*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【あるべき場?】


 ハウス食品といえば,『バーモントカレー』『ジャワカレー』などのカレールウのほか,『ウコンの力』などのドリンク,さらには『とんがりコーン』などのスナックまで幅広く食品事業を展開していますが,香辛食品事業部が"パンのふりかけ"を生み出しました。シナモンにグラニュー糖をブレンドした「シナモンシュガー」も取り扱い商品のひとつでした。トーストに合い,新しいパンの風味が味わえると市場に提案を試みましたが,期待したほど売り上げは伸びませんでした。
 香辛食品事業部の製品ということで,「陳列する棚はあくまでもスパイス売り場に限られていました。スパイスは料理によって非常に多くの商品が揃うにもかかわらず,一般家庭では頻繁に消耗するものではありませんから,売り場の中に埋もれがちな商品でした」と担当者も語ります。"スパイスからヒット商品は難しい"というのが業界の常識だそうです。
 名古屋支店の営業担当の一人がその壁に果敢に挑みました。地元の名古屋のスーパーとの粘り強い交渉の末,「パンにかけましょう」というPOPとともに,「シナモンシュガー」をパン売り場に陳列することに成功しました。パン売り場におかれた「シナモンシュガー」は,スーパーの担当者を驚かせる15倍増という驚異的な売り上げを記録しました。
 その成功譚を社内イントラネットで知ったブランドプランナーは,大きなビジネスチャンスが到来したことを感じて,全国の小売店で同様の仕掛けをすることを指示しました。すると,どの小売店でも売り上げが"異常値"を記録しました。
 「私たちは、シナモンはトーストに合うと感じていたが,お客様には伝わっていなかった。いや,お客様にちゃんと提案できていなかった。ヒットの鍵は"売り場提案"にあったのです」
 コンビニの主力商品といえば弁当ですが,たいていのコンビニで店の奥の棚に置いてあります。主力商品であるなら,もっと目立つ入口付近に置かれてもいいと思われますが,それではコンビニは儲かりません。
 弁当という商品は,それに付随して別の商品を買ってしまうことが多い商品なのです。弁当が奥にあれば,レジに持っていく途中に,弁当だけじゃさみしいからと,飲み物やデザートを買ってしまいます。弁当を食べながら雑誌も読みたいともなります。こうして,コンビニの売り上げがアップするのです。
 モノはあるべき場所にあってこそ,売り手と買い手を確かに結びつけることができます。思いを伝えるためには,ただ伝えるのではなく,伝わるような仕掛けを施す必要があるということです。
(2012年11月20日)