*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【研修報告:スクールソーシャルワーカー】


 平成27年7月24日,子どもの問題部会と男女共同参画社会推進部会の共催による研修会が開催されました。テーマは,「スクールソーシャルワーカーの活動内容と現状」〜人権擁護委員との連携の可能性について〜であり,福岡県立大学の准教授奥村賢一氏に講演をお願いしました。その概要を報告しておきます。

 ソーシャルワーカー(Social Worker)とは,生活する上で困っている人々や,生活に不安を抱えている人々,社会的に疎外されている人々に対して,総合的かつ包括的な援助を提供する専門職の総称であり,また,それらの背景にある,社会や生活環境等を改善する専門職の総称である。主に社会福祉事業等に従事し,社会福祉学を基に社会福祉援助技術を用いて社会的に支援を必要とする人々とその環境に働きかけを行うとともに必要な社会福祉のサービスを開発・運営する役割を持つ。
 以前は社会福祉事業に携わる人の総称として使用されていたが,「社会福祉士及び介護福祉士法」,「精神保健福祉士法」の制定により,現在では国家資格である社会福祉士と精神保健福祉士の総称である。なお,その法律の定義から,日本ではソーシャルワーカーを「相談援助職」と言うことが多いが,人権擁護の理念のもと,人々の社会的疎外を解決し,共存共栄社会の実現という,ソーシャルワークの本来の意味合いと比べると法律上の定義は狭義である。
 学校との連携が主な活動であるときに,スクールソーシャルワーカー(SSW)と呼ばれている。他に医療ソーシャルワーカーなどもある。子どもの問題としての不登校,いじめ,非行,低学力などは二次現象であり,その背景にある貧困,離婚,不況による生活環境の不備を解決しなければならない。SSWは,その生活支援の専門家である。
 川崎市の中学1年生の殺害事件では,SSWに相談されていなかった。母子家庭で母親が多忙,子どもが転校,非行,学校からの連絡も取れない状況で,ネグレクトのケースだと思われていた。生活貧困家庭という視点が欠けていたために必要な支援が及ばなかった。同じような子どもはたくさんいるが,学校はどう対応すればいいのか分からないままである。子どもの貧困は16.3%,少ないと見えるが,一人親家庭の50%が貧困状態である。親もそれなりの努力しているが,子どもの教育は国が保証すべきであり,福祉と教育の連携が必要である。
 ここで,スクールカウンセラーとの違いを明らかにしておく。スクールカウンセラーは,心理検査や心理療法によって,本人の抱える心の問題を改善・解決していく心理の専門家である。それに対し,スクールソーシャルワーカーは、子どもに影響を及ぼしている家庭・学校・地域環境の改善に向けて,学校・家庭・地域での生活支援ネットワークを築く福祉の専門家である。相談支援はもとより,福祉サービスの調整,ケースマネジメントによる個別支援計画の立案などによるサポートを行っている。福岡県ではスクールソーシャルワーカー協会を設立し,子どもの声を大事に代弁している。
 子どもの最善の利益を保証する子どもの権利擁護のために,人権・教育・発達といった複合的なサポートを目指している。虐待のセーフティネットとしての学校のあり方,不登校児に対する教育の保障としての特別支援教育,貧しさから食べられない子どもがいるという現実から見える環境要因による発達障害など,一人一人に寄り添った支援を使命としている。
 この子がいるせいで他の子どもたちが迷惑するという場合,担任の先生は集団の面倒を見るので,この子をSSWが支えることによって公平さが実現されている。このようないわば特別扱いをすることが,平等ではないと思われることがある。その背景に責任を問うという社会の目がある。貧困は自己責任であるということ,いじめが起これば学校の責任,虐待が見過ごされると児相の責任,生活が貧しいのは家庭の責任と,どこかに責任を押しつけることによって,自分には何の責任もないと,人任せの依存体質な社会がある。
 このような責任追及をしていては解決はできない。海外におけるように,再発防止プログラムを創出するという方向への切り替えが肝心である。すなわち,負の連鎖からの脱却を支援することである。子育てが「孤育て」になっているなど,問題状況に対して,まずは受容・傾聴・共感というコミュニケーションを持つことが必要である。この際気をつけておくこととして,受容では評価しないこと,傾聴では遮ってまとめようとせずに最後まで聞き取ること,共感では感情移入をしないことがあげられる。特に上から目線では言葉が伝わらないことに留意すべきである。たとえば,虐待被害の相談を受けているとき,「あなたの気持ち分かるよ」と言うと嫌われる。「あなたに何が分かるの?」という反発を招き傷つけてしまうことがあるからである。いい加減な推測の言葉は避けて,「分かりたい」と素直に向き合うことが望まれているのである。その他,私の子ども時代は,○○で間違いない,我慢が足りないといった経験を偏重し押しつけるような言葉も効果はない。
 問題の解決には何より早期発見が有効であり,事前防止がSSWの中心的な取組である。中学生の問題は小学生の時からつながり,さらには幼稚園保育園で兆候が見られたりするが,その間の個人情報伝達がなされていないことが多い。そこで,子どもの成長過程に対応し隙間の見落としを防ぐために継続的な支援を図ることを目指して,幼稚園保育園・小学校・中学校・高等学校への縦のネットワーキングを構築する。不登校が現れる前に対応できることが望ましいはずである。
 問題を抱えさせられている子どもを見つけると,救うためにはどうするかという課題に向き合うことになる。学校では,校長,教頭,教務主任,スクールカウンセラー,学級担任,生徒指導,養護教諭による校内連携ができるが,そこにSSWも入り込み,児童相談所,福祉事務所,警察,病院,保健所,家庭裁判所などの校外連携との連結点となり,横のネットワーキングをリンクすることになる。担当者が交替してもポジションを明確にしておくことで救済の機能が保たれるようなシステムを組み上げるようにしている。子どもに何かあったときのスーパーマンの登場ではなく,学校以外も関わって,普段の子どもを支えることができる,顔の見える支援体制を目指している。
 SSWができることは,子どもの人生の一部でしかない。それでも支えた後に援けること(支援),教えた後に育むこと(教育)を通して,共に歩みたいと願っている。人権擁護委員とは,子どものけんかが親のけんかにこじれた事例で解決に協働したこともあり,また個人的に娘がSOSミニレターを出して相談にのっていただき喜んでいたことがあり,連携することが出てくるはずである。

(2015年08月05日)