Remaking 3−1

[ Remaking & Repair Report ] V-1

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かの有名なロケット工学・物理学者である
      糸川英夫博士製作・3号機?のリメイク    
以下の4ページに分けてレポートを書きました。

V-1 入手の経緯  どういうルート?・・・一通のメールから


入手当初の写真

 現状の所見  
 気になる細部  
 博士の独自性  
V-2 手はじめに  
 蓋を開けて中を  蓋を開けて中を見ると・・・
 バスバーについて 他
V-3 グラデュエイション(板厚は)  
 仕上げたグラデュエイション  
 博士のちょっとしたミス 他  
V-4 駒の調整 他  
  出来上がり
 音は・・?

   ◇ 入手の経緯   

04年1月の始め、神奈川県のあるご老人(イニシャルでIKさん)から、掲示板にアクセス。
ほぼ原文のまま下に記しますが、個人が特定できるようなことや、実名はすべてイニシャルに変えました。
私は、糸川英夫先生がお作りになった3番目のヴァイオリンを所持しております。

所持しているいきさつは後述しますが、私もトシ(74才)をとってソロソロ身辺の整理をしているのですが、 糸川先生のヴァイオリンは、どなたか製作技術の参考に活用してくださる方に差し上げたく (できれば送料だけはご負担願いたい)のでご関心のある方のご連絡をお待ちします。 所持のいきさつは、博士の3番目のヴァイオリンが出来あがって、ある演奏家がためし弾きをやってから、 当時、東大生産技術研究所に勤めていた私の亡父に先生から贈られたものです。

戦前に、東京音楽学校のヴァイオリン科の教授だったH先生の、 戦後の弟子の中に私の妹がいて、1年ほどはそのヴァイオリンを使いました。 先生は、「音が出ない」と言ってあまり評価されず、結局、妹は買い換えて、私がその後預かりました。

40年近く弾いていないので、ご想像のように弓の毛はバラバラ、弦も錆びで1本切れてという状態ですが、 先生が研究された本体はしっかりしています。私の素人考えでは、糸川先生は多才でしたから素人がいきなり作ったにしては良い出来映えだったのでしょうが、 名器というにはほど遠いものだったのではないかと思います。

しかし製作にあたっての理論は発表されていると思いますので、ご自分がお作りになる方にはお役にたつのではないかと思うので、 この欄をあつかましかく拝借しました。


その後、2ヶ月間ほど掲示板の反応を待ちましたが、あいにく何のアクセスもありませんでした。 そのアクセスとは別に、このヴァイオリンについて、何度かメールでI・Kさんと私の所見などを含め、連絡しあいましたが、結局、私のところに 送ってくださるということなり、結果として本当に安く、送料+アルファの価格でいただくことになったわけです。
   ◇ 現状の所見   


入手後、わたしが見て感じたままを、I・Kさんにはメールでご報告しましたが、これも原文のまま載せます。(04-2.13)

こんにちは、すみやです。

本日、ただいま無事、荷物が到着しました。早速、拝見し、そのお礼と、私の所見を報告させていただきます。
それつきまして、ただ表向きの社交辞令の美辞麗句を並べるより、あくまで、私が見て感じたまま、本音で書きますこと、 また、その方が、善意あふれるI・K様のご好意に報いるものと判断し、そうしましたことをご了承下さい。

本器は、明らかに「素人の三号機にしてはまぁまぁのできばえ」ですし、プロにしては細かな点でいろいろ不備が見られたり、 使われている素材もプロが売るために使うようなものとはいえません。
そうした意味では、間違いなく博士が、制作練習用の『習作』としてつくられたものといえます。
多分、これは想像になりますが、博士のよき協力者であったとされるプロの、「弦楽器デュオ」・代表、中澤氏(『楽器の事典・ヴァイオリン』に記載)が、 「制作の練習には、これくらいのものでつくったら・・・」と、 手持ちのストックから選択した材料でつくったものと思われます。

この裏板は、普通なら、二枚を半分に割って、ぴったりと合わせて貼るという工程を省略した、一枚物です。
側板も、それと同じ、多分、国産のカエデ材でつくられています。

その、二枚を割って真ん中で貼り合わせる・・という工程では、硬木のカエデ材を使い、かつ真ん中でぴったり接ぎ合わせるためには、 よほど切れるカンナで、両面とも真っ平らに削らなければなりません。 back maple
それには、カンナの刃を研ぐ、砥石から真っ平らにする必要があったり、カンナの台を直さなければならなかったり、 それだけでも熟練を要しますし、体力も必要です。
博士の仕事や性格、それに体型からしても、そのような、とてもきびしい体育会系の作業をしたとは思われません。

その点、一枚物だと、その作業は省略できます。国産カエデと見たのは、木の髄線が国産のカエデ独特のものをもっているからです。 一般に、ヴァイオリンに使うカエデは、ヨーロッパ産のものがよしとされています。
しかも、フィドラー・バックといって、細かな、美しい水平の杢(斑模様)が入っているものが使われます。それが細かくて、 きれいに揃っているほど、値段の高い素材となります。 側板やネック部分も、通常、裏板と同じカエデ材を使います。


裏板より安くて柔らかい本器の表板には、こちらは目のつんだ良質の木(マツ科トウヒ属のスプルースという樹種)で、 普通の二枚もの(はぎ合わせたもの)でした。

 
いままでも説明した通り・・・ヴァイオリンの製作には、事細かなテクニックが必要になります。
そのため、師匠についた場合ですと、最初の便で書いたように、どうしても師匠の手が入ってしまいます。

例えば、前述した表板の中央・はぎ合わせや、パフリング(周囲に埋め込む黒・白・黒の線)の、溝の掘り方や、その仕上げ、 表板の表面のアーチング(曲線の取り方)等、わたし自身の3号機から比べたら、よほど上手につくられています。

一方、音色にはまったく関係ありませんが、ヘッド部分のスクロール(渦巻き)の彫刻など、まだニスの下に鉛筆の線が見えるほど、 削り足りないところも見られます。このあたりは、本来なら製作者の技量の見せ所ですが、それがイマイチなのです。
結果として、真横から見ると少しいびつに変形していて、きれいな曲線になっていないのです。 そのギャップが激しいので、見るに見かねた師匠が「ここぞというところだけは手を出した」のではないかと私は推論しています。 以上のことが、「三号機にしては・・」という、私の評価です。

弓の二本のうち、茶色の方は、多分、博士が最初に楽器とセットにしてつけたものと思います。
良質の弓に使われている木[本来は、ブラジル産の蛇の木とよばれるペルナンブーコという木がベスト]ではなく、 材質そのものがいいものとはいえません。したがって、あまり「腰」がありません。一方、赤い方は、 腰がしっかりしていて、こちらは多分、妹さんが後から買われたものか、永らく愛用されていたものではないかと思います。
いずれの弓も、新しい馬毛に取り替えれば、前者は、仲間たちから弓を毛替えに預かった際の「貸し出し用」として、 後者のものは、私の愛用品になるかと思います。楽器も、このままではジャンク同様ですし、 もってみて、ちょっと重すぎるようにも感じます。蓋をあけてみて、削り足りないところを削ったりして、 納得いくようになおしたり、思い切ってリメイクしたいと思います。

今までも書きましたとおり、ヴァイオリンという楽器は古いほど良く鳴りますし、楽器本来のつくりや構造からして、どのような素材の、 どのようなつくりであっても、的確なフィッティング(調整)をすることにより、それなりに響くようになります。
1、2ヶ月の間に、すっかり見違えるようにしたいと思いますし、そのことを、後日、リメイクのページに発表させていただくことをお約束して、 I・K様のご厚意に対するお礼とさせていただきたいと思います。 まずは、お礼とご報告まで・・・すみや

裏板は国産カエデ? いかにも初心者らしいつくり

   ◇ 気になる細部   
所見のメールには書きませんでしたが、そのほかにも、鈴木の量産品によく見られるような、 エッジの、側板からの出が不均等だったり、C部の先端も、少し出過ぎていて長すぎるように感じられました。
裏板中央・エンドピン近くには、下・右側の写真のように、ペコンと、なぜか小さなくぼみがあったりしています。
その割に、パフリングの技術はベテランのようで、まったく3台目の初心者とは思えないような出来映え。
   
側板には、明らかにノコでひいた跡の、鋸目や、ペーパーがけ不足のバリも残っていました。
その意味では、スクロールの側面もノミ跡がくっきりと残り、きれいに仕上げてはありません。

下の写真でもお分かりいただけると思いますが、ボタンもなぜか小さく、エッジ処理も上手くいってはいませんでした。

また、パフリングの溝も一部には凹凸が現れており、ニスが薄く塗られていることもありますが、
ニス前のペーパー処理が足りなかったのではと思っています。


以上のことからも、明らかに博士ご自身が、工房に通いながら習作用としてつくられたもの、と推察いたしました。

   ◇ 博士の独自性    ・・・『八十歳のアリア』

ここで、『楽器の事典・ヴァイオリン』の記載や、ご自身の著書である『八十歳のアリア』博士に書かれている内容について、 検証したいと思います。まず、『楽器の事典・ヴァイオリン』の記載から・・・。

超高価な音色分析機や、その他の音響機器を駆使して摩訶不思議なヴァイオリンという楽器の音色・音量および振動形態を 徹底的に分析し、その構造を、理想的なヴァイオリンの製作者には到底理解できぬ、難解な数式に解析することに成功した。


そして、彼は四十五年かけて、その理想のヴァイオリンを一本だけ完成した。我が国の、最高の科学者である博士は、チェロの愛好者であり、彼の最初のヴァイオリンについての研究は、中国の王大和先生の専門書である 「小提琴的結構及其製作」に--------−糸川英夫、小提琴製作的研究、東京大学生産技術研究報告、第三巻・第1号(1952)----と記載されている。

しかも45年の歳月を費やして作り上げられた名器なのであるから、ストラディヴァリウスやデル・ジェスを遙かに凌駕する性能を 持っているものと思いたい。さて、この「ヒデオ・イトカワ号」と命名されたヴァイオリンが、果たして抜群の性能をもっているかどうかは、 この書物の解説だけでは判然としない。E線側に特殊なバスバーがつけられており、巨匠メニューヘンは、「E線の音がよく出るね」といい、「世の中のヒコーキ屋とロケット屋が、 全員、ヴァイオリン屋になってしまえば、世界は平和になる」とも批評したと記載されている。

また、同書の別項目には、その「ヒデオ・イトカワ号」は、1995年3月14日に、アメリカ政府公告(特許5396822号)によって 世界的に承認された。 ・・と書かれています。 I.Kさんからのアクセス以前から、その書かれていた内容については読んで知っていましたから、入手するやいなや、早速、 ミラーで中を覗いたりしました。
でも、残念ながら、外観やその他の場所でも、全く、特許にふさわしいものを発見することはできませんでした。



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