2009年1月9日ラッパ屋『世界の秘密と田中』(紀伊國屋ホール) 外国人向けに作られた家具付きアパートが舞台。どの部屋も同じ構造で同じ家具が同じ位置に置かれているという設定。つまり、同じ舞台なのだけれど、そのときそのときによって誰の部屋なのか、観客の方で頭を切り替える。最初はそれがわからずにやや混乱。 アパートの住民同士は、気持ち悪いほど交流が深い。一応タイトルの田中が主人公ではあるのだが、他の人たちのドラマも十分に盛り込まれ、誰もが存在感がある脚本になっている。 その田中だが、アラフォーの菓子メーカーの営業マン。彼の悩みは三つ。営業の仕事がうまくいかない事。その割には仕事は忙しくて恋人礼子との仲が発展しない事。そして父が痴呆症になってしまい親から家に帰ってこいと言われている事。 そんなある日、田中は住民のひとりで、世界のことを何でも知っていると噂される住民玉村の部屋を訪ねる。玉村は株のインターネット取引で生活している自由人。彼は田中に営業成績を伸ばす、ちょっとしたヒントを与える。天啓を受けた田中は、ますます仕事に打ち込むことになる。 田中が仕事にますますのめり込むことになって、恋人の礼子は煮え切らない田中に業を煮やす。そこで礼子も玉村に相談に行く。この玉村という人物、うまいことをいろいろと言うのだ。「落ち込んでいるときは、背筋を伸ばしてみなさい。落ち込んでいるとどうしても背が丸くなる。伸びをすると、気が楽になります」とか。こういう言葉に女性は弱いんだよな、きっと。その日の内に玉村と礼子は関係を持ってしまう。 仕事はうまくいったのに、恋人を取られてしまう。まあ自業自得なんだけど、田中の気持ちはよくわかる。玉村と礼子は結婚することになる。田中は二人の結婚を祝福して結婚式の司会をやると言い出す。ところが心の中では、この結婚式をメチャクチャにしてやるんだという気持ちでいっぱい。そのことを妹の翔子に見透かされて思いとどまる。 田中のもうひとつの悩みだった父親の介護。田中はラストで、「全てを引き受けよう」と決意する。あの優柔不断だった田中がここにきて成長した感じのラストだ。 わかるのだよ、田中の気持ちが。私も似たような人生を歩いてきたから。そしてここにきて、私も自分の生活に老人介護という役が回ってきた。全て引き受けるしかない。田中の決意は私の決意でもある。 1月11日記 このコーナーの表紙に戻る |