*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【今も!昔は?】


 江戸時代の人の思いを,川柳から見届けてみましょう。
○いいかげん損得もなし五十年
 五十年という一生,生涯を回顧するとその損と得とはだいたい同じ程度だったなという思いです。
○来し方を思うなみだは耳へ入り
 横臥しているから涙が頬を伝って耳に入る。
○うたた寝の顔へ一冊屋根にふき
 顔に日が差すのか本を開いたまま顔に載せているのが,昼寝らしい。
○習ったを後の師匠に邪魔がられ
 師匠についたが,以前に習った下地があるのでかえって教えにくいということです。
○遣唐使後は茶漬けをくいたがり
 肉食を汚らわしいとして嫌った時代,遣唐使はやむを得ず食べるだろうが,茶漬けで口をさっぱりさせたはず。
○雨だれを手へ受けさせて泣き止ませ
 泣き止まぬ赤子を抱いて軒下へ出て雨だれを受けさせる。
○子を持って近所の犬の名をおぼえ
 毎日見ているのに名を知らぬ犬。子がその犬と遊ぶので名を知った。
○鬼ヶ島まで行かず寝付く子
 桃太郎の話を寝物語にしているが,すぐに寝てしまう。
○どらの詫び大工のするがしまい也
 どら息子を閉じ込める座敷牢の仕事を頼まれた大工が気の毒に思い取りなすが,親は見限り親戚もあきれてわびをしてくれる人がいない。
○おやの気になれとは無理なしかりよう
 ちょっとは親の気持ちにもなってみろと息子を叱る。それができるくらいならどら息子にはならない。
○けんとうを聞いてぬかみそ亭主出し
 床についている産婦が亭主に場所を教えている。
○後添えの連れて来るのは女の子
 離縁するとき男の子は父親の元に残り女の子は母の元に引き取るのが一般の習慣。この場合の後添えは離縁されたものであろう。
○女房はなんぞの時を待って居る
 今はだまされたふりをして黙っているけれど,そのうちにぎゅっという目に。
・・・・・・・・・・・・・・《江戸川柳:神田忙人著》

 人の思いは今も変わりませんが,人が成す所業の形は昔なりの社会の時代背景に彩られているようです。人の有り様の中にある人権の色合いも,時代によってさまざまに変わっているのでしょう。生まれも育ちも違う人が織りなす関係は,一筋縄ではいかないと覚悟してはいても,想定外のところにある現実に出会うことがあります。
(2011年10月06日)