*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(17):PERMA】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

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 「私が生きる羅針盤」を考える第17版です。今号では,ポジティブ心理学の創始者であるマーティン・セリグマンが提唱した「どんな時に幸せを感じるのか」ということを分析,研究する中で幸せを説明するモデルがいくつか作られてきて,その一つである「PERMA(パーマ)」を,人権羅針盤に対応を試して見ることにしました。

生きる羅針盤の提案(PERMA_V)です
【P=ポジティブ感情】
《説明》前向きで明るい感情を指す「ポジティブ感情」。
 ポジティブ感情は私たちに大きく影響し,その積み重ねは長い間に大きな違いとなって現れます。喜び,感謝,安らぎ,愉快,愛,希望のポジティブな感情を持つことです。

※幸せを感じるためには,もう一人の自分が自分の欲していることを,周りの状況に照らしてポジティブに決断することが必要です。ネガティブに見えることがあるときには,夜中に考えずに,明るい朝の時間に見直すことです。きっと視野が明るくなって,その判断もポジティブにできるようになります。信頼できる人に相談することもできたらいいでしょう。

【R=人間関係】
《説明》良好な人間関係は,私たちの幸福を支える大きな柱。
 人を愛し,誰かから愛されることは,幸福度に大きな影響を与えます。人間関係の良好な人ほど,健康で長寿である傾向すらあります。家族などの親密な人たちとの関係を大切にすることです。

※幸せを感じるためには,自分が落ち着いて安心できる居場所を持つことが大事です。人と接しているときも,和やかな気持ちを伝えようと意識すれば,自分だけでなく相手も平静な対応をするようになります。気持の高まる局面でも,ほどを弁える抑制が効いていれば,後悔には至らなくて済みます。

【E=熱中】
《説明》時が経つのも,トイレに行くのも忘れるほど何かに熱中している状態を「フロー」と言います。
 運動選手は「ゾーンに入る」,芸術家は「恍惚状態」と表現しますが,どちらも「フロー」の状態です。フロー体験を重ねることで,人生はより充実して幸福なものとなっていきます。没頭,没入できる体験をすることです。

※幸せを感じるためには,もう一人の自分が今現在自らの置かれている現状を理解し,気持を集中する言葉を見つけて,声援します。熱中するには具体的な目標が見えていなければなりません。その目標を掲げる手立てが言葉による知恵の世界です。自分を熱中させる自己激励の言葉を場数を踏む中で見つけていくようにしてみましょう。

【M=意義】
《説明》アリストテレスが提唱した「ユーダイモニア」,自分の強みを活かして,意義あることに打ち込む幸せに深く関わるものです。
 どんなに大変でも,苦難があっても,それを補って余りあるほど意義が感じられれば,人はそれを続けられるし,幸福感すら感じられます。人生に意味や意義,目的を見いだして行動することです。

※幸せを感じるためには,自分がしていることが何らかの意味があることであるという自己確認が必要です。この行動は正しいもの,家族の期待に応えること,誰かの役に立つものと思うことができると,自分の存在そのものに喜びを感じることができます。自己の欲望に従って行動しているのではなく,他者とつながっている互恵的な社会生活に関わっているという意義が,幸せを届けてくれます。幸せは仕合わせ,することが他者と合わさっている形なのです。

【A=達成感】
《説明》趣味でも仕事でも,目標を持って取り組んでそれをやり遂げると,大きな達成感が得られます。
 やり遂げたことが自信となり,さらに高度な目標に取り組んだり,新たな領域に挑戦する勇気が湧いてきたり,といったことにもつながります。目標を立て,挑戦し,達成する。このサイクルを繰り返すことで,少しずつ成長し,かつ,幸福度も高めていくことが可能となります。最初は達成の意味だけが取り上げられていましたが,近年では何かを習得し向上させることも加味され,このキーワードが使われています。

※幸せを感じるためには,生き続けようという思いが基本になります。なんとなく生きているというのではなく,生きる努力をしているから生き続けているという実感が得られるものです。生きる上で今しなければならないこと,それが壁のように立ちはだかってくるものであっても,その場に立ちすくむのではなく,一歩でも前に進み続けるしかありません。その先にある明るい希望から目を離さなければできるはずです。

【V=バイタリティ】
《説明》バイタリティとは,活力,活気,生命力といった意味合いです。
 自分がどの程度健康かを表す「主観的健康感」が高まるようなこと,良質で十分な睡眠・健康的な食事・適度な運動といったことで,私たちは活力を得て,幸福度が高まっていきます。(このバイタリティの項は,PERMAとは別に新たに追加されているものです。)

※幸せを感じるためには,成長している自分に出会うことがあれば可能になります。自分の成長をもう一人の自分が認めることで,生きている自分を愛おしく受け止めます。昨日から今日へと生きることに忙殺されている中でも,意識的に我に返ると,今の自分が生きるためにしていること,できることができているという日常生活に気付き,明日に向かう自分の姿を思い描くことができます。自分の生きる姿が見えているから,淡々としていられるのです。

○以上,PERMA+Vを,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができていると思います。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。

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 社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
 人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。

(2025年05月25日)