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客席放浪記

2011年10月22日柳家三三独演会(かなっくホール)

 二ツ目の柳亭市楽が高座に上がる。「トリを取れるのは真打になってからなんですが、私、トリを取ったことがあるんです。と申しあげましても、東京の寄席ではございません。名古屋の大須演芸場。潰れたお化け屋敷みたいな外観をしているところなんですがね。私ちょうど『青菜』という噺をしておりました。前半は大店の旦那が出入りの植木職人さんに酒やツマミの鯉の洗い、鰻の蒲焼きなどを勧める、風情のあるところが続く噺です。すると客席に座っていたおばあちゃんが『マンゴプリンをどうぞ』と大きな声で私に言うんです。思わず『植木屋さん、マンゴプリンをおあがりなさい』。ネタは『看板のピン』

 柳家三三一席目。「秋葉原の石丸電気ソフト館というところで定期的に落語会が開かれていたことがありました。私も呼ばれたことがあったんですが、ちょうどその前日に私は、このソフト館で落語のCDを何枚か買おうとレジへ持って行ったんです。レジの机には明日の『柳家三三独演会』のチラシが貼ってある。すると店員さん、そのチラシを見て言った言葉が、『明日、落語会がありますがチケット差し上げましょうか?』『いや、結構です』『キップ、けっこう余っているんですよ』とドキッとしたこと言われて、『いや、本当に結構なんです。キップなくても私はいいんです』『まあ、大した芸人じゃないんですが、キップどうぞ』『いや、私はキップなくても入りますから』『あっ、キップ無いと入れませんよ』『無くても入ってみせます』。翌日、会場に行ったら前日の店員さんがいる。大きな声で『おはようございます』と挨拶したら、『キップ無いと入れませんよ』『じゃあ帰ってもいいんですか?』『いいですよ』『でも私が帰っちゃうと落語会始まりませんよ』『始まりますよ、時間が来れば』。そのときイベントの係の人が来て私を楽屋に案内しようとしてくれたんですが、くだんの店員さん、『この人まだキップ持ってないんです』」 多少の創作もありそうだが、このエピソードは可笑しい。三三らしく、チケットをキップと言うところもいかにも。ネタは『蒟蒻問答』。三三というと、大ネタという印象が強いが、こういう笑いの多い噺もお手のものだ。

 柳家三三二席目。湯呑みを高座に用意させる人がいる落語家についての様々なウンチクを聴かせてくれて、「白湯を入れる人が多い中で、うちの師匠(柳家小三治)はカルピスウォーターを入れてましたね。それから不二家ネクター。もう地方に行くときは現地でネクターを探すのに苦労しました。一時期コーラを入れてたことがありまして、これはどう考えてもまずいでしょ。あるとき、ようやく気が付いて『コーラはゲップが出るな』。一度で止めたのが牛乳。口の周りに白い跡が着いてしまう」 二席目は少し重い噺かなと思ったら、二席目も笑いの多い『崇徳院』。若旦那の一目惚れの相手を探しに、腰にワラジをたくさん結わえつけられて熊さんは外に出される。「ワラジを引くと『ぞろぞろ』と出てくるんじゃないだろうな」なんてクスグリまで入れて、ほとんど浦島太郎の腰蓑状態。「瀬をはやみ〜」と読みながら道を歩いていると、子供がたくさん集まってくる。「どこに亀がいるかだって? 浦島太郎じゃない! 釣竿持ってないでしょ!」

 大ネタ、珍しいネタの三三という印象があったのだが、こういう三三は予想外だった。でも、こういう面が見られてうれしかったな。

10月23日記

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