再び出会えぬ愛しき君に
 
 
 

シャンクス・サンジ
 
 
 
 
 

9
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

それは雲ひとつない快晴の日。
夕暮れになるといつも赤髪海賊団がやってくる。
なじみとなった、お気に入りの登場方法で。
「あんたも、よく飽きねえな」
呆れたようにサンジは言ってタバコを吸った。
 
 
 
 

あの夜の終わり・・。
気付くとシャンクスに抱きしめられて眠っていた。
サンジの嫌いな嵐。
理由は分かっている。
シャンクスにもわかったのだろうか。
自分が嵐が嫌いだということは。
守られるようにして眠っていた。
嵐は、その夜だけで終わった。
しずかな朝。
まぶしい朝。
あわてるが動けないサンジを抱えてバラティエに帰ってきた。
あの日からずっとよい天気だ。
 
 
 
 
 
 

日が落ちるとシャンクスは店に顔を出し、
にぎやかに騒いでいる。
そして店が終わるといつの間にかサンジの前に現れる。
ただ酒を飲むだけの時もある。
体を触れあわすこともある。
そんな時サンジの目はいつもまっすぐにシャンクスを見ていた。
いつか終わりが来る。
だから言葉は必要なかった。
 
 
 
 
 
 
 

今晩は船の明かりもおち、
頭上には満天の星がきらめきはじめていた。
「明日は来ねえ」
そう言ったシャンクスにサンジは口の端をつりあげて笑顔を返した。

「いっしょに行かねえか?」

シャンクスの言葉にサンジはひらひらと手を振った。

「やめとくよ。
オレにはまだすることがあるんでね」

恩返し。
それが終わるまではここを動かねえ。
オレはここにいる。
シャンクスは・・・。
好きだと思う。
あんなコトしても嫌じゃねえし。
抱きしめられても嫌じゃねえし。
暖かいんだ。
シャンクスといると。
でも分かる。
シャンクスといるとオレの嫌いな弱い自分が増えてくってことも。
ぎゅってされてたら全てがどうでもよくなることも。
だから、
オレは行けない。

「そうか」
予想されていた答えをシャンクスは確認した。
オレといっしょに来たら、
可愛がってやるのに。
でも、オレはコイツを甘やかすだろう。
ゼフのように谷に落として這い上がるのを待つようなことは・・・。
・・・できねえな。
きっと、なでたり、
手を出したりして引っかかれたりするのがオチだ。

全ては一瞬の積み重ねだ。
この船を去れば、
全てが過去になる。
出会いも、
別れも、
全てが過ぎたことになる。
過ぎて、
忘れ去られる。
記憶の中でだけ生きることを許されるものに変わる。

もう会えない。
単なる事実。
感傷など無用だ。

オレ達は前に進むのだ。
未知の未来へ。

「こんな星の夜はオレを思いだせ。
嵐の夜は・・・・」
サンジの耳もとで続きの言葉を囁くと、
耳まで真っ赤になって怒鳴りはじめた。
「このヘンタイオヤジ!!
とっとと海のモクズとなっちまえ!!」

そうだ。
お前はそうやって元気な方がいい。
でも、誰にでもこの前みたいな顔を見せるんじゃないぞ。
アレはオレのもんだ。

「わはははは」
別れはしんみりしてない方がいい。
本当は泣き虫のお前。
だから、元気に別れよう。
 
 
 

遥か彼方の海の向こう。
遥か彼方の空の向こう。
再びめぐりあえることを。
たまには祈りなんてものもいい。
 
 
 
 
 

星は全てを知ってるんだ。
だから大丈夫だ。
 
 
 
 
 

また同じ星をみよう。
再び出会えぬ愛しき君と。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

end
 
 



厨房裏