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2011年3月19日 たい平喬太郎二人会(サンパール荒川)

 東日本大震災の影響で公演が中止された落語会がいくつかある。この『たい平喬太郎二人会』はどうだろうと思って問い合わせてみると、予定通り行うという。よかった、よかった。

 以前にサンパール荒川に来たのはいつだったろうか? 調べてみたら2003年5月立川志の輔独演会だった。8年ぶりかあ。今回も三ノ輪から歩く。この会場には精養軒が入っていたはずなのだが、他の業者に代替わりしていてた。

 早めに会場に着いてしまったので、会場付近を散歩する。都電荒川線はやっぱり絵になる。写真を何枚か撮る。

 開口一番は地元に住んでいるという春風亭一左『悋気の独楽』

 林家たい平『明烏』。伝兵衛とたすけに騙されて吉原にあげられた若旦那が泣き出してしまう。「あれ、嗚咽っていうんだろ」「読めるけど書けない」 そんな一夜が明け、起きてきたこれまた伝兵衛とたすけ。「そんなとこ開けるんじゃないよ、甘納豆が出てきちゃうよ。先代の桂文楽がおいしそうに食べるんだ。林家の芸風ではできないだろ」

 仲入りが入って、柳家喬太郎。今回の地震のことがマクラ。「人間死ぬ時は死ぬんだから。今ここで地震が来て死ぬかもしれませんが、「好きな落語聞きながら死ぬのもいいか。でも最後に聴いている落語が喬太郎かあ。小三治で死にたかったなあ、なんて」

 そんな冗談を言って『文七元結』に入って間もないころ、今回の大地震の余震とみられる、強い地震が会場で感じられる。「みなさん、安心してください。荒川区は高い税金取って、このくらいで壊れるようなチャチな建物は作っていません」 この機転。お客さんを安心させると同時に笑いも取るというところが、いかにも喬太郎らしい。

 噺に戻ろうとするが、うまく入っていけない喬太郎。それを吹っ切るように、「ええい、この世で最後の落語は柳家喬太郎の『文七元結』だあ!」と叫ぶ。それにお客さんからは熱い拍手が返ってくる。

 吾妻橋から身投げをしようとした男に長兵衛が五十両くれてやるかどうするか迷う様を手の動きだけで表現するところが圧巻。それで笑いまで取るのだから見事というしかない。

 いい『文七』だったなあとロビーに出ると、たい平と喬太郎が義援金の募金箱を持って立っている。「あっ、やられた」という思いが頭をよぎる。見ず知らずの困っている人に大金をくれてやる噺を聴かされた後である。みんな募金しようという気になるわなあ。喬太郎の前に長い列が出来ている。みんなお札を持っている。硬貨を握り締めていた人も周りを見てお札を取り出している。私も札を一枚取り出して列に並んだ。そんな喬太郎は笑顔を振り撒きながら、「被災地に送ります。けして新宿末廣亭の建て直しには使いません」なんて冗談を飛ばしている。凄いな、この人。私が募金箱にお金を入れると、私に気づいてくれて、「あっ、大将、今度また」 もう、なんて気配りまで忘れない人なんだ。

 喬太郎師匠、あんた確信犯だな。こんなときに『文七元結』を演るなんて。素敵すぎるよ。粋なことをしてみせた喬太郎の心意気に感動を覚えながら三ノ輪まで歩く。三ノ輪の街も店舗は照明を落としていて暗い。でも私の心は明るかった。

4月16日記

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