January.28.2000 ありがとうございました
本日、明治座千秋楽。今月は五木ひろし座長公演『石松初恋旅』でした。五木ひろし様、横内正様、三原じゅん子様、小林のり一様、青山良彦様、玉川勝太郎様、薬師寺保栄様、真乃ゆりあ様他の皆様からお蕎麦の注文をいただき、楽屋までお届いたしました。どうもありがとうございました。
January.27,2000 拝啓、三原じゅん子様
拝啓、三原じゅん子様。
明治座公演も、いよいよ明日が千秋楽。お疲れ様でございました。
今朝のスポーツ誌は、あなた様とコアラ様の入籍会見の模様を伝えておりますね。おめでとうございます。どうぞお幸せに。
ここ数年、明治座に毎年のようにご出演なさっていらっしゃいますね。そして、そのたびに当店の蕎麦を毎日ご注文いただき、まことにありがとうございます。今月は毎回、唐辛子を多くとのご注文でしたね。唐辛子ダイエット中でございますか? そんなにご無理なさらずとも、十分にスリムでいらっしゃるじゃないですか。ワイド・ショー番組報道でも、コアラ様との縁はダイエットの話題がきっかけだったとか伝えておりますね。そういえば先日、明治座が昼興行のみの日、コアラ様と一緒に当店に御来店くださいましたっけね。ありがとうございました。
三原様、なんと明治座へは都営地下鉄新宿線で通っていらしたのですね。先日の朝、浜町駅を出てこられたあなた様を目撃してびっくりしました。てっきり、自動車で劇場入りなさっているのかと思っておりました。一度、こんな噂を耳にしたことがございます。あなた様が電車に乗っておられたとき、同じ車両にいた女子高生達が、あなた様を指さして何かコソコソと話している。おそらく「あれ、三原じゅん子よ」とか話しておったのでしょう。むっとしたあなた様は、その女子高生を睨んでホームへ出たら、何か勘違いしたらしく女子高生達が付いてきてしまったので、「あなたたち、人をやたらに指差してコソコソ喋るのは失礼じゃないの」と言ったら、女子高生達、シュンとなってしまったとか。あなた様らしいエピソードだと思います。
また、明治座ご出演の折は、当店の蕎麦をよろしくお願いいたします。
January.23,2000 めざしぼう
テレビってあまり見ている暇がないのだが、ラジオは仕事をしながら、よく聞いている。このところ気になって仕方ないのだが、ニュースで[めざしぼう]という言葉をよく耳にする。例えばこんな使い方だ。「警察では、現場から立ち去った黒い[めざしぼう]を被った男の行方を追って・・・」。
[めざしぼう]は、漢字でどう書くのだろう。[目指し帽]じゃないよな。何を目指すというのだ。[目刺し帽]なんてあったら怖い。いわしの干物がずらりと頭を覆う[メザシ帽]だったら笑うよな。やっぱり[目差し帽]だろうなあ。
ようするに、[目差し帽]って前にひさしが付いた野球帽みたいなやつでしょ。中学一年の英語の授業で最初に教わるよね。[帽子]には、HATとCAPがあってって、絵が出ていて、HATは山高帽みたいな絵、CAPは野球帽だった。「へえ、英語ってやっかいだなあ。CLOCKとWATCHもそうだし、なんで分けなきゃいけないんだ?」と思ったものだった。
今までだって、ニュースでは、[野球帽]って言っていたはずだ。それがどうしたことだろう。野球協会みたいなところから、クレームでもきたのかな。それじゃ、いっそこれだけ外来語が氾濫しているんだから、[キャップ]にしちゃったらどうだろう。「警察では、現場から立ち去った黒いキャップを被った男の行方を追って・・・」。う〜ん、ちょっとすわりが悪いか。[野球帽]でいいじゃないですかねえ。
January.19,2000 松坂大輔
商売柄、大晦日は『紅白歌合戦』どころではないので、ここ何年も見ていなかったのだが、この年末はビデオに録画してみた。いやあ、こんな番組、最初っから最後まで見る人いるんですかね。ほとんどの人は、チャンネル切り替えてばかりだろうな。私も興味のある人が出ているところしか見ないで、ほとんどのところは早送り。
森繁久弥が両脇を支えられながら挨拶していたら、隣に飯島直子がなぜか携帯電話を持って立っていて、携帯電話が鳴ったかと思うと、「もうお時間ですから」と挨拶途中の森繁を椅子に座らせてしまった。あの携帯、局からの合図だったんですかね。時間で進行しているとはいえ、失礼といえば失礼。
シドニー・オリンピック出場予定選手がずらりと出てきて、オリンピックに向けての抱負を一言づつ語る中、西武の松坂大輔は「日本一目指して頑張ります」。NHKの意図としては、松坂にもオリンピックで投げるぞということをアッピールさせたかったんだろうけど、松坂くん若いというか、大物というか、それでもあの童顔で言われちゃうと憎めない。
ANAのテレビCM流れていますね。フライト中の飛行機の中、「お客様の中で、お医者様はおられませんか?」とスチュワーデスが呼びかけるのかと思いきや、「甲子園に出場経験がある方はいらっしゃいますか?」。するとジャージ姿の松坂が、手をおずおずと上げて立ちあがり、「あ、はい」。「昨年、パ・リーグで最優秀新人賞をとられた方はいらっしゃいますか?」「あ、はい」。「150キロ以上の速球を投げられる方はいらっしゃいますか?」「あ、はい」。「ハンバーガーを3個以上召し上がられる方はいらっしゃいますか?」「あ、はい」。これ最初、ハンバーガー・チェーンのCMだと思った。それにしても、「あ、はい」で何億ものギャラだもんなあ。それでいて憎めない松坂くん、得なキャラクターだ。
January.15,2000 桝井山くん
年末の忙しい時期に、また桝井くんにアルバイトに来てもらった。桝井くんは巨漢である。身長も高いが、体重も相当なものがある。90キロくらいはあるはずだ。彼が初めてアルバイトに来たとき、働き始めてしばらくして、「ところで、名前何ていったっけ」と質問した者がいた。彼が「桝井です」と答えると「えっ、ますいやま?」と訊き直したものだから、それ以来、彼の呼び名は[桝井山くん]になってしまった。
最初は陰で桝井山で通っていた。そのうち、「誰々さんが、桝井くんのことを桝井山関って呼んでたよ」と言ったら、にやっと笑って、「上手投げにしてやる」と切り返した。それ以来、彼を[桝井くん]と呼ぶ者がいなくなり、すっかり[桝井山くん]になってしまった。彼に失礼だなあと思っていたのだが、本人気にしてないようなのである。「桝井山くん、丼洗って」 「桝井山くん、テーブル拭いて」という会話が日常になってしまった。
やがて、「桝井山関、ちゃんこの時間です」と言うと、「ごっつぁんです」と答えるようになり、給料袋を渡すと、ちょんちょんと手を切って貰うようになってしまった。昔、学校で相撲をやっていたこともある父が、ふざけて桝井くんの大きなお腹で鉄砲したら、「どすこい!」
その桝井くん、今年遅刻してきた。店の者が「自動改札が狭くて、挟まって出られなかったんだろう」と言ったら、「電車乗ろうとしたら、ビーッて音がして、『定員オーバーです。最後に乗った人は降りてください』って、アナウンスがあったんすよ。それで遅れちゃって」とギャグをかましてきた。
スポーツをしていながら太る人は、レスラー型か相撲取り型になる。桝井くん、卓球の名選手でもある。趣味で卓球をやっていて太っている人は、大抵固太りである。桝井くんを見ていると、太っていながら筋肉がしっかり付いている。相撲取り型、いわゆる、あんこ型というやつだ。これだけは、桝井君の名誉のためにも書いておく。桝井くん、いろいろ書いちゃってごめん。また、アルバイトよろしくね。
January.11,2000 気転の利いた切り返し
今年の正月休みは、年末の疲れもあって、酒飲んでいるか、眠っているという、なーんにもしない、ぐうたらした生活をしてしまった。それでも3日の朝は遅く起きだして、5日から始まる仕事のために、蕎麦汁の仕込み。おいしい汁を作るには、最低でも2日前から始めなければならない。因果な商売です。
さて、汁の仕込みを終え、家にばかりいるのも身体に悪いからと、ぶらっと散歩に出た。別に初詣をするつもりはなかったのだが、足はいつしか深川八幡の近くまで来てしまっていた。朝から何も食べてなかったので、何か食べようと思ったら、寿司屋が目に入った。寿司屋さんって、正月早々から店開けているところ多いですよね。張り紙に、「ネタは最高、値段は格安」の文字。ここなら安心して食べられそうだと戸を開けた。
確かに会計は明朗だし、安い。ビールを飲みながら、寿司をつまんでいた。すると、7人組のお客さんが入ってきた。男1人、女6人のグループ。歳のころは、全員60代だろうか。どういう、関係なのかわからないが、男の人が後の6人の女性を連れて、初詣にやって来たらしい。男の人が代表して、これまた60代とみえる女性店員に注文を伝えた。
「並にぎり7人前ね」 「はい、かしこまりました」 「よかったよ、安い店が見つかって、おねえさん、美人だしさ」
もう一度お断りしておくが、この<おねえさん>どうみても60代、しかもお世辞にも美人とは言えないのである。彼女の切り返した言葉というのは、「あらあ、お客さん、本当のこと言っちゃってえ」だった。男のお客さん、「いやあ、新年早々、こりゃあ一本取られちゃったなあ」。すかさず、「一本取られちゃったなんて、本当の事じゃないですかねえ」 「ごめんよ、おねえさん、並にぎりしか取れなくて。7人前、俺が面倒みなくちゃならないんだ」。これに対する切り返しはすかさず、「だから奥さん6人ももらっちゃうからよ。ひとりにしておかなきゃ」
この一連の会話の流れが、ポンポンポンと、あっという間に展開され、私はびっくりしてしまった。まるで台本が出来ていたよう。話下手で頭の回転が悪く、どうも会話にアドリブが利かない私は、こういう気転の利いた会話ができない。うらやましいなと思った次第。
January.7,2000 マウス・ハントの新兵器?
私のホームページを、日記形式で作り始めて四ヶ月たったが、計二回、ネズミが我家に侵入し、それを捕獲した話を書いた。確かに、ネズミの数は増えているようだ。ネズミに侵入されるのは嫌だが、ネズミを捕まえるのは好きで、捕獲するための道具には、並々ならぬ関心があることも書いた。
今回は、またネズミが侵入したという話ではない。最近入ってきた新聞の折込チラシに、興味を持ったのだ。なんと新方式のネズミ駆除方式だというのである。そのチラシには、昨年の11月18日付けの『日本工業新聞』に紹介されたとして、新聞のコピーが添えられていた。
現在、ドブネズミ、ハツカネズミは減少していている。代わって勢力を拡大しているのが、80%以上を占める、クマネズミといわれるスーパー・マウスだ。こいつらは、垂直の壁を昇り降りでき、2mくらいのジャンプはお手のもの。しかも、俊敏で、用心深く、学習能力が高いときている。従来の、殺鼠剤、粘着シート、超音波などでは、警戒心の強いクマネズミには効果が薄くなっているというのである。そう、超音波は試したことがあるが、あまり効果なかったように思う。粘着シートも、うまく避けて通るようになってきた。
さあ、そこで新兵器だ。それは二つあって、ひとつめは新しい殺鼠剤。今までの殺鼠剤は毒性が強く、食べたとしてもその場で死んでしまい、それを見た仲間は、絶対に口にしなくなるというのである。その点、新しい殺鼠剤は警戒心なくネズミが口にできるように、毒性の弱いものだそうで、ジワジワと効くようになっていると言う。ただし、効果が出てくるのが、そんな訳で、二週間から二、三ヶ月もかかる。私はせっかちだから、そんなに待っていられないなあ。殺鼠剤は何回か使ったことがあるが、あまり効果があるようには思えないのだが。特に、飲食店の場合、餌になるものなんて、たくさんあるし。第一、困るのは、ネズミに変な所で死なれちゃった場合だ。天井裏あたりで、勝手に死なれちゃうと、やがて腐敗し、異臭を放ち始める。さらには、蛆が湧き出し始末が悪い。こうなると大量の殺虫剤を天井裏に散布しなければならなくなる。
次に、もうひとつの新兵器。名前を『りんりんマウス』という。これが面白い。餌を仕掛ける方式の罠。餌にネズミが食いつくと同時に、ばね仕掛けでネズミに鈴をかける装置。鈴を付けられたネズミは圧迫とストレスで死滅し、仲間のネズミも警戒心から巣を捨てて逃げ出してしまうという習性を利用したものだって。なんだか童話にある、猫の首に鈴を付けにいこうと相談するネズミの話の逆ですが、どんなもんだろう。ばね仕掛けというと、大きな洗濯バサミ式のネズミ取りを連想するが、あれで捕まった事ない。
『りんりんマウス』は、1600円と安いが、新しい殺鼠剤を使った駆除を業者に依頼すると、結構な値段になる。例えば、660平方メートルから990平方メートルで、100万円から300万円だって。私にとって、マウスハントは年に2〜3回の楽しみでもある。その楽しみを奪われてなるものか。やい、クマネズミ。お前らに来て欲しくはないけれど、来るなら覚悟しろよ。こっちとら、必ず捕獲してみせるからな。俺は、お前らを捕まえるのを趣味にしているんだ!
January.2,2000 平成の名人小朝ではあるが
ここ3年ほど、元旦は同じように過ごしている。大晦日まで働いているから、年末の疲れがドッと出ることもあって、昼まで寝ている。やがて、モソモソと起きだして、前日に下げ残した出前を下げに行く。その後、元旦から営業しているスーパー・マーケットで、刺身とおせち料理を買い込み、家族で新年会。またひと眠りしてから、箱崎のロイヤル・パーク・ホテルへ春風亭小朝の独演会を見に行く。
毎年ここで、小朝は二席、演じてくれる。今年の一席目は、『片棒』。およそ、正月に演るネタではない。ケチで有名な親父が、三人の息子に、自分が死んだら、どういった葬式を出すつもりかを問う話。これを小朝は、大幅にアレンジして聞かせた。最初に答える長男は、豪華な葬式を出すと答える設定だが、これをデズニー・ランドを借り切って行うということにした。イッツ・ア・スモール・ワールドを始めに、様々なアトラクションを使って葬式をする。スプラッシュ・マウンテンに棺桶を浮かべて、最後に落下させる。「棺桶がちゃちだと、バラバラになってしまって、中から、父さんが飛び出してしまう。でも大丈夫、あそこはゴミが出れば、すぐに掃除にくるから。父さんを箒とちり取りで掃いてくれる」
別に正月草々、葬式の話はないだろうという訳ではない。小朝としても、この話をより派手にして、正月らしい出し物にしたつもりなのだろう。このあと次男の話では、歌舞伎座を借り切って、芝居仕立ての葬式を出すという話に持っていく。これはこれで面白いとは思う。ただ、以前から気になっているのだが、これは個人的な好みの問題かもしれないのだが、古典落語の中に現代を持ち込むのが気に入らないのだ。現代を語るのはマクラだけにして欲しい。本題に入ったら、もう気分は江戸時代になりたいのだ。そこに、くすぐりだとしても現代が顔をだすと、ス――っと私は引いてしまう。
二席目は『紺屋高尾』。大ネタである。いやあ、うまい! 小朝、本当にうまくなった。染物職人の久蔵が、吉原一の花魁、高尾太夫にひとめ惚れしてしまう。太夫に会えるには十両の金がいる。久蔵、まる三年働いて、十両の金を手にする。大人気の高尾太夫、染物職人風情を客に取ることはないというので、さるお大尽と偽り、遊郭にのぼる。
ここで、こういう演出をする型があるのを私は知らなかったのだが、太夫が、久蔵の手の指に付いた藍の色を見て、久蔵がお大尽などではなく、藍染めの職人であることを見破ってしまう。「あちきを騙しなんしたね。駄染め職人じゃありゃーせんか」。この言葉を聞いて久蔵、黙っていられなくなる。「確かに、あっしはお大尽なんかではございません。ただの藍染め職人でございます。花魁を騙して申し訳ありません。花魁に会いたさに、三年働いて十両の金を作り、こうやって身分偽りやってめーりやした。しかし花魁、お言葉を返すようですが、先ほど『駄染め』とおっしゃいましたね。藍染めは、決して駄染めなんかではござんせん」と、いかに藍染めが難しく、大変な手間隙がかかるものかを花魁に聞かせる。ここはまさに聴かせどこで、小朝、うまくなったなあと感心した。
心を動かされた、花魁。「あちきは、年明けの二月に年期があけしゃんす。そうしたら、あちきを主の女房にしてくんなますか」。話が盛り上がるとこだ。ところが、このあとがいけない。「この十両も持ちかえって、天皇賞でも買いなんし」。小朝、どうしてだ。どうして今まで、これだけの世界を作っておいて、つまらないくすぐりで話に現代を出す。
小朝という落語家は、何といってもテンポがいい。持って生まれた軽さが、落語に心地よいテンポを与えている。ただその軽さが、以前は致命的で、話に深みがなかったのが不満だった。球質の軽い星飛雄馬のようなもの。それが、このところ、その軽さを殺すことなく、話にも深みを与えるコツをつかんできた。昭和の名人たちのテープを聞いていても、小朝みたいなタイプは、ちょっといない。毎年一度、小朝の変化を見届けるのが楽しみになっている。