August.27,2002 ありがとうございました
本日明治座千秋楽。今月は藤田まこと座長公演『必殺仕事人』でした。藤田まこと様、大山克巳様、芦屋雁平様、田中綾子様、東風平千香様他の皆様から御注文をいただき、楽屋に出前させていただきました。ありがとうございます。
藤田まこと様、『サライ』での紹介ありがとうございました。また、今回の公演では、当初、中村主水が蕎麦を食べる場面があり、当店の蕎麦をとって食べる予定であられたとか。残念ながら時間の関係でこの場面はカットになったと聞きました。また、次回よろしくお願い申し上げます。
August.14,2002 てくてくエンジェル
へんなものにハマってしまっていた。もう去年の暮からである。遊べる万歩計とでも言うのだろうか? ハドソンから出している[てくてくエンジェル]というゲーム感覚の商品。キャラクター育成ゲームと万歩計を合わせたようなものである。これを腰につけて歩いていると歩いた歩数をカウントしてくれるのだが、歩いた歩数により毎日キャラクターが変わっていくので楽しみながらウォーキングができる。
まずもろもろの設定をしなければならない。一日のノルマも設定できるのだが、何の気なしにノルマを自動設定にしてしまったのが、そもそもの悲劇の始まりだった。始めた当初は歩くのが楽しく仕方がない。最初の1週間ほどはタマゴのようなものが画面に現れる。そのキャラクターがいろいろなことを文字にして語ってくれる。「歩くときはいつも前向き」 「お昼だよ、もうご飯食べた?」 季節やその日の行事についても、いろいろ言ってくれる。「春はひねもすのたりのたり」 「バレンタインチョコ、どうだった?」 「メリーメリー、クリスマス」 キャラクターのジェルくん(エンジェルのジェルくん)がいろいろなことを言ってくれるので、それを読むのが楽しい。
キャラクターを成長させるのが楽しみで、歩く歩く。タマゴはやがてパンダやサルになり、人間の形になっていく。自動設定にしたことの誤りに気がつくのはこのころである。歩けば歩くほどノルマは上がって行く。数週間後には、ノルマが17000歩になっていた。このノルマが達成できない日があると、ジェル君は、「このごろ歩いてないけど、どうしたの?」しか言ってくれなくなり、そのキャラクターの表情も明かにグレている。サングラスをしていたり、顔つきが険悪になってくる。反対にノルマを達成すると宙返りをしてくれたり、バンザイをしてくれたりで、見ていて楽しい。
しかしである。毎日一万歩以上なんて歩けるか? 一万歩というのは意識して歩くようにしないと、なかなか達成できない歩数である。ましてや、17000歩なんてマトモな歩数ではない。雨の日はどうしても歩かなくなるし、一番悔しいのは忙しくて歩いていられない日である。朝から晩まで仕事場でヘトヘトになるまで働いて、翌日「このごろ歩いてないけど、どうしたの?」ではムカッとしてくる。
日が経つにつれて、キャラクターが変わっていく。順調に歩いていくと可愛い人型のキャラクターになっていくらしい。スーパーモジェルという可愛い女の子にまではなった。そこからが地獄へ一直線。17000歩も一日に歩いている日が続くと、やがて足が嫌がりだした。足がダルくなってきた。ズルズルとサボり出すと、キャラクターは、やがてカッパになり、ペンギンになり、カバになり、ブタになり、ワニになった。どんどん可愛くなくなっていく。
いろいろと喋ってくれる文字も、癪にさわってくる。「もっと歩こうよ」って、もう15000歩も歩いたわ、殺す気かあ! 「一緒に頑張ろう」って、おめえはひとつも頑張ってないわ、歩いているのはオレだけじゃい! と思わず呟いている。
120日間の設定にして、これで2回終了した。結果2回とも最後はワニ。最後にジェルくんは手紙をくれる。「121日間一緒に歩いてくれて本当にありがとう。いろいろなことがあったよね? 晴れた日・・・あめの日・・・楽しい日 そして・・・つらい日 たくさんのおもいでを キミと一緒につくれたね キミと会えてわかったよ 幸せはわかちあうことで なんばいにも大きくなるものなんだね だいすきな○○○へ・・ 幸せでいっぱいのじぇる」 思わず4ヶ月間の思いがこもり涙が出そうになるが、いったいこれ何なんだあ? 3回目のウォーキングを始めようかどうしようか、今、迷っている。
August.4,2002 出前持ちの愚痴・マンション篇
ウチの店は、ほとんどが店内での営業である。しかし出前もする。店内と出前の割合は、売上でいうと、店8割、出前2割といったところであろうか。相手先はほとんどが近所のオフィス。昼食を出前で済まそうという人が電話をかけてくる。ひとつ、ふたつといった注文も多いが、会社単位で会議の間に食べようと、まとまった数の注文が来たりするからバカにならない。夜は残業をしている社員からの注文が入る。これも会社で食券を出している場合もあり、一月単位でまとまると大きなものになる。
もっともバブル以降、近所には会社が減った。テナントを募集している貸ビルには空いているフロアが目立ち、持ちビルだったところは廃ビルとなっているところもある。繊維問屋街はシャッターが下りたままになってしまっている建物だらけ。当然、ウチの店へ来る注文も減った。
一方、数年前から始まったのがマンション建設ラッシュ。オフィスビルを建てようと何軒かの家を地上げして、壊して更地になったところでバブルがはじけてしまった土地がある。そのままになっていたところにマンションを建て始めた。それが売れ行きが好調だったらしく、今度は廃ビルをどんどん壊して、次々とマンションにしようという動きに繋がっていった。マンションが建てば住人が増える。住人が増えれば、その人たちもウチの店に食事に来てくださる。あるいは出前をとってくださる。悪いことではない―――と思っていた。
新しいマンションが建つたびに、新しいお得意さんから出前の注文はくる。しかし、それほどの量にはならない。ひとつのマンションで、何回も注文が来るのは、せいぜい2〜3室。どうも最近の食事事情は変わってしまったようだ。以前はなんでかんでどこの家庭でも自炊の時以外は、外に食べに行くか出前をとったものだ。それが、今や多種多様の選択がある。外食に出るのでも、今やファースト・フード花盛り。ハンバーガーや牛丼を、さして時間を待つことなく簡単に食べられる。持ちかえりもスピーディーだ。コンビニへ行けば、弁当、おにぎり、サンドイッチ、なんでも簡単に手に入る。また、出前といっても、以前のように、寿司屋、蕎麦屋、ラーメン屋に限ることはない。宅配のピザ、弁当屋が五万とある。毎日郵便受けの中には、そんなチラシが溢れている。
そんな中、ウチなどをご贔屓にしてくれるマンションのお客さんはありがたい。ところがこのマンションというのが、なかなかやっかいな問題があるのだ。今のマンションは、ほとんどが入口がオートロックになっている。一階のエントランスで部屋番号を押してインターフォンで相手と話し、電動のドアを開けてもらう。エレベーターで相手先の階に上がり、部屋の前まで行ってまたチャイムを鳴らす。品物を渡し、代金を受け取って帰る。そこまでは問題がない。やっかいなのが空いた食器を下げに行くときなのだ。時間を見計らって、あるいは翌日再び相手先のマンションに行く。相手が居てくれればいいのだが、留守のことが多い。となると何回も出直しに行かなければならなくなる。それは双方で面倒なことだ。一般の会社は昼間ならいつも誰かいるから問題はない。普通の住宅の場合は、入口の前、あるいは勝手口の外に出しておいてくださいで解決する。
これが、マンションの場合は面倒なことになる。空いた食器の置き場所だ。楽なのは、マンションの入口か裏口に出しておいてもらうことなのだが、これを認めてくれるマンションばかりではない。マンションの外に置いておくことはまかりならんという所がある。こうした場合、各部屋の前に出しておいてくださいと言うことにしている。下げに行って、相手先が居ればインターフォンで電動ドアを開けてもらい、その部屋の前まで行ってお膳と食器を下げればいい。それ以上お客さんの手をわずらわせることがない。仮に相手先が留守でも、管理人さんに言ってオートロックの電動ドアを開けてもらえばいい。
去年出来たマンションがある。Aマンションとしておこう。ここはなかなか洒落たマンションである。コンセプトはホテル。シティホテルをイメージして作ったらしい。洒落た二三段の階段を上がると、けっこう広いエントランスがある。インターフォンでオートロックのドアを開けてもらうと、そこはかなり広いスペースだ。造り付けの大きなテーブルと椅子が置いてあり、ロビーということなのだろう。入ってすぐ横にカウンターがある。これはホテルのフロントをイメージしているらしい。中にはホテルのフロントマンではなく管理人さんがいる。
さて、このAマンション。マンションの入口に食べ終わった出前の食器を出すことを禁じている。それならそれでかまわないのだか、そのことを住民には知らせていないのだ。出前に来た業者を捕まえて、相手先に届けたら、下げに来る時はまたインターフォンを押して部屋まで取りにいくようにと言う。仕方ないので、そのたびにお客さんに「いつ引き取りに来たらいいですか?」とお尋ねしていた。ところが先日初めて注文をいただいたお客さんは留守がちだとおっしゃる。それで、「それでは部屋の前の廊下に出しておいてください」とお願いして、翌日に下げに行くことにした。翌日、下げに行くと管理人さんが出てきた。「○階の廊下に出ている食器は、おたくのか?」と言う。「はい、ウチので、これから下げに行くところです」と言うと、廊下に出しておくことはまかりならぬと言う。「ではどこに置いておいてもらえばいいのですか?」と訊ねると、各部屋のドアの横にメーター・ボックスがあるから、その戸の中に入れてもらえと言うのだ。
メーター・ボックスっていったって、配管がゴチャゴチャと張り巡っていて置き難いと思うのだが、まあ置けないことはない。それはいい。それで納得しかけて帰ろうとしたのだが、よく考えると、なんでいちいち出入りの業者が相手先にこのことを伝えねばならないのだろうと疑問が沸いてきた。だってこんなことは、プリントを各戸に配布するとか、張り紙をして伝えれば一度に済むこと。それをなんで出入り業者がいちいち・・・・・と考えて、管理人さんにそのことを話すと、これは案外にやっかいなことなのだというのがわかった。
「廊下というのは、共有部分。そこに何かモノを置いてはいけないんだよ。第一、消防法でも禁じられているんだ。消防署が視察に来たらたいへんだ。だからメーター・ボックスに入れてもらうしかないんだ。もっともメーター・ボックスも共有部分だから本来はいけないんだけれど」 「それは了解しました。ただ、なぜ私たち出入りの業者が、住んでいる方にいちいちお伝えしなければならないんですか? そちらの方でプリントを配布するなどの処置は出来ないのでしょうか?」 「だから、本来は置いていけないメーター・ボークスの中に入れてくださいとは書けないだろ?」 うーん、そうなのかあ。
それはそうだよなあ。それはわかる。しかし、その管理人の高飛車な物言いにカチンと来てしまったのだ。それで私は提案してみた。「よそのマンションで、出前ボックスというものを入口に設置してあるところがあるんです。そういうものを置いてもらえませんでしょうか。そうすればスムーズになるのですが」 するとこうだ。「ウチにはそんなものを置くスペースはないし、仮に造ったとしても、目障りだ。美観を損なう」 ムッとしてしまった。このマンションのエントランスのスペースは必要以上に広いと思えたし、[目障り] [美観を損なう]といった表現はどうしたことかと思ったのだ。それでさらに、よせばいいのに言ってしまった。「エントランスに食ぺ終わった出前の食器を置いておくのは目障りだなんて苦情が一度でもあったんですか?」 「あったよ。それにね、出前ボックスなんてアンタ言うけれど、それを設置するお金は誰が払うんだ? だいたいね、今、出前に週何回来るの? 私見てるけど数えられるほどしか来ないじゃないか」
完敗だった。そうなのだ。時代は変わってしまったのだ。今や、蕎麦屋で出前を取る人は減ってしまっていたのだ。こういう出前形式は時代遅れなのだろう。使い捨ての容器で宅配されるピザや弁当を食べ、食べ終わったら容器はゴミ箱へ。繰り返し使える丼など不要。容器を引き取りに来る業者のためなどに出前ボックスなんて不要。それはそうなのだ。ゴミ問題が叫ばれている中でも、やはり便利でスマートな方がいいのだろう。
今や、食べ終わった食器は、目障りで美観を損なうのだろうか? 考えてみればAマンション、コンセプトはホテル。ホテルの前に出前の食器が出ているのはおかしいし、エントランスに出前ボックスを設置するのもおかしい。
私も3年前にマンションを買った。ほとんどこのホームページを作るための書斎代わりのために使っているだけなのだが、他の住人もだんだんと私がこのマンションに住んでいて近くで蕎麦屋をやっているのを知ったからなのだろうか、よく出前の注文をいただくようになってきた。食べ終わった食器は部屋の前に出しておいてもらうことにしている。キーを持っているから自由に出入りし、早めに下げている。管理人さんも鷹揚な人で、他の業者の場合はエントランスの管理人室の前に置いてもらってもかまわないとしている。「目障りだ」という人が今までいたかと訊ねてみると、「いや、そんな人はいませんね。よく、業者が引き取りに来るのを忘れて何日も置きっぱなしということもあるけれどね。掃除するとき邪魔だとは思うけれど、まあ、ちょっとズラせばいいだけのことだからね」
まあ、今回は単なる愚痴である。お聞き流しくださいませ。これも時代ってものなんでしょうね。