*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(20):六自力】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

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 「私が生きる羅針盤」を考える第20版です。今号では,自分が意思決定や行動を行う際に自分の心が持つべき6つの精神的な力として新しく提案された六自力について,生きる羅針盤に参照してみましょう。

生きる羅針盤の提案(六自力)です
【自由】
《説明》@「自由」とは思考や行動を他からの強制ではなく,自らの意志に由(よ)っていこうという精神のことです。すなわち,他者からの強制や他者に対する期待や依存がない時に私たちには本当の自由があります。究極の自由はどのような状況においても自己の道や態度を自らの意志によって選ぶ自由です。

※自分が生きるために持つべき精神力には,もう一人の自分が自分の自由をしっかりと確保するという力が基本になります。そのためには,説明にあるとおり,自らに由ることが文字通りに大事です。自分が何を選び何をしようと決めることは,誰の指図もなく決めてよいのです。ただし,自分以外の人に関わることは,自らに由るとはなりません。他者は他者に由るべきだからです。自らに限るという抑制を効かせる力でなければ,暴走になります。

【自立】
《説明》C「自立」とは経済的・思想的に他に依存せず,自己の独立性を確保しながら考え行動していこうとする精神のことです。

※自分が生きるために持つべき精神力には,自分を様々な状況において独立した存在とする精神があります。人は頼り頼られて生きているので,その関わりからは逃れられませんが,それを五分五分に維持することで,依存という状況になることはありません。お互い様という信頼の関係を相互に保つ強い思いが,自立を実現します。

【自律】
《説明》B 「自律」とはすべての刺激や出来事について直接感情的に反応せず,理性に基づいて,(他から律せられるのではなく)自ら統制して考え行動していこうとする精神のことです。

※自分が生きるために持つべき精神力には,感情にまかせた行動ではなく,理性に基づいて判断し,正しい選択に寄り添う精神があります。温かな,優しい振る舞いには感情が付与されていますが,だからといって感情任せな振る舞いではありません。もう一人の自分が自分の感情と相手の感情の合理的な結合を確認した上でのみ可能になります。自らを律し他者を生かすという理性に従う力が大切です。

【自尊】
《説明》D「自尊」とは自己イメージや自己肯定感を基礎として自己の存在価値(「人間としての自己の価値」)を認め,自分自身や自己イメージに対して誇り(プライド)を持ち,自己を愛し尊重し,自己(そして他者)を大切にし,自己の人間としての品格・尊厳において心豊かに社会貢献するというような善いことを行い,反対に社会に迷惑をかけるような悪いことを行わないように自己責任を持つ精神のことです。

※自分が生きるために持つべき精神力には,もう一人の自分が今生きているこの社会の中での自分の存在価値を何らかの形で知覚し信じる精神があります。単純な利己的な満足ではなく,社会的な人間としての自分の公正な位置づけができているという自覚が必要になります。例えば,権利と義務という調和のある価値基準に従っているという自負は,自らの行動を他者との共生を実現するものであると検証できる力によって支えられていきます。

【自燈】
《説明》E「自燈(じとう)」とは(真我に目覚め)正しい見識を持ち,よく自己統制され,一人前の人間となった自分自身(真我)を拠り所として本心良心に基づき自ら燈火で人生の正しい方向性を照らし出し決定していこうとする精神のことです。これはよく制御された自己が自分軸を持って生きることです。

※自分が生きるために持つべき精神力には,もう一人の自分が自分をあるべき正しい方向に導いているという未来視点を維持する精神があります。生きる意欲はよりよく生きていくことができている実感から湧き上がってきます。自分の生き様を真摯な目線で見届ける覚悟を持ち続ける精神が道を照らします。

【自主】
《説明》A「自主」とはすべてのことを他によらず,自ら主体的に考え行動していこうとする精神のことです。

※自分が生きるために持つべき精神力には,もう一人の自分が自分を決して見放さない決意を維持する精神があります。主体的の反対である従属的は,もう一人の自分が自分を他者の支配に任せてしまうことであり,結果として自分が生きることを放棄し,生かされる自分になります。自分の至らなさを受け入れて,成長という可能性に向かう精神が自主の実現をもたらします。

○以上,自分が生きるために持つべき6つの精神力を,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができていると思います。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。

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 社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
 人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。

(2025年06月15日)