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客席放浪記

月例三三 11月

2012年11月7日
イイノホール

 桂三木男『人面瘡』
 スリの膝に出来た人面瘡が、スリを改心させる噺。最初のうちは頭で膝の人面瘡が喋る図を想像しただけで気持ち悪くなってしまったが、だんだん気にならなくなった。しかし人面瘡の噺とわかった途端、客席が私同様やや引いてしまったような。噺の内容はしんみりと聴かせる、いい噺なのだけどね。会の最初にかけるというりは勇気がいるだろうに。
 あとから出る三三が、三木男がこの噺を演ると聞いて「ホロリ系の噺だろ? じゃあ私が先に出ようか?」と言ったというのがわかる気がする。

 というのも、柳家三三の一席目は『一目上がり』。登場人物も少なく、笑いも多い噺で、前座から二ツ目がよく演る。なるほど三三はそう言いそうだ。

 二席目は『くしゃみ講釈』ということで、畳敷きだった寄席、池袋演芸場のことをマクラにする。池袋演芸場といえば、以前は客が来なかったという話題。お客さんひとりということもあったようで、そういうときの紙切り芸人さんのお題の貰い方もそれぞれだったとか。
 「先代の正楽師匠は、たったひとりのお客さんが黙ってると『ないの? 何か言って』。お客さん、当時『ジェラシック・パーク』が公開されていたので、『Tレックス!』 『何?』 『ティラノザウルス・レックス』 『あっ、恐竜? ゴジラね』 恐竜と怪獣の区別がつかなかった」
 「当代の正楽師匠はそのころ、当時話題になっていた事をズラリと切って並べて『お好きなのをお持ちください』」
 「二楽師匠は、楽屋に『前座さん、何か注文ない?』}
 噺の方は講談好きの三三だけあって後半の講談を読むところが、なかなかの圧巻。

 仲入り後はネタ出しのあった『文違い』。聴いていて、三三は、先月の『井戸の茶碗』のような真っ正直な善人だらけの噺よりは、どこか腹に一物の屈折した心を持っている人物が出てくる噺の方が面白いんじゃないかと思えてきた。『文違い』の手練手管の花魁。さらにその上を行くマブあたりは絶好の人物だし、花魁に騙される男の値切ってみせたりの往生の悪さも面白い。三三の噺を聴いていると、人間のこういう心の奥にチラチラ見える、どこか暗い一面が浮き出してくる。そういう凄みを私は三三に感じる。

11月9日記

静かなお喋り 11月7日

静かなお喋り

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