*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【人権啓発事業の裏方?】


 人権擁護委員は,相談を受けて人権被害を受けた方の権利の回復に専念していると世間では思われていることでしょう。ところが,意外なことに,委員の役割は少し違っています。「人権侵犯事件につき,その救済のため,調査及び情報の収集をなし,法務大臣への報告,関係機関への勧告等適切な処置を講ずること」という職務が人権擁護委員法第11条に書かれていますが,3番目です。この項については,委員は前文にあるアンテナ機能を発揮することが期待されており,後文については法務局が主務を演じ委員は必要な場合に補佐するものと指導がなされています。職務の1,2番目はそれぞれ,「自由人権思想に関する啓もう及び宣伝をなすこと」「民間における人権擁護運動の助長に努めること」となっています。広報担当ということでしょう。
 委員が実際に行っている活動は,主として相談活動です。市町ごとに設けられている特設相談活動です。月数回から年数回と幅があります。加えて,法務局・支局ごとに設けられている常設相談活動に当番として対応しています。その他に研修活動を兼ねる意味で,それぞれ専門部会に所属しての活動をしています。
 委員は支局ごとの協議会及び県全体の連合会に所属します。市町レベルの組織はないので,市町における活動を行う基盤がありません。確かに特設相談活動を行っていますが,自主的に関わっているという形式が整っていません。また,市町独自の人権啓発の活動に対しても,よくて一員でしかないといった実情です。協議会・連合会による組織としての活動は,専門部活動です。
 法務局や全国人権擁護委員連合会が一斉に行っている事業があります。その事業に対する委員の意見を聴取するアンケート調査が行われました。所属する協議会での回答の概要を事業ごとにまとめておきます。問題点や改善点の指摘について取り上げてみます。

 (1)人権の花運動
  ・自治体への委託になったことで,自治体の姿勢に左右されるようになった。
  ・自治体に任せて,学校の要望に応えて動けばよい。
  ・花を植えることの人権との関わりが曖昧である。
  ・夏休み時期にかからないように,花の種類や品種の工夫も考えるべきである。
 (2)中学生人権作文コンテスト
  ・中学校には自治体主催の人権作文を含め多種の作文応募依頼があり飽和状態である。
  ・人権作文としての評価基準が明らかでなく,審査の公平性に欠ける面がある。
  ・作文集について,発行時期が遅いこと,活用度が低迷していることの問題もある。
 (3)人権教室
  ・学校教育の中で人権学習も行われているので,委員が入り込む必要があるか疑問である。
  ・学校時制に合わせ,学年ごとの内容と手法を整えるといった基本的な準備が必要である。
  ・内容については特に,道徳教育と人権教育の異同を明確にすることが求められている。
  ・教職経験のない委員に対しては事前の研修などが必要と思われる。
 (4)人権週間行事
  ・啓発物品の配布数不足や物品選択など,自治体主催行事との整合が取れていない。
  ・ポスターやチラシなどはエコ社会では考え直す方がよい。
  ・メディアの利用などを図る方が効果的である。
 (5)企業に対する人権啓発
  ・企同推などの既存のチャンネルとの調整を十分に図るべきである。
  ・委員だけでは入りにくいので,法務局の出前講座にすることも考えられる。
  ・中小企業への啓発のあり方を考える必要がある。
 (6)Jリーグとの連携・協力
  ・特定の委員への負担集中を避ける方策が必要である。
  ・野球や相撲などの方がより効果があると思われる。
  ・主旨,結果など,全体的な効果がわかりにくい。
 (7)人権啓発フェスティバル
  ・パネル展示については,準備の労に比べて,観覧者が少ない。
  ・自治体との連携にばらつきがある。
 (8)社会福祉施設等での特設相談所開設
  ・施設側の理解を得ることが先決である。
  ・施設内では相談しにくいという面も感じられる。
  ・入居者が相談対象にならないこともあり,保護者を対象とすることも必要である。
 (9)全国一斉子ども人権110番強化週間
  ・チラシ,ポスターは必要な人に届かない。PRが十分ではない。
  ・平日の昼間は子どもは授業中なので,休み期間に開催をすべきである。
 (10)全国一斉女性の人権ホットライン強化週間
  ・相談が少ないのは,PRの仕方に問題があるという面もある。
  ・あえて強化週間を設定する意味が明らかでない。
 (11)人権擁護委員の日全国一斉人権相談所開設
  ・人権の相談は少ない。総合相談にした方がよい。
  ・啓発活動のみで,相談窓口を設けることはない。
 (12)子どもの人権SOSミニレター
  ・手紙相談では情報量が不足し一般的な解答に終わっている。
  ・内容から見て小学校低学年は必要ないと思う。
  ・法務省主導であり返書原案は法務局で行うものと思う。
  ・レターサイズを規格にしたり,小中校別のデザインなどにした方がいい。
  ・不登校対象者への配布などの工夫が必要である。
 (13)インターネットによる人権相談
  ・十分に活用されていないが,今後相談の中核に位置づけるべきである。
  ・専門委員の対処が望ましい。

 いずれの事業も課題を含みながら,委員の努力と気遣いで何とか実施されていますが,その効果についてはいまいちなのではという共通認識があります。よりよくするには何を考えればいいか,いくつかのポイントがアンケートの中から見えてきました。
 残された問題は,これらの指摘を誰が改善に向けて生かすのかということです。調査のしっぱなしでは意味がありません。そのことが最大の課題かもしれません。

(2009年03月31日)