【生きる羅針盤の提案(9):6つの精進】
人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。
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「私が生きる羅針盤」を考える第9版です。今号では,すばらしい人生・経営を実現するために,「経営の神様」と呼ばれた京セラ創業者稲盛和夫氏が唱えた「六つの精進」について見ておきましょう。羅針盤にリンクすることによって,六つのそれぞれの役割が新たに見えてくるはずです。
【誰にも負けない努力をする】
《説明》楽しい仕事はありますが,楽な仕事はありません。仕事をする限り,いつかどこかで辛く苦しい経験をするものです。ただ,その苦しい経験のなかで「誰にも負けない努力」を続けた時,たとえ成果が出なかったとしても,仕事の醍醐味を深く知り,仕事を好きになることが人にはあります。
○「誰にも負けない努力をする」ということは自ら決断することができることです。だからこそ,その決断によってもたらされるやりきった達成感が自覚できるのです。人に言われてする努力は自分に負けますが,自分で決めているから,自分にだけ負けないでいられるます。
【謙虚にして驕らない】
《説明》世の中では,他人を押しのけてでも,という強引な人が成功するようにみえますが,けっしてそうではありません。成功する人とは,内に燃えるような情熱や闘争心,闘魂をもっていても,実は謙虚な控えめな人なのです。
○「謙虚にして驕らない」ように外に向けて平常心であれば,抑制が効いた穏やかな努力として,自他共に安心することができるのです。独りよがりな振る舞いからは,社会に歓迎されるような成功は生まれません。
【感性的な悩みをしない】
《説明》済んだことに対して深い反省はしても,感情や感性のレベルで心労を重ねてはなりません。理性で物事を考え,新たな思いと新たな行動にただちに移るべきです。そうすることが人生をすばらしいものにしていくと信じています。
○「感性的な悩みをしない」ように心がけることで,状況を理性で表現することができるようになります。表現という言語化が論理を招き寄せ,考える営みに導いてくれます。その結果として理解できたという喜びに至ると,人生は明るくなるものです。
【善行・利他行を積む】
《説明》世のため人のために尽くすことによって,自分の運命を変えていくことができます。自分だけよければいい,という利己の心を離れて,他人の幸せを願う利他の心になる。そうすれば自分の人生が豊かになり,幸運に恵まれます。
○「善行・利他行を積む」ことを目指すと,人間であることの真髄が見えてくるようになり,他者と参画し合っている自分を喜ぶ思いが生まれてきます。それが幸せ,すなわち仕合わせの形だと信じることができるようになります。
【生きていることに感謝する】
《説明》生きていることに感謝することは,とても根本的なもので,日々できる感謝です。「感謝できることがあれば,感謝します」と考えていると,感謝の機会も少なくなります。ですが,「生きていること」「生かされていること」に感謝するのならば,生きている限り,毎日,毎日,感謝することできます。
○「生きていることに感謝する」ためには,生きていることに気付かなければなりません。その気付きの感性には,明日への希望を持っていることが必須です。希望を失うと生きていることが虚しくなるはずです。今日が明日につながっていると信じられるとき,人は生きている自分に感謝できます。
【反省のある毎日を生きる】
《説明》反省をして,邪で貪欲な,卑しい私に対して,「少しは静かにしなさい」「少しは足ることを知りなさい」と言い聞かせ,自我を抑えつけていく作業がいるのです。そうすることによって自分の魂を,自分の心を磨いていくことができるのです。
○「反省のある毎日を生きる」ように意識することで,自らの至らなさを見届ける視座を持つようになります。生きることは日々自らをより望ましい姿に近づけるように成長していくことです。人は自らの可能性に向かって生き続けているのです。
以上,稲森氏の六つの精進を人権羅針盤に少し強引な対応をしてみましたが,それほど大きく外れてはいないようです。具体的な表現は異なっても,人が思い至る境地は本質的に同じ世界観に連なっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。
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社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。
(2025年03月30日)