ヴァリアーの休日


************************************************
標的260 カラー扉絵「耳あてもふもふ」話
************************************************



その街は歴史的な建造物に囲まれた美しいところだった。
ヴァリアー幹部が総出であらわれたことに恐れをなした反逆者どもは簡単に降伏し、
わざわざ出向いてきたヴァリアーの面々は戦わずして勝利を得た。
戦う気まんまんで来ただけに拍子抜けし、誰もが何か手持ち無沙汰な気分になった。
古い城壁に囲まれた、一番高台の古城ホテルを貸し切っているザンザスは市街地を歩く人々をじっと見ていたが、突然言い放った。
「出かけるぞ、カスども」
いつの間にか、隊服を脱いで、すっかりカジュアルな服装に着替えている。
「んまあ、ボス、素敵だわ!!! 
さあさあ、みんな早く私服に着替えて、着替えて!!!」
ルッスーリアが手をぱんぱん叩き、みなを呼び集めた。
フランが黒いツナギのような服に着替えてあらわれ、カエルのかぶりものに手をかけた。
「ミーも、私服に着替えてきました。
このかぶりものもいりませんよね」
「ししし、殺されたいわけ?」
ボーダーのマフラーとミンクのようなものを巻いたベルが背後でナイフを構えていて、
フランはしぶしぶかぶりものから手を離した。
「ボス、お待たせしました!!!!」
レヴィが、以前の隊服のような真っ黒な暑苦しい上着に、赤いズボンをはいてあらわれた。
「んまあ、相変わらず、イケてないわねえ」
ルッスーリアは派手な鳥の羽根がたくさんついた服を着ている。
「あら、コートがボスの上着と同じ色だわ。
おほほほほほ、地味に押さえといてよかったわ」
勝ち誇ったように笑うと、ちらりとレヴィを見た。
レヴィ的には、ボスの好きな黒と、ボスの色である赤にしたんでしょうけど、似合わないわ・・・。
「うわぁ、修正不能ですよね。
さすがのミーもつっこめません」
フランがためいきをついた。
「ししし、言えてる」
いつもはもめてばかりのベルまでが同意した。
レヴィのキモさが5割り増しになっている。
「ゔぉおおおい、待たせたなあ」
いつものようにでかい声を張り上げてあらわれたスクアーロを見て、フランは一瞬言葉を失った。
「・・・なんですか・・・作戦隊長・・・その・・・耳のは?」
「あ゛ぁ? 
今、何か行ったかぁ? 
聞こえないぞぉ!!!!!!!」
「いえ・・・何でもありません」
「ふーん。ボス、スク先輩にやったんだ」
この城にはいくつか仮装用の備品があり、衣装部屋に入った時、その黒い耳あてのあたりをボスがいやに熱心に見ていたのだ。
そういえば、以前にもスクアーロが耳あてをしていたことがあった。
あれは、確か寒い冬の日で・・・。
ボスのコートを着せられ、耳あてをして、スクアーロは焼きぐりを買いに行かされた。
「スクちゃん、似合うわあ!!! 
んもう、かわいいわねえ!!! 
分かる、分かるわあ!!!」
ルッスーリアは揉み手をしながらもだえた。
もう、なんで黒タートルなんか着てるのよ!!!
イアーマフがかわいいったらないわ!!!!
スクちゃんに着けさせて、連れて歩きたいというボスの気持ち、分かるわあ!!!!
「ふん、行くぞ」
ザンザスが言うと、みな街に向かって歩きはじめた。
メインの大通りのまわりは古い石畳の歩行者天国になっていて、両側にさまざまな店があり、人でにぎわっている。
「ミーはかぶりものは嫌なんです。ミーは本当に・・・」
フランがぶつぶつ言いながら、どんどん先に進んでいく。
「ししし、おー、あれ、うまそうじゃーーーん。
スク先輩、どうかな?」
イアーマフのせいで反応の遅いスクアーロにベルが近寄ろうとしたその時、誰かがスクアーロの髪をひっぱった。
「ゔぉおおい、何しやがる!!!」
「るせえ、さっさと行くんじゃねえ、カスザメが!!! 
バニラ買ってこい」
「・お・・・あ゛? 
・・・ああ・・・バニラな・・・。
おお、分かったぜえ!!!!! そこに居ろぉ!!!!!」
そこは人気のジェラート店のようで、長い行列ができていた。
その行列を押しのけそうな勢いのスクアーロを見て、ザンザスがせせらわらった。
「並べねえのか、てめえは?」
「なんだとぉ!!! 
じゃあ、ボスさん、オレが並んだら、お前、待てるよなぁ?」
「もちろんだ!!!!」
「本当かあ? 
じゃ、ボスさんはオレの後ろだぁ」
様子を見ていたルッスーリアの額に汗が流れた。
「う・・・うそでしょ・・・。
ボスがジェラートの列に並んでるわ!!!」
「ししし。ボスってば、独占欲強すぎじゃーーーん」
「ミーびっくりです。ボスにもあんなところがあるんですね」
ベルやフランが盛り上がる中、レヴィが意を決したように声を上げた。
「スクアーロのやつ、けしからん!!! ボスに並ばせるとは!!! 
お前らも何をしておる!!! 
オレが代わりに並んで来る!!!」
急いで歩きかけたレヴィの背をルッスーリアが止めた。
「止めなさい。命が惜しければ」
「ししし。邪魔者は消されてもしょうがなくね?」
「ていうか、レヴィ隊長って馬に蹴られて死んでもしょうがないですよねーーー」
3人に詰め寄られたレヴィは汗を流した。
3人とも目がおかしい。
レヴィを責めるような目つきだ。
「・・・貴様ら、どういうつもりだ!!! オレは、ボスをお守りしようと!!! 
命をかけて見張る覚悟なのだぞ!!!!」
ルッスーリアが溜め息をついた。
「はいはい、レヴィの気持ちは分かったわよ。
でも、ここは完全に安全な場所といえるわね。
だから、たまに、みんな羽根を伸ばすのもいいんじゃない? 
あんた、いつもがんばってるじゃない。
ほほほ、あそこに妖艶な子がいたわよ!!!」
「何? 妖艶な美女が・・・。
うぬう・・・でもオレにはボスが・・・」
「あらーーー、行っちゃうわよぉ。
ボスは私たちに、ま・か・せ・て♡」
レヴィはしばらく葛藤していたが、妖艶な美女をめざして反対方向に駆け出していった。
「あーー、さすが、ルッス先輩、年の功ですねーーーー」
フランが心のこもってないほめ方をした。
「あら、だって・・・。
よく考えたら、ボスとスクちゃんて、デートもしたことないと思うのよ。
きっと、はじめてよ!!!!」
「ししし。ボスも丸くなったもんだ」
「ゲロッ、あれで?」
フランがいやそうな顔をした。
列を待っているスクアーロは、いつの間にかルッスーリアもレヴィもベルもフランもいなくなっていることに気づいた。
「ゔぉおおい、あいつらどこに行ったあ!!!」
思わず叫び、ザンザスに殴られた。
「・・・しずかにしろ、ドカス」
急に大声を上げたため、スクアーロは注目の的となっていた。
それでなくても、目立つ容姿をしているのだ。
ザンザスの耳には、小声でスクアーロを評するのが聞こえてくる。
「ねえ、あれ男の人よねえ・・・。
うらやましいくらいきれいな髪・・・」
「顔もきれいよねえ。今、すごくうるさかったけど・・・」
「連れがいなけりゃ声かけるんだけど、殴ったやつが連れだよなぁ」
ザンザスがじろりと見ると、そいつらはあわてて目をそらした。
ふん、カスが!!! 
スクアーロの様子はと見ると、好奇に満ちた視線にはまったく気づいていないようで、必死にジェラートの棚を見ている。
どうやら自分の欲しいものを真剣に考えている様子だ。
ザンザスの視線に気づくと、スクアーロはイアーマフをずらした。
「ボスさんよぉ、ダブルにするなら、バニラと何だぁ?」
そう言われると、なぜかダブルでもいいという気になった。
「ふん、どれがうまいんだ?」
「見ろよぉ。あのクランベリーがうまそうじゃねえか?」
うすうす気づいていたことだが、スクアーロは合成着色料入りに気づかないらしい。
今も、どうみても不自然なほど赤いジェラートを指さしている。
「はっ、カスが!!!  
だからてめえは、だめなんだ!!!」
今度は、ザンザスの方に一斉に視線が集中したが、ザンザスがじろりと見ると、みなおびえた表情で目をそらした。
「クランベリーと、マロンと、ブルーハワイと、レモンと、グリーンリーフは絶対に選ぶな!!!」
「そぉかあ。いっぱいだめなやつがあるなあ」
スクアーロはたいしてこたえた様子もない。
合成着色料入りのやつばかりをザンザスは言ったのだが、それに気づいているかどうかすらあやしい。
そのうちにやっとスクアーロの順がやってきた。
「バニラとぉ、アプリコットのダブルだぁ。
それと、オレンジとぉ、マンゴーのダブルだぁ」
美しい外見からかけ離れた声としゃべり方に、店員がとまどっているのがいやというほど分かり、ザンザスは溜め息をついた。
・・・しょうがねえ。頭のできはよくねえんだ。
ザンザスは、少し歩いたところにあるベンチをじっと見た。ザンザスの視線を感じたカップルが怯えたようにその場を立ち去った。
「ボス、脅しはほどほどになぁ」
スクアーロは、言いながら、座ったザンザスにジェラートを手渡した。
「カス、てめえも座れ」
広いベンチは四人ぐらい座れる大きさだった。
いつもなら、ザンザスは座っても、スクアーロは立ったまま警備をする。
それはジェラートを食べていても食べていなくても同じことだ。
スクアーロはどうしていいか分からなくて、ザンザスを見た。
今日のザンザスは何だかおかしい。
この街に出てくる前に、このもふもふの耳あてを渡された。
いったいボスは何がしたいのか。
「座れ」
「・・・おう・・・」
再度言われ、スクアーロは覚悟を決めて座った。
となりに座ったからって、何かが変わるわけではない。
それでも、身体が近づけば、心も近づこうとしてしまう。
「・・・なんだ、この味は・・・」
数口食べてザンザスは顔をしかめた。
想像できたはずだ。
商品の半分近くに合成着色料を使うようなジェラート屋のレベルが高いわけはなかった。
それにまんまと乗せられてしまうとは。
「そおかぁ。別にイケるぜえ!!」
平然とジェラートをほおばるスクアーロを見ると、猛烈に殴りたくなった。
「さっさと食え!! 
それになんだ、その暑苦しい服は!!」
スクアーロはめずらしく黒いタートルネックを着ていた。
「ゔぉおおい、あんたのせいだろうがぁ」
スクアーロは赤くなってうなった。
ザンザスが首筋に跡をつけたから、今日はこれしか着れなかったのだ。
「ふん。てめえが、カスすぎるからだ!!!」
ザンザスはそう言いながらも、悪い気はしなかった。
スクアーロは、困ったようにしながら、ジェラートを食べ続けている。
無言でいると、おかしなことに、カスの分際で可憐に見えやがる!!!!
通行人が、スクアーロを見つめながら通りすぎて行くが、やっぱりスクアーロは気づいている様子はない。
「どうしたぁ?」
やっとジェラートを食べ終わったスクアーロは首をかしげた。
「あいつら、てめえを見てやがる」
「え、そうなのかぁ? 
オレ、なんかおかしいかぁ? 
言ってくれていいんだぞぉ。
今日はお前が妙にじろじろ見てることは分かってたからなぁ」
スクアーロは至極真面目な顔をしていた。
本当に自分がおかしいと思っているようだ。
だが、言えるわけがねえ。
ドカスのくせに妙にかわいく見えるから見ていたなどと!!!!
ザンザスは無言で立ち上がった。
「ボス、これから、どこへ行くんだぁ?」
スクアーロがあわてて着いてきた。
暗殺者にあるまじき落ち着きのなさで、きょろきょろ街並みをのぞいている。
「こっちだ。来い」
ザンザスは舌打ちをすると、スクアーロに手を差し出した。
殴られるかと思い身構えたスクアーロの予想を裏切り、ザンザスはスクアーロの手をとった。
スクアーロはどきどきした。
何で手なんか・・・?
「おお゛、おれはあんたにどこまでも着いていくぜぇ!!!!!!!」
言った瞬間、ザンザスに殴られた。
だが、繋いだ手は離れていない。
スクアーロは、本当にどこまでも着いていっていいことに気づき、赤くなった。



******************************
ラブラブやで、この人ら!!! 
誰かどうにかしてやりなはれ!!!
ボスはですね、スクがかわいすぎてどうしていいか分からなくなると、
とりあえず(スクを)殴って自分を落ち着かせてると思います。
手をつないでいる二人をうっかり見てしまったレヴィは今ごろ石になっていると思います。
えーと。この話、仮タイトルはずっと「耳あてもふもふ」。
完成してからもしばらく「耳あてもふもふ」のままでしたが、話には「もふもふ」入っとらん!!!

top