IC-756のLCDパネルの不具合とその対策

icom社のIC-756HFトランシーバーを長年使用していると、LCD上に横引きの黒ノイズ(ライン抜け)が発生する場合がある。一気に増加することはないが、オーナーの場合は購入後6〜7年で2台のIC-756で発生している。また同型機を所有する友人4人も程度の差はあるが皆揃って症状を訴えている。 IC-756やIC-780等では、LCDやCRT表示は言わば無線機のOSに相当する最も重要な部分である。それが不良になると全くタダの箱になってしまう事をメーカーはもとよりユーザーも購入時から認識すべきである。コンテストやぺディションでもしこのような障害に遭遇したと仮定したらゾッとする。
この件について2003年8月17日icom社に打診したところ現象は認めているが部品の供給が滞っている旨の返事を貰った。そして2004年11月22日代替部品の供給が可能になり修理可能である旨の連絡が届いた。参考までに工賃\10920、部品代\16380(両者税込み)であるが、ユーザー責任で部品のみの販売も可能であることが分かった。
オーナーのメイン機は以下の写真に示す通りで、藁をも掴みたい状況である。少しでも困っている方の参考になればと思い、ここでは単に回復させるまでの技術的な部分のみについて記述することにする。

現象
写真は、1997年10月購入のIC-756(No.002194)で2004年11月23日の横筋ノイズ状況で、オンマウスカーソルすると1年3ヶ月前の2003年8月17日の状況が確認できる。2003年8月は20本程度であったが、この間に70本程度まで増加している。この状態では下部のファンクションキィ文字が分からず使えたものではない。最初に確認したのは2002年の夏と記憶している。また固定局で使用している1997年12月27日購入のIC-756(No.01090)は2004年3月に初めて数本が確認されてたが、同年12月で症状は出たり出なかったりしている。
原因
原因については明確なコメントでアナウンスされていないが、メールのやり取りによると、「LCDユニットのLCDドライバーの問題」としているようである。またLCDユニットメーカーは不明。
対策
今までLCDユニットの部品供給が1年以上も途絶えてた模様で、2004年11月よりicom社に供給されるようになった。それをユーザーが部品として購入し交換することにより復帰させることが出来る。icom社からIC-756の組み立て図面としてPDFファイルが送付されて来たので参考にされたい。

LCD発注
最寄のHamShopかicomに部品として発注する。オーナーは2004年11月27日に、部品購入として名古屋市内東区大曽根の平丸ムセンに依頼した。
交換責任
この作業はあくまでユーザーの責任で行うことを前提としている。現在未だLCDユニットが未着だが、参考のために以前LCDバックライトドライブ回路修理のために分解したフロントパネルの写真を左に掲示した。緑色の裏側にLCDユニットが組み込まれている。前述の組み立て図面と照合すると分かり易い。以後この後の進捗状況をLCD交換完了まで続ける事にする。


LCD到着
2004年12月4日、依頼してあった平丸ムセンからLCDパネルを持ち帰った。価格は税込みで前述の通りであるが、多少の割引があった模様で\1万5千台だった。
交換手順
@フロントパネルを取り外す・・・上下カバーと左側取っ手をビスを緩めて取り外す。その後フロントパネルを本体に取り付けている左右2本ずつの皿ビスを緩める。フラットケーブル1本を本体側、オーディオケーブル2本をフロントパネル側で外せば、フロントパネルのみを分離できる。
Aフロントパネルを分解する・・・フロントパネル裏面の基板(SUB -LOGIC BOARD)はビスを緩め、メーターのハンダを取り除けば外れると思ったら大間違い。実はAF/RF/SQ_VRとBAL/NR_VRがネジ(ナット・ワッシャ)でフロントパネルフレームに固定されている。ネジを緩めるためにはVRノブ類とメインダイアルを外し、更にフロント化粧パネルを外しフレームを裸にする必要がある。VRノブは引っ張れば抜け、メインダイアルは周辺のゴムリングを外し6角レンチで外す。またダイアルフリクション調整機構の板バネ・ビス2本・滑りリングとフェルトリングも取り外す。この状態でフレームを覆っている化粧パネルを上下計6箇所の爪から順序良く外して行く。フレームが裸になったところでVRのナット2個を外す。
BLCDユニットを取り外す・・・フレームから基板(SUB -LOGIC BOARD)を取り外す(前述のメーターのハンダを外すのを忘れない事!)が、このときフラットケーブルを慎重にソケットから外す。基板を取り外すとLCDが乗ったフレームが残るのでビス2本を緩めLCDユニットを取り外す。
CLCDエスカッションの交換・・・LCD前面に水平/垂直=4:3に開口したエスカッションを取り外し、新しいLCDユニットに取り付ける(LCD表面の保護用ビニールシートは外す)。エスカッションは薄いアルミのプレス加工で前面は黒に塗装されている。固定は両面テープで行われているので、折り曲げてしまわないように慎重に取り外し、汚れを一度綺麗に落としてから両面テープで貼り付ける。重量のかかる場所ではないので、両面テープの量は必要最小限とする。
DLCDユニット交換・・・Bの作業の逆手順。
Eフロントパネル組み立て・・・Aの作業の逆手順。
Fフロントパネルを取り付ける・・・@の作業の逆手順。
・・・概ね以上の作業で交換が完了する。一度説明を聞けば何も戸惑うことはないが、情報が全く無いと無駄な時間を費やすことになる。


所見
交換したLCDを見ても何の苦労も感じないが、基板の取り外し手順が判明するまでかなりの時間を費やしてしまった。icomより送られてきた組み立て図ではその手順が中々読めないのである。本件についてicomは、同社のWebサイトで正式なアナウンスを行うとの連絡をしてきた。またその際にはオーナーにも知らせる旨の記述があったので期待しておくことにしよう。
これで安心してオンエアが出来るようになったと思いきや以下の課題がある。
@LCDの残像・・・オリジナルより残像が多くダイアル数字の変化やバンドスコープを見ると気になる。
ALCD背景ムラ・・・コントラストを絞っていくと背景レベルがフラットにならずムラを感じる。
B安定度・・・電源投入時に前項のムラが発生し易くコントラストレベルを上げる必要がある。

以上はicomにも報告済みである。せっかく交換出来て、1年以上も死に掛かっていたトランシーバが生き返った事は喜ばしいが、オリジナル通りでない事についてはやや複雑な心境である。

資料

新旧のLCDユニットを並べてみた。左がオリジナルで右が今回投入した新LCDユニット。フラットケーブルソケットは、オリジナルは差し込むだけだが、新しい方はクランプがあり差し込む前にクランプを解除し、差し込んでからクランプする機構になっている。
新旧の違いは使用部品やプリントパターンなどで確認できる。ここまでやるとLCDのドライブ基板とLCD本体との分離をやってみたくなるが、フィルム上に細かくプリントされた金属ラインを見るとその気が失せる。
LCDユニットからはバックライト用電源コードが基板(SUB -LOGIC BOARD)まで伸び、本体基板からフラットケーブルが接続される。

フレームに取り付けられたLCDパネル(前面)。左にある穴2個がVR用でナット締めする。右のシャフトはメインダイアル用のローターリーエンコーダ。

フレームに取り付けられたLCDパネル(裏面)。左のVRに似た物はロータリーエンコーダ。

フロントパネルと本体を固定するビス。特に皿モミはしてないがビスは皿ビスが使用されている。この写真は左側のビス2本だだが、右側も同様な固定がされている。

本体から外されたフロントパネル。フラットケーブル2本とオーディオケーブル2本を外す必要がある。

基板を外すにはビスとフロント化粧パネル内のVRナットの他に写真のメーター端子のハンダ付けを外す必要がある。写真にある矢印がそれ。この辺りの作業手順については組み立て図では分からないため、現物を見ながら想像しながらやる必要がある。

外した基板と未だLCDユニットが付いたフレーム。一見簡単なようだが、手順書が無いため試行錯誤に時間を費やしてしまった。しかしそれらは、一度体験すれば何てこと無い話である。部品類の勘合も正確で非常に再現性がよい事が分かる。

交換後3.5MHzバンドをワッチ中のLCDの様子。ダイアルを回したときの周波数表示や、レベル変化する信号のスコープ表示に残像があるのが気になる。またコントラストを下げた時の背景ムラや電源投入時の安定度も気になる。