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2011年10月29日柳の家の三人会〜秋〜(グリーンホール相模大野)

 開口一番の前座さんは、花緑の弟子柳家フラワー『道潅』。頑張ってね。

 「終演後にお客様から、『時間が短く感じたよ』と言われるとうれしいですね。碁将棋なんてものも時間を忘れると申しますが」と柳家花緑『笠碁』に入る。

 一手待ってくれと頼む男の、間違って打ってしまったことを悔やむ悔み方が、いかにも悔しいという感じでいい。「この一手、間違って置いちゃったんだよ。別のところに打つはずだったのが、間違えて置いちゃったんだから、やり直させてくださいよ」「だめですよ、待ったなしで始めたんですから」「どうして、こんなところに置いちゃったかなあ。待ってくれたら・・・うれしいよ」「・・・・・」「こんなんじゃ、やる気もなにも失せちゃうな」「待ったなしで始めたんですから、この一番はこのままやって、もう一番やればいいじゃないですか」「こんなとこに置いちゃいけないよな」「・・・・・」「(口元に指を一本上げて懇願する所作)」「いけませんよ!」

 これが元で喧嘩別れになるのだが、別れてからの両者の悔恨の念が伝わってくるところもいい。サゲは普通のものと変わっていた。家に上がり込んだ男が、なんと笠を外してしまう。えっ、これでは『笠碁』にならないだろうと思ったら、なかなかウイットに富んだサゲが用意されていた。平常のサゲもとぼけた味わいがあっていいのだが、これもまたいいなあ。

 仲入り後が柳家喬太郎。「このホールには何回か来ていますが、余所のホールとの大きな違いがひとつあります。ここは相模大野の駅から伊勢丹を通りぬけないと来られない。デパートの中を通らないと来られないホールはここだけでしょ」

 「私ね、もう少し早く楽屋入りするつもりだったんですが、伊勢丹でね北海道展やってるんですよ。きょう終わってからね、この会場の60%の人は北海道展に寄って帰りますね。夕食はジンギスカンですよ」

 「私、私服がひどいことで有名でしてね、帰りに白髪頭で、ユニクロのシャツ着て、大きな荷物持って、ウエストポーチ着けて、冷凍のジンギスカン買って、富良野のソフトクリーム舐めるの。どう見ても、変質者系」

 ネタは『ハンバーグができるまで』。このところ、すっかり一人暮らしに慣れてしまった私には、この噺とても身につまされる。自炊をほとんどしなくなって惣菜しか買わなくなってしまった者にとって、食材を買うということは、なにか特別な意味があるんだよなあ。

 トリが柳家三三。香盤からすると、まったく逆の出番なのだが、「花緑さんはこのあと芝居の稽古があるとのことで、喬太郎さんはこのあと、天どんさんの会のゲストなんだそうで、私が最後ということになりました」と、『三枚起請』へ。クライマックスの喜瀬川花魁の言い立てのスピード感がいい。さすがに若い三三ならではだ。その猛烈なスピードの中に、ちゃんと『ハンバーグができるまで』の一節を拾ってクスグリに変えるあたりの余裕は、もう何も言うことはない。

10月30日記

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