皇帝の正しくないチェス

2002 全国大会 1R


はじめに

 記念すべき全国大会の1戦目は、大阪のMさん。あちこちでお会いしての顔見知りですが、対戦は今回が初めてです。

 Mさんは非常に優しい方なので、それに甘える形で自戦記を依頼しました。

 大阪には、「良い子のアンパサン通信」という冊子が定期刊行されているおり、そちらとのダブル投稿ということです。

 お忙しい中、自戦記を書いていただきまして、ありがとうございます。

 なお、anon_emperorによる注釈を斜体文字で付加しています。

mattakeresさんによる「はじめに」

 全国大会は5回目の出場だが、今までの成績はパッとしない。しかし、今年は来年のオリンピック出場権利のかかった大会であり、名古屋チェスクラブのS氏が「今年はチャンスだよ」と言うのを聞いたので、頑張りたいなと思っていた。

 一回戦の相手は、顔は知っているが初顔合わせの皇帝氏。一回戦だし白番なので、是非勝ちたかった。

棋譜解説

[Event "Zenkoku Taikai"]
[Site "PIO"]
[Date "2001.04.29"]
[Round "1"]
[White "mattakeres"]
[Black "anon-emperor"]
[Result "1/2-1/2"]
[A91 Classical Dutch : Early Deviations]

            
1 d4 e6
2 c4 f5
3 g3 Nf6
4 Bg2 Be7
5 Nh3 0-0
60-0 Qe8(図−1)
図−1
【図−1】

 フリッツ6によると6...Qe8は早くも新手。「皇帝氏はギャンビットがお好き」とは聞いていたが、この手でさらに攻め好きを予感させた。
 多いのは6...d5や6...d6だ。

 「新手」とはいえ、クイーンをe8に配置するのはダッチの常套手段です。
 8.d5と指していることでもわかるように、手順前後というか、手順をいい加減に覚えているだけですね(笑)。

   
7 Nf4 c6
8 b3 d5
9 Ba3 Bxa3
10 Nxa3 g5(図−2)
図−2
【図−2】

 驚愕の一手(あるいは皇帝氏らしい手か?)。クイーン活用を図る攻めっ気たっぷりな手で、f4のナイトを追い払ってスペースを取るのならこの手だが、黒のキングサイドの危険度は増す。
 黒のクイーンサイドの駒が立ち遅れているので、時期が早いと感じた。

 相変わらずのキングサイド一発勝負手(笑)。
 クイーンサイドの駒展開が遅れるのは、ダッチの最大の弱点と思われるが、にもかかわらずキングサイドで戦いを始める実践例もある。

   
11 Nd3 Qh5
12 e3 Qxd1
13 Rfxd1 Kg7
14 Rac1 Re8
15 b4 Re7
16 b5 Bd7
17 Ne5 Be8
18 bxc6 bxc6
19 f4 g4
20 Rb1(図−3)
図−3
【図−3】

12.e3と黒クイーンの態度を伺ったが、黒はあっさりクイーン交換に応じてきた。
 危険を冒し、手数をかけてキングサイドアタックに出たクイーンを簡単に交換してしまうのは、黒としては大変損だ。

 h5にクイーンが飛び出すのは、ダッチのストーンウォールやクラシカルでは良くあるパターンで、この時も勢いで指してしまった。
 キングサイドで勝負するなら、11. ... Qg6にしておけば良かった話で、12.e3とされたときには、自分の浅はかさにゲンナリしてしまった。

 白は展開で勝り、16. b5とスペース、17. Ne5と好位置を取った。18…Nxc6の方がピースの展開を考えれば勝っただろう。
 19. Rb1とオープンファイルを取った時点では、明らかに白優勢だ。

   
20 ... Rc7
21 Rb2 Nbd7
22 Nxd7 Bxd7
23 c5 Be8
24 Rdb1 Rac8
25 Nc2 Bg6
26 f4 gxf4
27 exf4 Ng8
28 Ne1 Be8
29 Nd3 Nh6
30 Ne5 Nf7
31 Kf2 Nxe5
32 fxe5 Kh6
33 Ke3 Kg7
34 a4 Kf8(図−4)
図−4
【図−4】

 23.c5は、黒からc5とされるのを防ぎ、黒のルックとビショップを働かせないようにする意図。

 30. Ne5で白はナイトを好位置まで繰り出した。その後ナイト交換になったけれども、残ったビショップの働きは白の方が良いので、この交換はよいと考えていた。

 34. ... Kf8で皇帝氏はドローオファーしてきたが、アクティブなルックとビショップの良し悪しを考えれば、ドローは受けられない。残り時間も私の方があった。ちなみにフリッツの解析は白勝勢。

   
35 a5 h6
36 a6 Ke7
37 Rb7 Kd8
38 Kf4 Rxb7
39 Rxb7 Rc7
40 Bf1?(図−5)
図−5
【図−5】

 40.Bf1は疑問手。この後40 ... Rxb7 41.axb7 Kc7 42. Ba6となればドローの可能性が高まる。

 40.Rb8+ Rc8 41.Rb3 Rc7という風に、アクティブなルックを残すことなどを考えればよかった。

   
40 ... Kc8?
41 Rxc7+? Kxc7
42 Be2 Kd7
43 g4? fxg4
44 Bxg4 Ke7
45 Kg3 Bf7
46 Kh4 Kf8
47 Be2 Be8
48 Bd3 Kg7
49 Bc2 Bg6
50 Ba4 Be8
51 Kg4 Kg6
52 h4 Kh7
53 Bc2+ Kg7(最終図)
最終図
【最終図】

 39. ... Kc8?では、39. ... Rxb7が良い。

 40.Rxc7+?と白が自らルックを交換してはいけなかった。40.Rb2と白はルックを残すべきだろう。これでいよいよドローっぽくなってきた。

 とにかくルークさえ交換すればドローだと思っていました。ポーンの数もそれぞれ5個ずつ残し、ビショップも働きにくくなっています。

 42.g4も疑問手だが、42.h3 Ke7 43.g4とキングの侵入を試みても、43… fxg4 44.hxg4 Bg6 45.g5 hxg5+ 46.Kxg5 Bc2などとなって、白キングは黒陣へは入れずドローになるだろう。

 結局ドローになった。私にとっては勝ちを逃した悔しいゲームであり、私のエンディングの下手さ加減が良く出たゲームだった。あるいは皇帝氏に上手くだまされたというべきか。有利な局面を漫然と指してはいけない、ということがよくわかる教訓的なゲームだと思う。

 ただのドローという以上に、1局目で0.5Pを取ったことは、心理的に非常に楽になりました。
 悔しい一局を丁寧に解説していただいたmattakeresさん、ありがとうございました。