October.29,2003 ありがとうございます

        本日、明治座千秋楽。今月は西郷輝彦座長公演『江戸を斬る――思い出に咲いた恋――』でした。西郷輝彦様、大空真弓様、多岐川裕美様、青山良彦様、滝田裕介様、三原じゅん子様、山下規介様、園田裕久様、詩笛たつき様他の皆様からご注文をいただき、楽屋までお届けいたしました。ありがとうございます。 


October.29,2003 [ひ]と[し]

        私の両親はどちらも浅草で生まれて浅草で育ったから、東京の下町言葉を話す。東京の下町言葉の大きな特徴は、[し]と[ひ]の区別がつかないことにある。というか、[ひ]という発音はなくて、[ひ]は全て[し]になってしまう。「ちょっと、しを貸してくれ」とタバコを差し出されれば、それは火を貸してくれということだし、「しまだ」というのは、「島だ」でも「島田」でも「縞だ」でもなく、「暇だ」だったりする。あるいは、[しろい部屋]は、クリームの『ホワイト・ルーム』ではなく、[広い部屋]だったりする。

        このために漢字を憶える前は、本当に苦労した。小学校一年生のときのテストのことは、今でもはっきり憶えている。絵が描いてあるものの下に、ひらがなで、その絵の物を書けというテスト。飛行機の絵だったから、迷わず[しこうき]と書いたらば×だった。これがなぜ間違いなのかわからずに先生に聞いて初めて、[しこうき]ではなく、[ひこうき]なのだとわかった。やがて漢字を憶えていくにしたがって、[ひ]と[し]の区別はしだいにわかるようになってきた。[飛行機]という漢字がわかれば、[しこうき]ではなく[ひこうき]であることはわかる。

        ところが、ワープロを使うようになって、ハッとしたことがある。[布団を敷く]という文章を打とうとして、[ふとんをひく]と打ったらば、[敷く]が出てこない。どうも、[ひ]と[し]がいまだにゴチャゴチャなのだ。[机の引き出し]とごっちゃになっているのだ。布団を敷く作業と、机の引き出しを引く作業が、両方とも手前に引く形なので、私の頭の中で、布団は[ひく]ものだと混乱が起こってしまったらしい。

        さすがにこのところ、これ以外には[ひ]と[し]の区別がつかないことはない。そんな最近のことである。やはり下町生まれ、下町育ちの私の従姉が、ふと私に言うのである。「あの、引越しというのは、正しくは、しっこしなの? それとも、ひっこし?」 ・・・・・・・・!!


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