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客席放浪記

2012年2月6日『桂塩鯛独演会』(国立演芸場)

 開口一番は桂小鯛『動物園』。頑張ってね。

 「つもり預金っていうのがございまして、焼肉をたべたつもりで1980円貯金。1980円って半端なのがいいでしょ。それが最初のうちはいいんですが、そのうちに1980円貯金したつもりで焼肉」と、近く桂南天になる桂こごろう。「つもり」といえば、落語では『だくだく』の名フレーズだ。東京の『だくだく』は上方では『書き割り盗人』。『だくだく』という演目ではサゲを割ってしまっているが、『書き割り盗人』は、サゲも違う。「なげしに槍を描いてください」「俵星玄蕃の子孫かと思わせるんか?」 東京だと柳亭市馬が歌い出しそうだね。

 「名跡を継ぐというのは、周りからいろいろ言われて大変なんですが、南天になる、こごろうは何にも言われませんでした」と、桂塩鯛。「私の塩鯛という名前も、六十何年継ぎ手がいなかった名前で、みんなから『どうぞ継いでください』と言われまして」。塩鯛を名乗ることになった時から教えて貰おうと思っていたらしい桂三枝の『鯛』。そういえば、この噺は塩鯛という名前以前に、本人にぴったり合った噺だと思える。「この生簀の中で老衰で死にたい」という鯛のギンジロウじいさんのバイタリティは、まさに塩鯛らしいではないか。

 仲入り後の『百年目』は、塩鯛が翁庵の会でも演ったネタ。この噺のマクラに寿司屋での差し入れ事件を持ってきたのも同じ。これはいい体験をしたよなあ。まさに百年目という体験だ。

 以前にも書いたことがあると思うが、この噺で私が一番好きなのは、最後の方。旦那が丁稚に、番頭さんを呼びに行かせる。テンパッてしまっている番頭が、「なるようになれ」と思い、「今行くと言っておけ」と言う。それを聞いた丁稚が旦那に、そのまま「『今行くと言っておけ』と言ってました」と告げてしまう。それに応じる旦那。「何という言いようだ。よしんば番頭さんがそう言ったとしても、そのまま伝えてどうする。『番頭さんは、これから参ります』とどうして言えない」と言う。これは私が経験したことでもあるので、身に沁みてわかる。

19時開演、21時10分終演。

2月7日記

静かなお喋り 2月6日

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