*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(31):コミュ力(3)6鍛錬】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

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 「私が生きる羅針盤」を考える第31版です。今号では,コミュニケーション力の6鍛錬を解説している情報に接したので,生きる羅針盤に参照してみました。SNS時代のコミュニケーション力を考える手がかりになるかもしれません。

生きる羅針盤の提案(コミュ力6鍛錬)です
【1.自己統制〜アンガーマネジメント・ストレスコーピング】
《説明》アンガーマネジメント(怒りのマネジメント)とは,怒ることを否定するものではなく,怒りの感情を上手く抑えて表現することです。全ての怒り感情を我慢するのではなく,マイルドな怒りまでを適切に人に伝えることが大切です。優しい口調で何が嫌いなのか,どうしてほしいのかを伝えるように心がけましょう。
 また人間の怒りのピークが続くのは,およそ「6秒」と言われています。カッとなって瞬発的に物申したくなったとしても,心の中で6秒数えて深呼吸をすると怒りを少し鎮めることができます。
 ストレス・コーピングとは,ストレスの元にうまく対処しようとすることです。次の2つの対処法があります。
○問題焦点コーピング:ストレスの元に働きかけて,それ自体を変化させて解決を図ろうとすること。
○情動焦点コーピング:ストレスの元に働きかけるのではなく,それに対する考え方や感じ方を変えようとすること。

※コミュニケーション力の6鍛錬の一つは,相手に向けて怒りのような自らの激情を直接に発することをしないために,もう一人の自分が自己内の感情を聞き取り,怒りを論理的な表現に整理して,段階的に伝えるように努めることです。まずは6秒間の一旦停止を怒りに対して発動すれば,落ち着きがもたらされるはずです。コミュニケーションとはお互いの分かり合いを求める行動であり,その前後で,お互いによりよい変化を受容することになります。双方によいものというもう一人の自分の冷静な判断と,受け入れる決断,そのことが大事なのです。

【3.読解力〜メンタルモデルに耳を傾けるトレーニング】
《説明》メンタルモデルとは,原体験などによって身についた価値観や考え方のようなものです。また,耳を傾けるとは「きく力」のことを指しています。 「聴く力」を発揮して,相手の言動を読み取り,受け入れるためには,相手のメンタルモデルを想像することが求められます。人の言動を,海面から見えている「氷山の一角」と考えて,海面下に隠れている価値観や考え方をちゃんと探り知ることが,メンタルモデルに耳を傾けるということです。

※コミュニケーション力の6鍛錬の一つは,相手の発する言葉から相手が伝えたい思いが何かを聞き取る努力をすることです。言葉は状況を反映するものなので,お互いの状況が同じであることを確認できないと,意味合いがずれることがあります。違いがあることを前提として,丁寧な聞き取りによる解釈が必要になります。多少の違いを超えて同じ人間でありたいという共通の認識があるからこそ,コミュニケーションをする価値が生じます。共に生きていく仲間であるという信頼を交わそうとする気持が土台になります。

【2.表現力〜アサーション】
《説明》アサーションとは,よりよい人間関係を構築する方法で,「人は誰でも自分の意見や要求を表明する権利がある」との立場に基づく適切な自己主張・表現力のことです。簡単に言うと,自分の気持ちに気付き,言葉・表情・しぐさなどで相手に伝える方法です。
 周りの同調圧力によって自分の意見・感情を飲み込むことが多くなります。それも立派な自己統制ですが,やりすぎると逆にストレスになるでしょう。自分の感情や考え方を掴みながら,相手とコミュニケーションを取るアサーションの方法として,「I(わたし)メッセージ」があります。自分の気持ち・考え方に気付けるようになり,伝え方も優しくなります。

※コミュニケーション力の6鍛錬の一つは,自分の思いを表現する言葉を正しく選び,同時に相手に伝わるように落ち着いた態度で届ける努力をすることです。自分の感情のままに表現をぶつけるのではなく,相手が理解できているかを確かめることを忘れないことです。伝えたで終わらず,伝わったかと見届けることで,より良く理解し合うことができます。

【6.関係調整〜ファシリテーションとNLP】
《説明》ファシリテーションやNLPといった,場を読む力を養うコミュニケーションを学ぶことをオススメします。ファシリテーションとは,場を感じる力,修正する力,リセットする力,つくり出す力によって,人々の思考や感情を上手く場に落とし込み,よい雰囲気を保ちながら問題解決,アイディア創出,学習などの知的な創造活動の場をつくっていく働きのことをいいます。
 NLPとは,「Neuro Linguistic Programing(神経言語プログラミング)」のことです。例えば「学校」→「勉強をするところ」,「書類作業」→「苦手,めんどくさい」のように,思考や行動は経験を通してプログラムが作り上げられ,条件反射のようにパターン化された行動が取れるようになっています。このパターンを使って相手の警戒心を取り除き,安心感,親近感,また無意識レベルの深い信頼関係を築いていきます。

※コミュニケーション力の6鍛錬の一つは,言語のみならず態度,口調,抑揚などの交わされる表現のありようによって,関係が築かれるだけではなく,常に人間関係が壊れるという事態を招いてしまう可能性にも留意することです。意見が対立して,お互いに問答無用となるのは,コミュニケーションの失敗です。対立やすれ違いが生じても,その部分の範囲を限定し,より大きな視点を構築することで,つながりを保つことができるように結んでいきます。何が大事なのかを見失わない冷静さが大事なのです。どの程度お互いが分かり合えているのか,常に確認しておくことです。

【4.自己主張〜ロジカルシンキング】
《説明》ロジカルシンキングとは,論理的思考のことで,自分の気持ちや感情・主張・根拠を筋道を立てて合理的に人に伝えることができる力のことです。「相手に通じるように」話す必要があり,相手に通じるためには論理が必要だということです。
 ただし人間ですから,好き・嫌いなど論理的な理屈では説明しきれない主張を持つこともあります。そんなときは,自分の思っていることを,相手に受け入れてもらえるような言葉で素直に人に伝えることが大切です。

※コミュニケーション力の6鍛錬の一つは,取り組もうとする課題への取組の経緯について論理的な説明を示し,主張のポイントを明らかにしようと努めることです。自分の意見の修正や,相手の意向の緩和など,できうる歩み寄りのために,論理を明確に組み立て直す能力も必要になります。感情的な解決ではなく,理性的な対応を崩さない冷静さが,コミュニケーションの先行きを実りあるものにするはずです。

【5.他者受容〜NVC(非暴力コミュニケーション)】
《説明》NVCとは,「Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション」のことです。共感能力を引き出し,お互いのニーズを満たし合うコミュニケーション方法のことを指します。言葉によって自然と人を傷つけていることがあります。たとえば,「こっちだって仕事だったんだから仕方ないだろう!」言われた方も,言った方も傷つくような「暴力的」な会話です。「自分にしか対応できない仕事だから行かざるを得なかった。できることなら仕事には行きたくなかったんだよ。悲しい思いをさせたことが悲しいよ」言いたいことは伝えつつ,お互いを気遣う,「よいコミュニケーション」になっていて,お互いが本当に求めている「ニーズ」を満たすことができます。

※コミュニケーション力の6鍛錬の一つは,お互いの現状が少しでも良くなる方向に進むために,争い事に至る可能性を避ける工夫に努めることです。人は互いに支え合って生きていこうとしています。あるときは支えられ,あるときは支えています。どちらにしても,相手の立場になって互いの思いを尊重しています。優しさや思いやり,人の温もりがコミュニケーションを介して通い合うことが,生きていく幸せであることを実現することになります。

○以上,コミュニケーション力を高める6鍛錬を,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができているはずです。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。

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 社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
 人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。

(2025年09月07日)