2011年2月20日『ろくでなし啄木』(天王洲銀河劇場) 三谷幸喜作・演出の三人芝居。銀河劇場の前に東京芸術劇場公演もあったのだが、あそこは前の人の頭が舞台を遮ってしまって、よく見えなかったという不満があったので、銀河劇場にした。結果、大正解だったのではないかと思う。こういう日本家屋、畳世界の話って特に役者が地べたに座り込んでいる、あるいは寝っ転がっている場面が多い。そうするとどうしても前の人の頭が気になるのだ。 導入部、中村勘太郎と吹石一恵が、何年振りかで出会って、昔のある一夜のことを語りだすところから一転、雨の夜、傘をさして立っている石川啄木こと藤原竜也。そこに『ろくでなし啄木』のタイトルが浮かぶ、ってかっこいいではないか。 話はある温泉宿にやってきた三人の、その問題の一夜の話。三人の関係性の中で、確かに啄木って、ろくでなしっぽい奴だったんだなあと思わせられる展開で、これはこれで面白い。でも、なにもこれを三谷幸喜がやることもないのではないかなあと思っていると、さすが三谷幸喜、途中で休憩を挟んで二幕目に入ると、突然三谷がやりたかったことが見えてくる。 なんとこの芝居は、三谷版『藪の中』。一幕目が啄木からの視線だとしたら、二幕目は、テツ(中村勘太郎)の視線から一幕目の主だったところが描かれて行く。こういうふうにしてみると、人それぞれの思惑の違いによって、その場で起こっていることは、まるで違った風景になっていってしまう。 そして最後はトミ(吹石一恵)の視点から見えてくるもの。 ラストの鮮やかさも、さすが三谷幸喜だと思わせる出来。 銀河劇場って、浜松町からモノレールに乗って、海岸通りを上から眺めながら行くというのが、現実感から異次元空間に入って行くという感じで好きなのだが、特にこういう作品を観終わった後の夜は格別な気分に浸れるのでした。 3月26日記 このコーナーの表紙に戻る |