January.10,2003 日向ぼっこ

        一昨年、突然に緑内障などという目の病気にかかり、町医師から見放されて、紹介状を書いてもらって大きな総合病院の眼科に通うことになった。最初の診断では片目ずつの手術のため、それぞれ1週間の入院が必要になるだろうと聞かされ、かなり落ち込んでしまった。通い始めたころは、週に一度くらいのペースだったろうか? 最寄の駅で電車を降り、病院まで足どりも重くトボトボと歩いていた。診察を終えて、また駅に向って歩いていると、駅の近くに床屋が一軒あるのに気がついた。入口が一枚戸のガラスになっていて、すりガラスなので中はよく見えないのだが、下の部分だけなぜか透明になっている。ここで、ときどき飼い猫がジッと外を見ているときがあるのだ。日によっていたりいなかったりする。私は毎回、この猫がいるかどうかをうかがうのが楽しみになってきた。「あっ! きょうはいる!」というときは、なんともうれしくなって緑内障の憂鬱も吹き飛んでしまう。

        戸は東側を向いていて、ちょうど午前中は日が当るのに違いない。どうやら猫も人工的な暖房よりも自然の暖房の方が好きなんだろう。外でもよく日向ぼっこをしている猫を見かける。

        ウチの猫もよく屋根の上で寝ていた。朝日が昇ると物干しから外に出て、ゴロリと横になる。残念ながらビル街だから、ビルに遮られて日の当る位置は限られている。しばらくすると日が当る位置が替わってしまうので、どっこいしょと立ちあがって場所を移動する。屋根の端から端まで移動を繰り返して、これ以上は屋根がないというところまでくると、中に戻ってくる。太陽の光を吸収した猫の毛は気持ちがいい。思わず猫の毛の中に顔を突っ込み匂いを嗅ぐ。ポカポカと太陽の匂いがするようだ。猫は迷惑そうな顔をするけれど、そのくらい飼主の特権ってものだ。

        緑内障の方は、結果的に入院の必要なく、簡単なレーザー手術を左目に施しただけで快方に向った。去年の暮、「もう、大丈夫みたいですね。じゃあ、いま使っている目薬が無くなったら、目薬は止めてみましょう」と言われて、うれしくなった。気分もはれやかに駅に向うと、久しぶりに床屋のガラス戸に猫の姿が見えた。近づいてよく見ると、猫は目を閉じて気持ちよさそうにしていた。

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