*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(26):怒鳴る(3)対応】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

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 「私が生きる羅針盤」を考える第26版です。今号では,何かと怒鳴る人に対する対応を取り上げます。怒鳴られるのは愉快なことではありません。怒鳴り返したいこともあるでしょうが,それは火に油をそそそぐことになります。怒鳴られる側になる場合にどのように冷静に対応すればいいのか,生きる羅針盤に参照してみました。

生きる羅針盤の提案(怒鳴りへの対応)です
【自分に非がなければ堂々と対応する】
《説明》※自分に非がなければ堂々と対応する
 自分に非がないのに理不尽に怒鳴られた場合には,堂々とした態度でいることが重要です。怒鳴る人は,相手が弱気な態度を取るとさらに強く出る傾向があります。そのため,間違ったことをしていない場合は,「自分は間違っていない」という冷静で落ち着いた態度を崩さずに対応しましょう。これは,例えるなら、「自分がブレなければ,相手も自然に勢いを失う」という感覚です。

※怒鳴られるという難儀に対する適切な対応の一つは,もう一人の自分が自分に向けられた理不尽さによってもたらされる負の感情を抑制しつつ,落ち着いて自分の非のなさを主張することです。相手は言い訳するなと重ねてくるかもしれませんが,一貫した主張を通すことです。自分のことはもう一人の自分がよく知っているという自覚が揺るがない,その態度の表明が大切です。

【相手が怒るきっかけを理解する】
《説明》怒鳴る人と付き合う上で重要なのは,その人がどんなことで怒りやすいのかを理解することです。職場でいつも怒鳴る人を観察していると,ある程度共通したパターンが見えてきます。たとえば,仕事の遅れや報告漏れ,約束の時間を守らないことに強く反応する人もいます。こうしたパターンを理解しておけば,そのきっかけを避ける行動ができ,無駄なトラブルを未然に防げます。

※怒鳴られるという難儀に対する適切な対応の一つは,気まぐれで訳の分からない無理難題を持ち出す人は別にして,普段からどのような面でこだわっているか,把握しておくことです。人との関係では,相手の振る舞いをそれとなく把握しておくと,対応する際の気配りができるので,円滑に付き合うことができ,そこから疑いよりも信頼が先立つ関係を生まれてきます。普段から信頼関係を築くようにすることです。

【冷静に聞き流す】
《説明》職場で怒鳴る人の多くは,感情的になりすぎて自分をコントロールできていません。このようなとき,言い返したり感情的になってしまったりすると,さらに状況が悪化します。ここでは,あえて冷静に聞き流すことが効果的です。聞き流すことは無視することではありません。相手の感情に振り回されないように,自分の感情を静かに保つことです。たとえるなら,「雨が降ってきたら傘をさす」ように,感情の嵐に巻き込まれないよう心を保つというイメージを持つと良いでしょう。

※怒鳴られるという難儀に対する適切な対応の一つは,迫ってくる怒鳴り合う状況に巻き込まれないことです。火に油を注ぐのではなく,火には冷水をかけた方がよいこともあります。そのためには,怒鳴られていることの内容を冷静に見極めようとすればいいのです。ただ耳を塞いで聞かないのではなく,聞き流す情報から何が訴えられているのかを聞き取るようにします。怒鳴るという脚色を帯びてはいますが,実際のところ伝えられようとしている情報は何か,聞き取ることで,次のステップを見いだすことができます。

【上司や第三者に相談する】
《説明》怒鳴る人とのトラブルが繰り返し起こる場合,自分一人で解決しようとせず,上司や信頼できる第三者に相談することも効果的です。上司や同僚に客観的に状況を伝えることで,周囲の理解やサポートが得られやすくなります。また,怒鳴る人も第三者が介入すると,自分の行動を振り返りやすくなります。こうした相談は,職場全体の環境を改善する第一歩にもつながります。

※怒鳴られるという難儀に対する適切な対応の一つは,当事者双方に信頼されている第三者の介入を求めることも有効です。第三者の冷静な態度が,怒鳴る人を落ち着かせる効果があり,第三者の提案を受け入れる可能性も大きいからです。どちらの顔も立つという仲裁が見つかれば,円満に落ち着くことでしょう。何より,当事者双方が抱え込む緊張を,第三者も幾ばくか担いでくれるので,楽になります。三人による対応は社会的対処の基本です。

【怒鳴る人とは適当な距離感を保つ】
《説明》怒鳴る人とうまく付き合うために,重要なのは適度な距離感を保つことです。距離が近すぎると感情的に巻き込まれやすくなりますが,逆に遠すぎるとコミュニケーションが難しくなります。職場での適度な距離感とは,「相手の感情に深入りしないで,業務上のやり取りだけに徹する」ということです。たとえば,プライベートな話題は避け,仕事に関する連絡や報告のみを簡潔に行います。距離感を一定に保つことで,相手から怒りの標的になりにくくなり,穏やかな気持ちで仕事に集中できるようになります。

※怒鳴られるという難儀に対する適切な対応の一つは,怒鳴る人との間合いを,予め適当に距離を置く形にしておくことです。怒鳴られるという状況に陥らない間合いを保つようにしていれば,備えになります。適当な距離を保つことで,双方が普通に節度を維持する間柄になり,怒鳴る側にも抑制が生まれるはずです。親密さは良い関係なのですが,反動も強くなるので,要注意です。よくよく見極めてから,適切な距離を保つことです。

【自分に非があれば謝罪する】
《説明》もし怒鳴られた原因が自分にある場合,素直に謝罪することも大切です。人は誰でもミスをしますが,怒鳴る人はそのミスを過剰に責めがちです。しかし,こちらが素直にミスを認め,丁寧に謝罪すれば,多くの場合それ以上は悪化しません。たとえば,「私のミスで申し訳ありませんでした。次から気をつけます」と一言謝罪を明確に伝えるだけでも,相手の怒りを鎮める効果があります。

※怒鳴られるという難儀に対する適切な対応の一つは,自分にミスが認められたら,素直に謝らなければなりません。それが真っ当な対応だからです。人は失敗します。その至らなさを反省することが大事です。自分の非を認めないのは,もう一人の自分が自分から目をそらすことになり,救われません。次には非のない対応をするための良いきっかけなのです。その学習のチャンスとして受け止めていく姿勢を示すことが,相手に対する謝罪になります。

○以上,怒鳴られるという難儀に対する適切な対応に関する考察を,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができているはずです。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。

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 社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
 人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。

(2025年07月27日)