*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【どうぞと護る?】


 自治体による人権啓発活動として「人権の花」運動があります。小学生が花を育てることで,命に触れる経験をし,人権感覚に目覚めるきっかけになることを期待する活動です。対象となる花には,地域や学年の違い,活動の形式や自治体のパワーなどにより,さまざまに選択されます。当協議会では,活動を主催する自治体による県ネットワーク協議会により決められている「ひまわり」を人権の花として,自治体活動に人権擁護委員が支援をしています。
 育てることについては自治体が学校と児童に支援ができますが,人権啓発という活動目標部分は人権擁護委員が担うことになります。ひまわりの育成と人権感覚をどのように結びつけるかが,委員に課せられた課題です。具体的な展開は状況に合わせるとして,人権擁護につながる道筋を想定しておく必要があります。
 花を育てる児童の関与がどのように人権擁護につながるのか?
 ひまわりの種を植えて,育てて,花を咲かせて,種を取る,という命の生きる過程を通して,花と自分の関係の意味に気付かせ,さらに,擁護の有り様を納得させる筋立てを想定してみます。
 まずは花と児童の関係です。「因縁果報」という言葉を下敷きにします。ひまわりの種は,袋の中やテーブルの上に置いたままでは芽が出ません。種は大地に蒔かれてはじめて生きようとします。種という因は大地との縁によって育ちます。もちろん大地だけではなく,太陽と縁で日光を浴びます。児童との縁は,水やりをし,風に対する支柱によって守ってやります。ひまわりの命の擁護です。やがて花が咲きます。花は受粉を助けてというメッセージです。その助けての声を聞いた虫たちが受粉を助けてくれるお陰で,種ができて,命を次世代につなぐことができます。新たな種が果であり,助けてくれた虫たちに甘い蜜のお礼,それが報いです。因に縁が絡み,果が生じ報が届けられる,というストーリーが見えてきます。
 この活動のクライマックスは,児童と委員がひまわりの一生を振り返る「感謝式」です。メインは,ひまわりから児童に対する「ありがとう」という感謝です。どうして感謝されたのでしょうか? それは,児童が見守り「どうぞ」と手を添えて世話をした,ひまわりを守る擁護をしたからです。ひまわりの助けてという花の声を聞いた虫たちも,どうぞと擁護してあげたから,密の感謝を受け取りました。縁という関わりはどうぞと擁護する,だから報という関わりとしてありがとうと感謝することが生み出されます。
 ひまわりにだけではなく,友だちにも思いやりを持ちましょうと,結ぶことになるでしょうが,「どうぞ」という言葉があるから,「ありがとう」という言葉が生まれることを気付かせることが大事になります。「どうぞ」という言葉こそが,人権擁護のキーワードであり,思いやりを引き出す言葉なのです。
 さらに付け加えることは,ひまわりが自分ではどうにもならない受粉について,助けてと花で訴えたことです。助けてと表明することは美しいことなのです。美しいと思うから助けてあげたくなるのです。生きることに対する共感と擁護,それが美的感覚という生まれながらに備わっている人権感覚でしょう。
(2015年03月05日)