May.27,2002 ありがとうございます
本日、明治座千秋楽。今月は風間杜夫座長公演『居残り佐平次』でした。平田満様、高橋由美子様、余貴美子様、柳家花緑様、ラサール石井様、三田村周三様、菅原大吉様、新内敏正様他の皆様からご注文をいただき、楽屋まで出前させていただきました。ありがとうございます。花緑様、小さん師匠のお葬式の間も舞台をお勤めでご苦労様でした。
May.12,2002 ホテル大野屋
去年のゴールデン・ウイークには沖縄旅行に行ったのだが、今年は諸般の事情で遠くへ旅行へ行くことも出来ない。ずーっと東京で過ごそうかとも思ったのだが、急に思い立って近場に一泊してこようと思った。「近いところ、近いところ」と思って浮かんできたのが熱海。いまどきゴールデン・ウイークに熱海でもないだろう。きっと空いている旅館がどこかあるだろう。「熱海、熱海」と思いだしていたら、[ローマ風呂の大野屋]というフレーズが頭に浮かんできた。一度、このローマ風呂なるものを見てみたいという気持ちがフツフツと沸いてくる。
ゴールデン・ウイーク一ヶ月前の予約で、果たして部屋が取れるだろうかと不安になったが、ダメ元で電話を入れてみたら、部屋が取れると言う。料金はひとり18000円〜24000円で、いくらのにするかと言うので、どうせ一泊で帰ってしまうのだからと、24000円のにしてもらった。
新幹線でビールを飲んだら、ウトウトする暇もなく熱海に着いてしまった。その昔、熱海駅につくと幟を持った客引きが寄ってきて、「今夜の宿は決まっているのか?」としつこく訊いてきたものだが、そんな客引きの姿も見えない。各旅館の送迎バスも見えない。タクシーに乗る。さすがにゴールデン・ウイーク、道は混んでいる。一方通行の海岸線をノロノロと進んで、[大野屋]へ到着。
チェックインを済ませると、案内されたのが最上階である9階の一番奥の部屋。ひっ、広い。玄関に当る部分だけでも相当なスペースだ。メインになる和室の客室だけでもゆったりとした空間なのに、別にベッドが2台入っている寝室、ベランダの手前には大きなセンターテーブルにゆったりと大きな椅子が4脚。それとは別にもうひとつ四畳半ほどの別室付き。
浴衣に着替えると、まずはさっそく風呂へ。有名なローマ風呂だ。大野屋の履物は草履。ペタペタと歩くスリッパもいいが、ズッズッと歩く草履もまたいい。ローマ風呂は1階のロビーから入る。入口に・・・これは何なんだろう・・・四本足の奇妙な動物の形をした置物がズラリと並んでお出迎え。ハハハ。浴衣を脱いで浴室へ。ひっ、広い! しかし300人同時入浴可能が売りなのだが、それはかなり積めこんでのことだろう。ここに300人の入浴客が入っている状態はちょっと怖い。それこそ肌と肌をくっつけ合わせて風呂に入らなければならなくなる。それに第一、300人入ったら、酸欠を起こすぞ。
とはいえ私が入ったときには、ほかに3人しか入っていなかった。ゆったりと湯に浸かる。それにしても広い。泳げる。泳ぎ回れる。潜れる。最初は気になっていた神殿のようなデザインも、面白いじゃないのと思う余裕が出てくる。強烈な[打たせ湯]に、滝の下の修行者のような気分になる。それにしても修行者はタイヘンだ。あれはお湯じゃないもんね。左右二本、後ろ一本から強力なシャワーが噴き出す[ボディシャワー]も気持ちがいい。出たり入ったりで3〜40分ものんびりして部屋に戻る。結局帰るまでにローマ風呂には三回入った。露天風呂にも一回。
部屋に戻って、仲居さんが持ってきてくれたお茶とお菓子をいただく。これでもうあとは何にも予定なし。畳の上にゴロリと横になり、読みかけの小説を読み出す。数ページ読んだところで眠気が襲ってきた。義務で小説を読んでいるわけでもなし、眠気に身をゆだねる。スーッと眠りに入っていった。憶えていないが夢をたくさん見た。ちょっと怖い夢だった。ハッとして起きる。時計を見ると、まだ20分しか寝ていなかった。窓の外で汽笛が聞こえる。港に船が出たり入ったりするたびに汽笛が鳴るようだ。椅子に座って窓の外の港を眺める。
♪船は出て行く 煙は残る 残る煙が シャクの種・・・ なあんて、どこかで聴いたフレーズが頭に浮かび、大きなアクビをひとつ。またゴロッと横になって小説を読み出す。また眠くなる。カラスの鳴き声が聞こえる。寝っ転がったまんま、外を眺めれば悠然と空を飛ぶカラスの姿が見える。カラスの声も、なんだかゆったりしているように感じる。東京のカラスの鳴き声はもっとせわしない。空を眺めているうちに、また眠り込んでしまった。
夜中に一度目が醒めてローマ風呂に入った以外は、その夜も死んだように眠ってしまった。どうも私は旅行先ではひたすら眠り続ける傾向があるようだ。東京にいると毎日4時30分起床。休日でも、遅くとも6時には起きている。そんな反動のように、眠り続けてしまう。帰りの新幹線の中も眠っていたのは当然。疲れて眠っているというよりも、気持ちよく眠っている。やっぱりたまには眠っているだけの休日もいい。