September.29,1999 狐につままれたような・・・
その話を母から聞かされたときは、「まさか」と思った。首に触っただけで万病を治す人がいるというのだ。
母は、一年程前から突然膝が痛みだした。外科やマッサージや整体など、様々なところに通ったが痛みが消えない。そんな時、知人から、この話を聞かされた。「そこへ行ってみようと思う」と言う母に、私は否定的だった。そんな[手かざし]のような治療法をするところは、おかしな宗教か、詐欺と決まっている。母は電話で予約を入れ、治療に行ってきた。
すると、痛みが消えたのだ。ちょっと疲れると、また痛みが戻ってくるが、休むと痛みが嘘のようになくなるという。母の貰ってきたパンフレットによると、これはスペシィフィックス・カイロプラクティックというのだそうだ。
中を読んでみると、重い頭蓋骨を支えている第一頚椎のズレを、正しい位置に調整してやることで、それに繋がっている背骨が連鎖的に正常な位置に戻る。それによって、正しい姿勢を取り戻すことができ、健康になることができるというのだ。
私は別にこれといって体に具合が悪いところもなく、興味もなかったのだが、長年、乾癬という原因不明の皮膚病で通院している。母は是非行ってみろと言うのだ。そういえば、私の首は30年も前から、右に傾いている。それが治っただけでも拾い物ではないか。しかも、一回調整に行けば、次は2〜3ヶ月後でいいというのである。料金も初診時だけ一万円。以後は六千円。整体やマッサージなどは、毎週通い一回で五千円くらいする。そのことからすれば、この料金は安い。
受付に行くと、まずビデオを見せられた。スペシィフィックス・カイロプラクティックの説明である。次に、体の何処が悪いかの問診。検査室に通されて、検査を受ける。機械からグラフで描かれた用紙が出てきて、やっぱり私の体は右に傾いているという。調整という治療は、まさに一瞬だった。寝台に横向きで寝て、先生が左手で首を抑え、右手で首をちょっと触るだけ。音もしないし、痛みもない。そのまま5分じっとしていて、その後またベッドに移って1時間寝かされる。「時間です」と起こされて、もう一度検査を受けると、グラフ用紙のグラフは、ほぼ正常になっていた。
外に出ると、頭の中がボーッとしている。首と背中が痛い。そして何より姿勢が良くなっていた。背中に何か棒のようなものを入れられたようで、背筋を伸ばしていないと、逆に痛いのだ。いつも猫背だった私が姿勢良くなっている。その日は、それだけで疲労感を覚え、もう何もする気になれずに横になっていた。当日はアルコールを禁じられていることもあり、朝まで眠れなかった。
あれから五日。頭の中がボーッとしている症状は、三日で消えたが首と肩と背中が痛い。これらの症状は、健康になっていく上で出る症状だそうなので、我慢せねば。そして、相変わらず、姿勢がいい私です。
September.27,1999 ありがとうございました
明治座、千秋楽。今月は杉良太郎座長公演『さくら吹雪ー一番鶏がいま鳴いたー』でした。杉良太郎様、林与一様、葉山葉子様、梅沢昇様などから、ご注文をいただき、楽屋までお蕎麦をお届けさせていただきました。ありがとうございました。また、川島満様、ご来店ありがとうございました。
September.25,1999 ドトール・コーヒー
用があって、十数年振りに代々木の駅に降りた。この駅前に以前、何の用で降りたのか、もう記憶がないが、よく覚えているのは、初めてドトール・コーヒーなるコーヒー・ショップを見たのが、この駅前店だった。駅を降りて歩いていると、[コーヒー150円](だったと思う)という文字が飛び込んできた。当時、喫茶店でコーヒーを頼むと最低でも300円。高い所では、500円は取られた。それが、たったの百数十円。しかも、小洒落た店構え。半信半疑で店に入ったのを覚えている。壁にメニューが貼られていて、確かに看板に偽りなし。安い。ただし、セルフ・サービス。ぶっきらぼうな喫茶店の店員に出くわすことも多かったので、セルフでも十分。コーヒーの味も悪くない。
帰宅後、こんないい店が代々木にはあったと、ふれまわったものだが、なかなか信用されなかった。その後、ドトールは何処の街にも出店し、さらにはライバル、プロント、ベローチェ、スターバックスが参入してきて、今や街中に安いコーヒー・ショップが建ち並んでいる。ハンバーガー・ショップでも安くコーヒーを飲めるが、やはりコーヒー・ショップの方がおいしい。
それにしても、喫茶店って減ってしまったよな。今思うに、喫茶店が流行ったのは、70年代の終わりごろが最後だったのではないだろうか。当時は、インベーダー・ゲームが流行っていて、私など毎日喫茶店に行っては、100円玉がなくなるまでプレイしてた。十数年振りの代々木のドトール、懐かしくて、思わず入ってしまった。そういえば当時は、立ち飲みだった気がするのだが、記憶違いか。
September.17,1999 キャット・ミルク
老猫チェリーが下痢をしているので、動物病院へ連れて行き、注射をしてもらい、下痢止めの薬を貰ってきた。獣医に言わせると、人間の飲む牛乳は、猫には与えない方がいいそうで、ミルクが大好きなチェリーには、かわいそうな事になってしまった。
そんなある日、久しぶりにペット・ショップをのぞいたら、ペット用のミルクを売っているのに気づいた。これだと下痢をしないと店員さんに薦められたので、買って帰り、さっそく与えてみると、喜んで飲む。なんと二日でひと瓶空けてしまった。ひと瓶100mlで320円もする。慌てて、もう六本買い溜めた。
あまりにおいしそうに飲むので、どんな味がするのか気になるじゃあないですか。飲んでみましたよ、当然。これが驚いた事にうまい。そうですね、甘いミルクセーキのような味がする。人間より高くてうまいのを飲むなんて、なんて贅沢なんだ。
以前、乾燥キャット・フードを食べてみたことがあるが、あれは硬くてまずかった。今度は猫用の缶詰を食べてみたいという誘惑が心に湧いてきている。マグロとかエビとかカツオとか、おいしそうなんですが・・・。
ちなみにキャット・ミルクを買って一週間。チェリーの奴、飽きたのか、あまり飲まなくなってしまった。猫の気まぐれは今に始まったものではないのだが。
September.8,1999 霊柩車
横浜の伯父の告別式。9月というのに、暑い日である。夏用の喪服を持っていない私は、分厚い喪服を着るというより、手に持って、都営地下鉄、京浜急行、相鉄線と乗り継いで、三ツ境まで行ってきた。
式が済み、柩を霊柩車に入れるので、手を貸す事にして、車の前で柩が運ばれてくるのを待っていた。以前、日本で霊柩車というと、祭壇をかたどったタイプと決まっていたが、伯父の柩を乗せる霊柩車は、まったく飾り付けのない黒塗りのリンカーン。 アメリカ映画などで目にするやつです。 まあ、死んでしまったら、どんな霊柩車に乗せられようと、関係ないのだが、私は祭壇型より、黒塗りの方がいい。ひっそりしていて、いいじゃないですか。祭壇型の霊柩車を街で見かけると「おっ!」と思いますもの。その点、シンプルな黒塗りは、いくらか自然。
それから、気が付いたのは、ナンバープレートが[4214]となっていたこと。なるほど42(しに)ナンバーは、こういう車に配られるとあまり苦情が来ないのだろう。[4214]は[死にいーよ]か。ほかには、そうですね。[4211]死にいいとか,[4219]死に行くとか、[4241]死に良いとか、霊柩車ならうってつけかな。
September.7,1999 翁の面
横浜の伯父が亡くなった。享年、77歳。伯父は電気通信大学を出て、 商船の通信士になり、定年まで、世界の海を渡り歩いた人だった。そのころの冒険談を聞かせてもらうのが、小さいころの私は大の楽しみだった。やがて疎遠になってしまって、いまから思うと、もっと話を聞いておくものだったと悔やまれてならないのだが。
定年になってからは、今まで女房子供を置いて出かけていたのだからと家に篭り、のんびりと余生を楽しまれていたようだ。もともと手先の器用な人だったから、私の店[翁庵]に因んで、翁の能面を彫ってくれないかと頼んだ。しばらくして、彫ってきてくれたのが、この作品。
もう10年以上、店の壁に掛けてある。今では、煙草の煙で白い髭が黒くなってしまい、なんだか、若返った翁ですが・・・。店に飾った直後、そのころ店のすぐ裏にいらした、辻村ジュサブロー先生が来店の折、感想をお聞きしたところ、「この作者は几帳面な性格ですね。面の左右が、きっちり対称になっている。これが微妙に、くずれてくると、もっと味が出てくる」とおっしゃっていました。とはいえ、この面は、大切な伯父の思い出です。