夜鳴鴬

*5*
 
 
 
 
 

「サンジさん、アンタらの船は出ちまったよ」
えっ、今、ナンテイッタ?
サンジは大きく目を見開いた。

「昨日、急に出ちまったと」

嘘だ。
嘘だ。

オレを、置いていった。
何で・・・
あいつら、もうオレが要らなくなった。

嘘だ。
ルフィに置いていかれた。
ナミさんに置いていかれた。
ウソップに置いていかれた。
ゾロに置いていかれた。

オイテ、イカレタ。

オレにはもう帰るところがねえ。
 
 
 

「・・・泣くなよ。サンジさん」
ギンに言われて初めてサンジは自分が泣いていることに気づいた。
「・・・く・・・」
オレは、泣かなかった。
いつだって。
今だって、泣いてなんかねえ。
くだらねえ。
泣くなんて。

俯いてぼろぼろ涙を流すサンジを見てギンは立ち尽くした。
セックスの時に流す涙とは違う。
この人は・・・
傷ついてたんだ。
オレの気づかないところで。

チクショウ。
オレは今まで何を見ていた。
自分のことだけで。
自分の欲望と感情だけ押し付けて、サンジさんのココロにちっとも気づかなかった。

傷付いているのは、自分だけだと。
だから、サンジさんを苦しめたかった。
オレと同じように。

オレはサンジさんを抱きしめた。
サンジさんはびくっとした。
無理もねえ。
触るたび、犯してたから。

何でか、オレも涙が出た。
チクショウ。
オレはバカだ。

サンジさん。
すまねえ。
サンジさん。
すまねえ。
 
 
 
 
 
 

その夜オレはサンジさんとセックスしなかった。
泣き止んだサンジさんは、膝をかかえてじっとオレを見てた。

オレはじっとサンジさんを見てた。
瞬きするのも勿体ないくらい、オレはサンジさんを見た。
オレは多分ずっと泣いていたと思う。
自分が泣いているとか、みっともねえとか、もうどうでも良かった。
ただ、サンジさんを見ていたかった。
この人はオレの全てだから。

世界にサンジさんとオレだけしか存在しなければ良かったのに。
 
 
 
 
 
 
 
 

オレは震える手で、サンジさんの鎖を外した。
首輪も。
右手首も。
左手首も。
右足首も。
左足首も。

どこにも無惨な後が残っていた。
ひでえな。
どれだけ、抵抗したかが分かる、跡。

カラダにもアザがいっぱいついている。
最低だ。
サンジさんは、何も言わず、されるままになってた。

殺されてもしようがない。
いや、むしろ、本望だ。

新しい服を着せてやる。
サンジさんのカラダが隠れていく。

もったいねえ・・・

オレはゆっくり、ゆっくり服を着せた。
絶対に忘れねえように。
死んでも忘れることのないように。
愛しい愛しい人。
オレはあんたがいなくても生きていけるのか。
いても、いなくても、生きていけねえ。

名残り惜しい・・・
離したくねえ。
離れたくねえ。

一分一秒だってあんたを見失いたくねえのに。
 
 
 
 
 

ギンはオレに服を着せた。
手が震えている。
大切な、大切な宝物をさわるように。

オレを見る目つき、触れる仕種。
バカみてえに、ココロがこもってる。
たまにしか目にしたことのない、純粋な愛に満ちた仕種。
それは、コイビト同士だったり、フウフだったり、カゾクだったり、オヤコだったり。
どんなバカでも気づく位、愛しさに満ちた表情。
てめえ、今、自分がどんなツラしてるかわかってんのか?

バカみてえにオレだけ見てる。
てめえは、バカだよ。
大バカもんだ。
だけど、そんなてめえを憎めねえオレもバカだ。
 
 
 
 
 
 

ギンはもう一度サンジを見た。
幾らでも、見ていたい。でも・・・

「サンジさん、お仲間は次の港にいる。送ります」
震える声を押さえて言った。

沈黙。
ケリも罵声も返ってこない。
「オレが事情を話します」
覚悟はしている。
あいつらにも何をされても仕方ない。
 
 
 
 
 

「てめえはそれでいいのかよ」
ギンはサンジを見た。
「オレが行っちまっても、いいのかよ」
ギンは大きく目を見開いた。

「サンジさん、オレ・・・アンタに酷いことをした。すまねえ!!!」
土下座して謝るギン。

サンジはしばらく黙っていた。
「なんで、オマエについて来いって言わねえの?」

「えっっ?」
サンジさん、今なんて?

「あんまりてめえがバカだから、言ってんだよ」
「あんたが・・・オレ・・・・に・・・・ついて・・・来る?」

「嫌ならいいんだぜ。オレ、一人でもオールブルー行くし」
今サンジさん、何て言った?
サンジさんが・・・オレ・・・と・・・
オレなんかと・・・
「クリーク船団にいるなら、ヤだぜ」
「やめますっっっ。今すぐ」
サンジさんが・・・

コレは夢じゃないのか。

サンジさんが・・・

オレを・・・
許してくれた。
認めてくれた。

愛して・・・くれた・・・
なんて・・・人だ。

かなわない。
オレには、もったいない人。
まるで、菩薩さまのような。

「オイ、ギン、泣くなよ・・・」
オレは突っ伏したまま泣いた。
なんで、泣かずにいられる。
オレ、最高にカッコ悪い。
でも、世界一、幸せだ。

幸せだ。

生きてて、よかった。
アイシテマス。

サンジさん。
オレの宝。
 
 
 
 
 
 
 
 


 

ending   image   song

L'Arc~en~Ciel
snow  drop



 

これはりおんさんの8888リクで書きはじめたものです。
ラストは「幸せ」というリクでした。
だからエロやっても、最初からラストは絶対に「幸せ」にするって決めてました。
「籠が開いても鳥は逃げなかった」って話にしたかったので。

よかったね、ギン。

て、感じです。
ギンサンって報われないの多いから、ゾロサンよりずっと切ない感じがする。
届かぬ思いって、つらいよね。
 
 
 
 
 

こんなとこに来たのが間違いのもとだった・・・