*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(5):セクハラ】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

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 「私が生きる羅針盤」を考える第5版です。今号では人間関係における不具合であるハラスメントのうちで男女間で起こりやすいセクシャルハラスメントについて,羅針盤的整理を試みることにします。


生きる羅針盤の提案(セクシャルハラスメント)です
 厚生労働省による職場におけるハラスメントの防止のために
 →参照: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html  

 職場におけるセクシャルパワーハラスメントとは,男女雇用均等法においては
1.職場において,労働者の意に反する性的な言動が行われ,それを拒否したことで解雇,降格,減給などの不利益を受けること(対価型セクシュアルハラスメント)
2.性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため,労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること(環境型セクシュアルハラスメント)
をいいます。性的な言動とは,性的な内容の発言および性的な行動を指します。

 職場におけるセクハラの言動例は,大きく4種類に分けられることがあります。
 参照:「日本の人事部」 https://jinjibu.jp/keyword/detl/1070/ 
 その分類を生きる羅針盤に対照していきます。なお,4種類については,生きる羅針盤に沿った順序で説明をしていきます。

種類:制裁型セクハラは,「私らしく決断する権利の侵害」
 制裁型セクハラとは,異性に対して問答無用で圧力をかけるセクハラです。「女性が俺に意見することは許さない」とか,「女性の上司の指示には従わない」など,明らかに性別を理由とした態度を指します。この制裁型セクハラは,直接身体に触らなくても,態度に表れることが多いという特徴が指摘されています。具体例としては,以下のようなことがあげられています。
○女性の同僚からの発言をまったく聞き入れない
○女性の上司が言うことを無視,あるいは男性の上司に指示を仰ぎ直す
○「女性はサポート役に徹するべき」などと発言する
○子育て中の従業員に対して「時短勤務はいいよな」などと発言する
○面接時に応募者に「子どもを育てながら仕事したいの?」などと質問する

 私が私であると思い定めていることを尊重せずに,ずかずかと踏み込んで束縛してくる態度や言動は,私らしくある権利への侵害となります。何を思おうと自由というのは,自分のことに限られることであり,他人の範囲に踏み込むことは逸脱です。

種類:環境型セクハラは,「平穏に安心する権利の侵害」
 環境型セクハラとは,職場での性的な言動や装飾物の設置などによるセクハラです。実際に,従業員が休憩中に性体験や性癖などの話をして訴えられたケースもあります。本人は遊び半分のつもりで,セクハラをしている自覚がない場合が多く見られます。また,周囲の人が我慢していることに気が付かず,どんどんエスカレートする場合もあります。予防するためには,「自分の言動は大丈夫」と安易に過信せず,一人ひとりが周囲に対する配慮をする認識を持つことが重要です。具体例としては,以下のようなことがあげられています。
○性的な内容の会話をする
○アダルト系ポスターや玩具を設置する
○飲み会でお酌を求めたり,料理を皿に取り分けたりすることを強制する
○カラオケでのデュエットを強制する

 同僚であるという信頼が基本である職場で,性的な情報を持ち込んできたり,女性の仕事という間違った思い込みを押しつけてくることは,安穏な関係を持ち合う権利の侵害になります。信頼を親密さと勘違いして,関係を深めるための良い振る舞いのつもりでしょうが,相手の信頼に逆らう恐れをきちんと意識すべきすべきです。

種類:妄想型セクハラは,「正しく理解する権利の侵害」
 妄想型セクハラとは,相手が自分に好意があると勝手に決め付けて,それに基づいた言動を取るものです。例えば,相手が笑顔であいさつをしたり,出張に同行したりするだけで,「自分のことを好きかもしれない」と勘違いした言動を取ることをいいます。このケースでは,相手が明確に拒絶しないと,セクハラが加速しかねません。本人が自覚していない場合が多くあります。具体例としては,以下のようなことがあげられています。
○休日も一緒に過ごそうとしつこく誘う
○髪型が自分好みではないと指摘する
○一緒に歩いているときに腰に手を回す
○両思いだと思い込み,毎日のようにメッセージを送る

 好意という極めて個人的な感情を職場に持ち込んでしまう軽率さは,職業人としては不適切である上に,相手としてその妄想に巻き込まれる理不尽さは,人としての相互に理解する権利への侵害になります。自分の思いを表明することは,一方で相手の思いを確かめることがあって,始まっていくものです。

種類:対価型セクハラは,「真正に参画する権利の侵害」
 対価型セクハラとは,何らかの措置を優遇する対価として性的な行為を求めるケースを指します。相手が要求に応えなかった場合に,その腹いせに報復的な行為をすることも対価型セクハラです。対価型セクハラは上司から部下など,立場を利用して行われるケースも多くあります。具体例としては,以下のようなことがあげられています。
○昇給・昇格させる代わりに性的な行為を求める
○性的な行為をとがめられたため,降格を命じる
○性的な行為の要求に応えてくれなかったため,希望していない部署に異動させる

 相手の意向を尊重するという形式を保ってはいますが,強引さが割引しており,ましてや報復をちらつかせる脅しがまといつくのは,真っ当な取引に参画する権利への侵害になります。性的な行為を対価による枠に収める発想自体が間違っています。残念なことですが人間関係に裏表があるのが現実とはいえ,場所柄をわきまえないのは,社会人としては間違った行為になります。

種類:追随型セクハラは,「個人的に活動する権利の侵害」
 セクハラには,上記のように「対価型」「環境型」「制裁型」「妄想型」の4種類があるとされていますが,現実の職場では時代の流れとともに多様化してきています。特に近年は,インターネットの普及に伴ってセクハラの形が変わっているのが現状ということです。職場でセクハラ対策を進めるためには,セクハラの多様化にも対応しなければなりません。例えば,メールやSNSを用いたセクハラ事例が紹介されています。
○男性職員が,同組織の女性職員に対して約半年にわたり,食事の誘いなどのメールを何度も送っていたとして戒告の懲戒処分が下りました。
○男性職員が,女性職員に対して,勤務中に「おなかが出ているんじゃないか」など体型に関するメッセージを何度も送り,勤務時間外にもLINEで性的なメッセージの送信を繰り返していたとして,減給10分の1の懲戒処分が下りました。

 男女の間には性的な関わり合いがつきものという安易な欲情を封じ込めることができないのは大人げないことです。当人は恥じていればいいのですが,その欲情でつきまとわれる被害者はたまりません。いわゆるケータイのメールやSNSは基本的に個人の世界であり,個人が情報を得て活躍する場でもあります。そこに勝手に侵入する行為は失礼を超えて迷惑であり,欲情が絡めば犯罪的な行為にもなりかねません。

種類:新型セクハラも,明日には現れるかも?
 生きる羅針盤の「明日の希望に関わるブランチ」に対照できるセクハラの分類は今のところは明確には見えてきませんが,いずれ表立ってくるかもしれません。席を空けて待っていることにします。

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 職場では日常以上に相手の立場や心情を大切にすることが必要不可欠ですが,その礼儀をわきまえていないとハラスメントになります。セクシャルという感情を関係に持ち込むことは,社会的な場では不適切です。不適切にもほどがある,という流行語が思い出されます。
 ハラスメントの抑制には,加害の形の認知が必要ですが,人権侵害という面からの理解が十分な対策となるのです。
 人は個人で生きている一方で,社会人という関係を通じても生きているのです。自分と他者の間を意識できるからこそ,人は人間という間をまとうようになったのです。この間がお互いに違うとき,間違いという事態に至ります。

(2025年03月02日)