R20
悪の華
XS
遠い明日の誓い
Xanxus34-Squalo32
X×S ほか S受
干天
3
沢田綱吉は、身体が震えて止まらなかった。
頭が真っ白になり、何も考えられない。
オレは何を見た?
父さんがスクアーロをつかまえて、無理矢理キスしていた。
スクアーロは父さんを突き飛ばして、逃げ出した。
普通じゃない。
どういうことなんだ?
どうしよう。
どうしたらいい?
真っ青な顔をしてパーティー会場に戻って来た綱吉を見て、
獄寺は顔色を変えた。
「十代目、どうされましたか?」
「うん・・・ちょっと気分が・・・」
「やけに戻りが遅いと思ったら・・・腹でも壊したんすか?」
本気で心配している獄寺にはとても話せない。
「ツナ、大丈夫か?」
山本にはもっと話せない。
絶対に言えない・・・あんな・・・。
「医者を呼べ!! そういやシャマルがいたな!! 十代目を診ていただくんだ!!」
獄寺が指示を出した。
医者なんていらない。
そう思ったものの頭ががんがんして、
ふらふらしてきた。
「だからオレは男は診たくないと常々言ってるだろが。
確かに顔色が悪いな。
しょうがない。診てやるよ。
腹下しに効く薬を出してやる」
明らかに様子がおかしいのに気づいたシャマルは、
集まってきた野次馬を追い払うと、
獄寺と山本には客達の相手をするように言い、
静かな部屋に連れていった。
「腹なんて痛くない」
綱吉は青ざめた顔のままで、何も言おうとしない。
「困ったな。
そういや家光が来てたな。
親父を呼ぼうか?」
シャマルは当然のこととして言った。
息子の病気を知ったら、父親もかけつけて来るだろう。
ましてや、ボンゴレの門外顧問だ。
「やめてくれ!!
父さんには会いたくない!!
どうしてあんなことを!!」
綱吉が突然大声を出したので、シャマルは驚いた。
何かショックを受け、興奮している。
「ツナ、調子が悪いって? 大丈夫か?」
十代目となった綱吉の事はすぐ伝わるらしく、
家光が現れた。
綱吉は家光を睨みつけた。
「あんた・・・さっき何してたんだよ!!!
オレは・・・見たんだ!!
どうして・・・あんな・・・」
綱吉はぶるぶる震え、家光に殴り掛からんばかりになっていた。
「何のことだ?」
家光は首をひねった。
特に変わったことをした覚えはない。
ここに来てしたこととは・・・そういやあ、スクアーロを犯ったが・・・。
まずいな。
あれを見たのか?
個室のは見てねえだろ。
確かに外でちょっとちょっかい出したが、
あの程度でも、子どものツナには刺激が強すぎるだろう。
「えーと。親子喧嘩なら、退散したいんだけどな」
シャマルは頭をかいた。
家光はちらりとシャマルを見た。
この男は仲間でもないし、敵でもない。
余計なことは知られないに限る。
「どうして・・・あんなことを・・・信じられない・・・。
理解できないよ!!」
ツナは激昂していて、シャマルの存在も見えていない。
ちっ。
息子だが、今はボンゴレ十代目でもある。
下手な手出しはできない。
それに何で興奮しているのかも分からない。
男は愛情と下半身は別なものだが、
こいつには分からないらしい。
京子とかいう娘をままごとのように大切にしているらしいからな。
シャマルは、違和感を感じながらも部屋から出た。
親子の不和が原因らしいから、部外者の出る幕ではない。
それにしては、少し綱吉の様子はおかしかった。
余程のものを見たのだろうか。
「ちょっとした出来心だ。
あいつ最近、色気があるからな。
ちょっとからかっただけさ」
家光は何食わぬ顔をして弁明した。
「無理矢理だった。
凄く嫌がっていたじゃないか!!」
綱吉は、信じないぞという顔をしている。
「ちょっとザンザスの事で相談されてな。
相手にされなくて悩んでいるみたいでな。
で、まあ、いろいろ話をしてるうちにかわいそうになって。
なぐさめてやろうと思ったんだが、ちょっとやりすぎたかもな」
家光が嘘を並べると、綱吉の表情が少し変化した。
「スクアーロが相談したのか・・・?」
「そうだ。ザンザスにキスしてもらえないと言ってたから、代わりに・・・な。
もうしないよ。お前にも、あいつにも、悪い事をした。
ちゃんと相談にのるさ」
綱吉が黙り込んだので、家光は心の中でほくそ笑んだ。
本当は、お前の想像通りだろうが、
スクアーロはあれで口が堅い。
自分から喋りはしない。
綱吉は黙ったままだった。
確かに見た事はひどかったけれど、
相談の延長だったら、スクアーロの態度がおかしかったのも分かる気がする。
父さんが言っていることがその通りなら、
スクアーロはザンザスに相手にされてないんだ。
なら、山本にも見込みがあるかもしれない。
「父さんが、スクアーロと親しいとは知らなかったよ。
・・・オレとはあまり話をしたがらないからね。
ザンザスはやめて、山本にしないかって聞いてもらえないかな」
家光の嘘を信じ始めた綱吉は、真剣に頼んだ。
「また相談されたら、言ってみる。
でも、今回はやりすぎたからな。
さすがに、警戒されて相談してこないと思うけどな」
「あやまらないと。何か、凄いキスしてたみたいに見えたけど・・・。
オレ、見ただけでもう心臓が止まりそうになった」
敵対心をなくした綱吉は、思ったことを素直に喋り始めた。
これがこの子の美徳だが、まだまだ甘い。
こんな風では誰にでもつけこまれる。
獄寺も子どもで扱いやすい。
山本の方がやっかいだ。
あいつには下手なごまかしや嘘は通用しない。
その山本はスクアーロに夢中らしい。
笑えるじゃないか。
本当に欲しがってる者には手に入らないなんて。
シャマルはなごやかにパーティーに戻って来た綱吉と家光を見て一安心した。
一触即発の雰囲気だったが、何かの誤解は解けたようだ。
家光がしていたことで何か誤解をしたらしい。
綱吉が戻ったので、パーティーは再び落ち着きを取り戻し、予定の時間で順調に客は帰っていった。
シャマルも帰ろうとして、ふと視線を感じた。
スクアーロが柱の影にいて、帰って行く客たちをしずかに見ていた。
今日は、最初に少し見かけただけで、特別目につかないところに潜んでいたらしい。
警備の必要の全くないパーティーだった。
ルッスーリアとベルフェゴールが会場の中をうろうろしているのは見かけた。
スクアーロは沢田綱吉や獄寺隼人、山本武が通ると、気配を消した。
「さっきはすいませんでした。ちょっと誤解したことがあって・・・」
沢田綱吉がシャマルを見かけて寄ってきた。
「はい。父さんがひどい事をしたと勘違いしてしまって」
「いやいや、勘違いでよかったよ。
お前さんが真っ青だったから、びっくりしたけどな。
そうだな。あんたたちが遠慮せず言うもんだから、何となく内容は聞いてしまったし。
本当に勘違いだったとオレも確かめておくから、相手をこっそり教えてくれないか?
そしたら安心できるだろ?」
綱吉は汗を流した。
「すみません。内容まで聞いてしまいましたか。
その・・・相手は、スクアーロなんです」
ひそひそ声で言われた名に、シャマルは嫌な予感がした。
「聞かなかったことにしてください。
たいしたことではなかったですから」
綱吉は、明るい笑顔を浮かべた。
父を信じて安心している子どもの笑顔だった。
シャマルの動悸は激しくなっていた。
子どものころからのスクアーロの謎の性的虐待と、家光。
誰だか分からない蹂躙の相手。
まさか、そんなことが。
でも、それ以上に符合する答えはない。
マフィアの闇がそこにあった。
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