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2010年11月9日林家正蔵独演会(横浜にぎわい座)

 開口一番は林家はな平『道灌』。頑張ってね。

 林家正蔵一席目。正蔵の噺を聴くのは久しぶりだ。いや、ひょっとすると正蔵を襲名してから初めて聴くのかもしれない。それくらい積極的に正蔵師の高座を観ようという気にはなれなかったのだ。久しぶりに見る正蔵は、明らかに以前より痩せていた。というか、脂っけが抜けていたというべきだろうか。

 軽く、今横浜で行われているAPECの警備の厳しさにふれて笑いをとったかと思うと、スーッと自然に『悋気の独楽』に入る。落ち着いている。以前はマクラからなんとか笑わせようと無理をしていたような気負いが無くなっている。自然に客席をリラックスさせるような配慮が感じられるのだ。

 その『悋気の独楽』も、急かず、落ち着いた物腰で噺の世界に客を誘う。浮気をしている旦那を歌丸師匠のような風貌のエロ親父という風に語り、いかにもそのような声で描いていく。定吉もそれほど子供っぽくもなく、そこそこの人格を持たせてあるあたりが好印象。この噺が持っていた、ある意味の不自然さも丁寧に修復されていて、「やるじゃないか」と思わせる出来だ。

 林家たこ平『金明竹』。元が関西出身だそうで、関西弁が自然だし、妙にどこか個性的な関西人の『金明竹』になっている。

 林家正蔵二席目は、関西の新作落語コンクールで入選したらしい噺『ハンカチ』。夫婦の機微を描いた、どこかほのぼのとした噺だが、これも力まず、スーッと噺の世界に客を引き込んでいく。サゲの一言にホロリとさせたところで幕切れ。鮮やか!

 仲入り後は、ぴろきのギタレレ漫談。自虐ネタが続く。「台所にとてもおいしそうなバウムクーヘンがあったんですぅ。かぶりついてみたら、ガムテープでしたぁ」 「来月から、今より家賃の高い部屋に住めるようになりましたぁ。家賃が値上がりしたんですぅ」 「母親に何かして欲しいことはないかって訊いたんですぅ。お願いだから外で会ったら他人のふりをしてくれって言われたんですぅ」

 林家正蔵三席目は『蜆売り』。この難しい人情噺、驚きました。正蔵、落ち着いている。登場人物は三人。その三人で緩急をつけて、うまく噺を運んで行く。客を無理に笑わせようとせず、落語の世界に引き込んでいく。以前、一生懸命さのあまり空回りしていたようにも見受けられた様子はもう無く、実に堂々としている。

 林家正蔵。その大きな名前を持っても恥ずかしくない存在になったと私は確信した。

11月12日記

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