初登場だが、喋り慣れているらしく落ち着いた高座。『子ほめ』をオリジナルのくすぐりを入れながら笑いを取る。 林家正蔵一席目。大阪でお好み焼き屋さんに入った時のエピソードがマクラ。お好み焼きを焼いてくれるオバチャンの、焼き方への妙なこだわりを面白おかしく語る。最後には、とぼけたサゲまで用意されていて、それが『身投げ屋』のこれまたとぼけた噺に繋がっていく。 小宮孝泰一席目は『厩火事』。おそらくこの噺が小宮さんを現在のように、あちらこちらで落語を披露することになるキッカケになったもの。いつかはこの噺を自分のものにしようという意気ごみがあったに違いない。それだけになかなかに力の入った熱演になった。今までやってきた噺の中でも、より落語らしい落語に仕上がったなという印象。 中入り後は、小宮孝泰二席目。その『厩火事』の英語バージョンと、それを演ることになった何年か前のイギリス文化交流留学のエピソード。客席にオーストラリア人が何人かいらしていたが、この英語の落語を聴くのが目的だったらしい。はたしてオーストラリア人に落語はどう聴こえただろうか。 トリは林家正蔵『伊予吉幽霊』。友人のところに幽霊になった伊予吉が現れるという意表を突いた導入部から引き込まれ、後半、幽霊が母のところに現れるというホロリとさせる展開へ。そしてうまいサゲへと至る。正蔵師匠、こういう人情噺一歩手前の、ホロリとさせる中にも滑稽さが漂う噺、前回の『ハンカチ』同様、自分のものにされてきたなという感じがある。 終わって、そばを出さないので会場の片付け。近くの居酒屋でウチアゲ。たくさんのお客様が残ってくださった。感無量。 丸九年間続いた翁庵寄席。いろいろな想い出が頭をよぎる。やってよかった。この記憶は私の大きな財産となったといえるだろう。出演してくださった噺家さん、スタッフのみんな、そしていらしてくださったお客様、本当にありがとうございました。 11月13日記 このコーナーの表紙に戻る |