ここでは、ボツリヌス菌による食中毒について説明しています。知りたい項目をクリックして、答えの部分にJump!
この菌による食中毒はほとんど見られなくなっていますが、最近の事例を見てもわかるように、今後輸入感染症として、注意が必要になってくるのではないでしょうか?
昨今のグルメブームが思わぬ病気を引き起こさねばよいのですが…
壌細菌の一種で、土壌・家畜・糞便など自然界に広く分布しています。
酸素がないところで増殖する偏性嫌気性菌で、熱に強い芽胞を形成します。この菌は食品中などで生育に適した条件になると毒素を作ります。このボツリヌス毒素は強力な神経毒で、摂取した場合の致命率は1962年の抗毒素療法導入後4%前後です。しかし、この毒素は熱に弱く80℃30分または100℃10分の加熱で毒力を失います。
日本では,ニシン、ハタハタ、アユなどの「いずし」と呼ばれる保存食品によるものがほとんどです。またハムやソーセージ、缶詰、ビン詰など空気を除いた食品が原因食品となります。実際、平成9年にはビン詰めのオリーブ、オイスターソースで、この菌が検出されています。真空パックといっても完全に安全ではないのです。
摂取した後、症状が出るまでの潜伏時間は12〜36時間で、症状は初期にはおなかがはる、吐き気および嘔吐などの胃腸症状が現れ、次第に舌がもつれる、頭痛・視力障害および物が飲み込みにくいなどの神経症状が現れてきます。
重症の場合は呼吸困難により死亡する場合もあります。ふつうは発熱しません。またヒトや動物からヒトに感染することはありません。唯一の治療法は抗毒素による治療です。
乳児に限って言えば、与えるべきではありません。蜂蜜の成分そのものが問題なのではなく、乳児はボツリヌス菌の汚染に弱いことが問題なのです。日本でも約5%の蜂蜜がこの菌に汚染しています。20回蜂蜜を買えば、1本はボツリヌス菌が入っているものに当たる確率になります。(後で述べるように、健康な成人ではこれは全く問題になりません。)
アメリカでは1899年から1969年の間に、他の食品によるものを含めて、659回のボツリヌス中毒の流行があり、959人の患者さんが死亡しました。日本でも1984年6月の、消毒が不充分な辛子レンコンによるボツリヌス中毒の流行(36人発症、11人死亡)は、記憶にある方もいらっしゃると思います。
アメリカでは近年、乳児におけるボツリヌス中毒の報告が多発しました。このうち35%の症例では、汚染した蜂蜜による感染が証明されています。また、カリフォルニア州の突然死した乳児の調査では、10人の便からこの菌が検出され、しかもそのうちの9人は乳児突然死症候群 SIDS でした。日本では、確認された範囲では2人の乳児に同様の報告がありますが、実際には未確認の例はもっと多いのではないかと考えられています。
この菌はほとんどが食品と共に口から取りこまれます。耐熱性の芽胞(植物であれば種、カビであれば胞子に例えられます)であるため、通常の煮沸消毒では滅菌することができません。ただし、私たちの消化管に侵入した芽胞は少量であれば、なぜか成人では発芽することはなく、問題となることはありません。日本の辛子レンコンによる発病例でも、体内での芽胞の発芽による中毒ではなく、増殖した菌が真空パック内で分泌した毒素によって起きたと考えられています。
しかし1才未満、特に6ヶ月未満の乳児や、他の病気で抵抗力が落ちている人では、芽胞は体内で芽を出し、毒素を分泌し始めます。この毒素は神経毒であるため、赤ちゃんでは突然の便秘で症状が始まります。その後次第に全身の筋力が低下し、ミルクの飲みが弱くなり、泣き声も弱くなり、ぐったりした様子になり、突然呼吸が止まることもあります。
1987年に厚生省は ”1才未満の乳児には蜂蜜を与えるべきではない” という内容の指導を通達しています。
【感染経路】主に2週〜1歳未満(特に1〜4か月)の乳児が、離乳食として与えられた蜂蜜や他の食品を介して、あるいは直接ハウスダストや玩具、鉢の土などをなめることにより芽胞が摂取される。潜伏期間は明確ではないが、通常3〜30日ぐらい、入院期間は数日〜数か月と多彩である。
【症状】腸より吸収された毒素は血中に移行した後、神経-筋接合部(end-plate)や副交感神経のシナプスに作用し、アセチルコリンの分泌を阻害する。したがって、これまで元気で成長していた乳児が原因不明で力のないぐったりとした状態となる。誤嚥性肺炎や尿路感染などを併発すると発熱する。便秘(2日間以上の間隔の排便)、尿閉、吸乳力低下、啼泣微弱、顔貌無表情、眼瞼下垂、瞳孔散大、対光反射・深部腱反射の低下、全身の筋肉の弛緩性麻痺(首がすわらない・四肢が動かないなど)。重症になると呼吸筋麻痺による呼吸障害で死亡。一部では、呼吸不全をきたすものがある(突然死型)。
【分類】病気は感染様式により、以下の3つなどに分類されるが、(3)はまれである。
(1)食品中で産生された毒素を摂取することにより、発症する食事性ポツリヌス中毒
(2)食品などとともに摂取した芽胞が、乳児の腸内で発芽・増殖する乳児ボツリヌス症
(3)創傷内で発芽・増殖する創傷ボツリヌス症
【疫学】乳児ボツリヌス症は、1976年に米国で報告されて以来、1,400例以上の報告がある。わが国では、1986年の最初の報告以来15例ほどである。
---日本医師会雑誌臨時増刊
99.11「感染症の診断・治療ガイドライン」より抜粋---
1997年8月、東京都のA病院から「症状からボツリヌスによる食中毒が疑われる患者1名を診察した」との通報が保健所にあった。
患者は他に4名確認されており、いずれも7月の同じ日に患者の経営するレストラン内で食事をしており、症状を訴えていたとのこと。
また、患者が喫食したオリーブ漬けを検査した結果、当該オリーブの漬けこみ液及びオリーブの実からボツリヌスB型毒素が検出されている。
1997年、東京都に消費者から「オイスターソースに気泡が多数みられる。腐敗している。」と届け出があり,都立衛生研究所で検査したところボツリヌス菌が検出された。