オールド6mm音声テープの再スプライスとデジタイズ(Oct 13〜Nov 4. 2008)
1970年代のオーディオ記録メディアの花形は6mmテープだった。コンパクトカセットの倍の広さを持つ6mmテープはS/Nとダイナミックレンジで他を寄せ付けなかった。そしてこのテープを2トラック38cm/sまたは19cm/sで使うのが、録音業界はもとより熱狂的マニアの間では一般的だった。
30年余も過ぎた現在(2008年)、恐る恐るテープを取り出してみるとスプライス編集点の断とカビ・湿気が目立つ状況だった。空調など自然任せの住宅ではこんなものだろうと想像はしていたが、やはり歳月の及ぼすものは凄い。貴重な録音は今のうちにデジタイズしておく事をお勧めする。その際テープを再生できる環境を整えなければいけない。ここでは6mmテープの再スプライスとデジタイズまでのドキュメントを記す。
動 機
友人から1976年頃の録音がCDに焼かれて送られてきた。当時オーナーは友人のバンドのミキシングを担当していて、実家に当時の録音テープを保管していた。それらの録音は、少なくとも送られてきたCDより良好な音源である事を思い出し、デジタル保存の機運が高まった。
調 査
帰省した折に先ずテープの所在を確認する。間違いなくテープはあった。その殆どは2トラック19cm/sで収録されたものだった。テープケースのボール箱を空けて行くと大変、多くのテープでスプライス編集部分が革質化して切れている。そして、一部だがカビが湧き湿気を吸ったモノが確認された。
再生機(デッキ)は?
これが無いと録音テープがあってもどうにもならない。TEACのA-6100とAKAIの4000D-PROを所有しているが、前者はテンションSW部が破損のため今回は後者を使う事にした。ただしリールは7インチまでしか掛からないので10インチテープは除外される。それにしても4000D-PROの動作は安定している。アマチュア向けとしては絶対的な信頼感である。

デッキ洗浄と動作チェック
4000D-PROのヘッド・キャプスタイン・ガイド・テンション・アイドラー等、走行系の汚れをアルコールを浸した綿で拭き取る。湿気の多いテープは走行系での摩擦が多く、テープの磁性体が削り取られ汚れとなる場合が多い。
洗浄が完了したらf特測定テープを掛け基本動作の確認をする。30数年振りの動作はマズマズだった。
4000D-PROはフェザータッチSWでプランジャー・ソレノイドを駆動するデッキと異なり、2本のレバー(Play/Stop、Rew/Ffw)と1個のボタン(Rec)で全てを純メカで動かしている。レバーを操作すると、スポーツカーのミッションの様で小気味よいリアクションが返ってくる。このシンプルさが長時間を経た今でもこの安定感を生み出しているだろうか。
テープの再スプライス
テープをデッキにかけてPLAYするとスプライス編集点の多くが断となった。最初はOKでもPLAYやREW/FFWを繰り返すと殆どが切れてしまう。スプライステープの粘着部が革質化し粘着性を失っているからだ。中には粘着部分がボロボロと欠け落ちるモノまである。
平らな所にスプライステープを貼り「直線ガイド」とし、その辺に断になったテープを添えて切断面を合わせ、合わせ目にスプライステープを貼る。革質化した粘着部は事前に綿布で拭取っておく。次にテープ幅6mmからはみ出した部分をハサミでカットして完成。慣れれば早いが慣れないとテープが思うように扱えず苦労する。特に薄手のテープ(7インチで45分物)は風が吹いただけで浮き上がるので、薄く水や唾などでなめすと良い。
新たに6mmテープを編集する場合は、左手でテープを重ね合わせておき、右手のハサミで45度程度でカットする。
この手法は不良になったビデオテープでも同様で、切れたテープを一時的に復活・再生させたい場合に有効なの慣れておくとよい。
写真は6mmテープを重ね合わせハサミを入れている様子。テープ幅が6mmでもヘッド幅はそれより狭い。したがって、スプライステープは6mmを食い込んで切っても問題はない。外へ出っ張る方が安定走行の妨げとなる。

デジタイズソフトの選定
インターネット上には知らないうちに便利なソフトがフリーで出回っている。「アナログ音声の取り込み」などとネット検索すると山の様な情報だ。その中でSoundEngine_Freeと言うのが使いやすそうなのでこれをダウンロードしてインストールした。
このソフトはWinodows(SoundCard)の録音ミキサー(Switch)に連動した選択が操作画面上から出来るので都合が良い。試しに音楽CDを再生して取り込み、**.WAVファイルとして保存して再生してみた。見事である。編集モードにすると余計な部分のカットやペーストが自由に出来る。またツールの中を探るとピッチコントロールやグライコに逆転など多くの機能が組み込まれているが、通常必要の無いものは表に出していないので使い勝手も良い。
左がSoundEngine_Freeの操作画面で、これは再生中のもの。時間軸でレベルを表示しているが、ボタン一つで周波数スペクトラムも表示してしまうからスゴイ。しかしソース(再生器)側で基準レベルの発生が出来ない場合がほとんどであろうから、収録側のレベル設定に疑問が残る。まぁデジタル側で飽和しないように気を付ければ良いのだが・・・。
他にもお勧めのソフトがあるのかもしれない。BBSで皆さんに打診してみたが・・・果たしてどうなるだろうか?。

いよいよデジタイズ
暫くSoundEngine_Freeを使いPC内で収録・編集・再生を楽しむ。マニュアルなど見ないでも何とかなってしまうのが面白い。ソースはCDやネットラジオ等などで、容易にデジタルファイル化出来てしまう。
デッキの出力をPCの「Line入力」へ接続しSoundEngineの録音ソースを「ライン入力」に設定。順調に作業が始る。しかし困ったことが一つ。テープデッキのVUメーターとSoundEngineのレベルメーターの感覚が合わない。SoundEngineはピークレベルメーターの中にVUラインを白線で表示しているようだがちょっと違うのだ。デジタルのレンジ一杯にアナログを展開しようとすると結構悩ましい。まぁ妙なHumやノイズの混入がなければVUラインは-18dBを守っておれば問題はなさそうだ。
収録と連動してファイルが作られる。このファイル再生し、編集やf特補正した場合は上書きしておく。再生時にグラフィックEQや各種効果が得られるので便利だが多用すると妙な音になるので注意したい。 写真はデジタイズ中の作業風景。30年前の録音を聴きながら、世の中便利になったものだと感心する。また当時、これだけの環境を予測できただろうかと感慨にふける。

音楽(音声)CDの作成…まとめ
CDの焼き込みソフトはNeroExpressを使っている。短い音楽でも長い朗読など何でも焼き込んでくれるので便利なソフトだ。ところがデジタイズでレベルを修正したにも関らず、焼き込むと元のレベル戻っているのに気が付いた。何も分からず更にデジタイズでレベルを修正するが、焼き込むと再び元に戻ってしまう。この原因はNeroの設定「ファイルを平均化する」を選択していたためだった。これが分かるまで余計なCDを5枚も作成してしまった。また生録してレベルを抑え込んでいない素材の場合は、平均的にレベルを持ち上げてしまいピークが叩かれるので注意したい。
左は焼き込んでラベル印刷を施したCD群(レベルオーバーのも含まれるHi)。早々に昔の友人へ発送したが、喜んでもらえるに違いない…と自己満足の世界。
簡単な装置で容易にデジタイズや編集が行なえ驚きを隠し得ない。スケール上では96dBのダイナミックレンジがあり、昔のアナログ録音なら歪まない程度に録音しておけば十分である。ただ作業が始まると、一定量のデジタイズする場合はそれなりの戦略と情報整理が必要である事が分かってくる。素晴らしさを活かすには、それなりの管理が必要と言う事だろうか…。