2011年6月4日 鈴本演芸場夜の部 思い起こせば、3月中席の鈴本演芸場夜の部の主任は隅田川馬石だった。期間中に一度は観に行こうと思っていた、その初日の3月11日、東日本大震災が起こった。結果、鈴本はこの中席を一日だけしか営業しなかったらしい。こちらも、行く機会を逸してしまい、幻の興業となってしまったのだが、改めて6月上席で隅田川馬石が主任の興業が組まれた。これは行かねばなるまいて。 開口一番の前座さんは、入船亭ゆう京で『寿限無』。頑張ってね。 「女性の噺家は今、東西合わせて20人くらい。なぜ、くらいかっていうと、今も増え続けているからです」と林家ぽたん。確かに『ちりとてちん』以来、女性の噺家は着実に増えているみたいだ。ネタは『転失気』。下ネタ噺は女性はやりにくいだろうと思って聴き始めたのだが、そんな心配はなかった。あっけらかんと演ってる。 翁家勝丸の太神楽。五階茶碗も、落ち着いている。顎にお椀を乗せて「長い間やっていると、顎が長くなってきたように感じます。ロング・ロング・ア・ゴー」 傘の曲芸も見事。「自分の和傘には名前を付けています。この傘の名前は、クリスティといいます。ワガサ・クリスティ」 「鼠小僧という盗賊は、千両の盗みに入っても五百両しか取っていかなかったそうで、その中から二百両を自分で使い、二百両を人に分け与え、あとの百両は確定申告」って、とぼけたマクラを振って柳家三三が『釜泥』。もちろん本編もすっとぼけている。このへんが小三治から学んだところなのかもなあ。 林家彦いちは、学校寄席での女子高生の反応で笑いを取り、そのまま最強のドキュメンタリーネタ『睨み合い』に。 ロケット団の漫才。最近、この人たちは「そんなのは、山形じゃずっと前から使ってますよ」のネタが多かったのだが、この日はそれは無し。最初こそ、お得意の四字熟語から入ったが、東京電力、大相撲、ユッケ、上野のパンダ、プロ野球、心理テスト、プロ野球、サッカーと時事ネタを振っていく。こういうのって漫才にしかできないんだ。寄席でこういうのを聴くのはうれしい。 春風亭百栄は先月ネタおろししたらしい『ドラ吉左衛門之丞勝家』。新作落語を作るのに四苦八苦している噺家のところに、ばったもんのドラえもんが現れる噺。こういう噺どんどん寄席にぶつけてくる百栄の心意気やよし。 宝井琴調の講談は、『大岡政談 人情匙加減』。大岡政談って、無理矢理って噺が多いけれど、これもそのたぐいだねえ。面白いけど。 ペペ桜井のギター漫談はいつもの調子。「ちょうど三月の地震のときに高座にいたんです。そしたらお客さんみんな逃げちゃった。一緒に逃げましょうなんて誰も言ってくれないの。それで、地震が収まったら、100人しか入って無かったお客さんが200人に増えているの。ドサクサで入り込んだ人がいるんでしょうね」 蜃気楼龍玉は『親子酒』。もー、寄席に来ると、誰かは酒飲みの噺をする。うまそうーに飲むんだよな。今夜はやっぱり日本酒って気になっちゃう。 花島世津子のマジック。新聞を小さく切っていって、元に戻す手品。「かたい!」と切れなさそうな顔をして「日経新聞かしら?」 で元に戻った(?)新聞は、あれあれスポーツ紙。 さあてトリの隅田川馬石は『船徳』だ。特に大きくいじってはいない『船徳』だが、人物ひとりひとりの描写が演劇的。船宿の旦那は迫力があるし。おかみさんは実に生き生きしている。主人公の徳の性格もうまく出ているし、ふたりの乗客の個性も、見せる、見せる。暑い日の隅田川の情景が見事に表現されている。 三月だったら、季節的に『船徳』は聴けなかったろうなあ。 このコーナーの表紙に戻る |