□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ [2004/11/01]            【子 育 て 羅 針 盤】                              (第213号) □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ■徒然子育て想■              『文字は記号?』  ネットの世界では,文字言葉が主流です。言葉は最低限の情報を抽出してい ますが,それが宿命だからです。例えば「食事」。その内容はごまんとありま す。和食,中華,フランス,イタリアとありますね。食事という言葉は,語る 人と聞く人とでそのイメージするものは異なるはずです。先生が子どもたちに, 「朝ご飯を食べてきましたか?」。「は〜い」。でも,その内容はどうなんで しょう? 映像であれば,もっとたくさんのことが伝えられるのは経験済みで す。  話し言葉には,書き言葉である文字情報に口調や音程による付加情報を重ね ることができます。意味の限定がかなりの程度までできます。「大嫌い」。い きなりこんな文字に出くわしたら,どきっとするでしょう。同じ言葉がちょっ とすねた風に口から声として出てくると,甘い意味合いになります。厳しい声 できっぱりと言われると,文字通りの意味になります。言い方で意味はコロッ と変わってしまいます。でも,文字だけだと,そのような意図は消されてしま います。  文字は本来記号です。記号は簡単明瞭であることが真髄であり,余計なもの をそぎ落としています。それだからこそ,数千個の文字であらゆることがそこ そこに表現できています。このメールの文も平仮名と漢字で成り立っています。 「愛」。この一字は,親子の愛,男女の愛,夫婦の愛,隣人愛,人類愛と多様 ですが,愛そのものはどれも同じと了解されています。しかし現実には,愛を 書き出そうとすると,分厚い本でも足りません。  個々の文字が表せることはわずかであり,何か大きなものに貼り付けたラベ ルのようなものと考えておいたほうがいいものです。肉声で伝えている言葉で あっても,そんなつもりで言ったのではないという受け取り方をされることが あります。ましてや文字化された言葉は,虚実の判別が不可能です。どんなに 美文であったとしても,悪意を持って書かれていることもあります。いわゆる 洗脳の手段にもなり得ます。  何かを伝えようとするとき,文字数を少なくすると,相対的に文字にインパ クトを持たせたくなります。強い言葉を使う傾向が出てきます。くだくだ説明 するよりも,ひと言激しい言葉を口走りたくなるのと同じです。メールのよう な限られたスペースでは,伝えたいことを凝集するために強烈な言葉遣いにな り,はき出された言葉が記号として残るために,逆に目に飛び込んできて気持 ちを高ぶらせるという悪循環が起こります。言葉遣いの未熟な子どもが,書き 言葉に片寄ることは危険なのです。 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ★子育て12章★     【お子さんが,黙って口を開かないことはありませんか?】                             (質問17-05) ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  ○独白  子どもたちはパソコンやメールを介してコミュニケーションを取っています。 真意という気持ちを伝えるためには,見る,聞く,感じるという総合的な感性 が働かなければなりません。その条件が整っていないと意味のずれが紛れ込ん でいきますが,そのことを子どもたちはよく分かっていません。ちょっと以前 の若者たちは,意味のずれを直感して,「なんちゃって,・・・とか」という 語尾のぼかしを入れて,ずれをわざと織り込もうという工夫を編み出しました。 それが伝授されていません。  親は子どもの頭上から言葉を押し付けてきます。慣れ親しんでいるテレビは, こちらのペースにはお構いなしに言葉を被せてきますし,気持ちの流れをCF が寸断してくれます。画面中のあっちの会場だけが楽しんで,こっちはモザイ ク画面を見せられて置いてけぼりです。興味関心を持続させることが拒否され て,結果として感動に盛り上がっていく素直なプロセスが崩壊します。言葉に よって共感を得ようという期待は裏切られ,聞かされる言葉は拒否的だと思い 込まされます。  言葉は語る側の独白であるというイメージを持ってしまうと,聞かなくても いいと思うようになります。自分に向けられているように感じられても,テレ ビの音声と同じで無視して構わないと思います。学校の授業では,先生が勝手 にしゃべっているだけと思って,真剣に聞くという態度が現れません。親が口 を酸っぱくしてあれこれしつけの言葉を向けても,聞く気がないので伝わりま せん。返事だけしておけばいいということで終わります。  人の言葉は聞かなくてもいいということであれば,逆に自分の言葉を聞かせ よう,聞いて貰おうという気持ちは出てきません。言葉を自分の中で閉じこめ て,自分だけに聞かせるようになります。自分に対しては自分の都合のいい言 葉だけを向けることができるので,とても気持ちがいいものです。自分が喜ぶ 言葉は分かっているので,気に入った言葉を反芻させていればいいのです。 「あいつなんか死んでしまえ」。そんな呪文が湧いてしまうと,繰り返すこと で自己増殖しかねません。  言葉はもう一人の自分が自分に向けるためだけにあるのではありません。元 々はコミュニケーションの手段です。もう一人の自分が自分と他者をつなぐた めに用いるものです。親愛なる他者である親との分かり合いがあれば,分かり 合うことの喜びを覚えます。ところが,その先にいる他者の存在とつながりが 希薄になっています。親以外は見ず知らずの人,通りがかりの人,単なる係の 人であり,付き合いなどは想定できません。あいさつもしない人たちと,言葉 の喜びなどあるはずもないのです。  ・・・《聞きたい,聞かせたいという気持ちがないと言葉は荒れてきます》 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  ○理解と曲解  対話はお互いに伝え合うことです。その条件を整理しておきましょう。伝え る相手がいて,伝える機会があって,伝える雰囲気があり,伝えたいことがあ り,それを伝えたい気持ちがあって,きちんと伝える手段があるということで す。どれが欠けても,コミュニケーションは成立しません。対話の場合には, 双方の条件が一致する必要があり,一方的であれば対話にはなりません。発し た言葉がちゃんと相手に伝わったかどうかを見極めることが大事です。  子どもとの対話の条件を考えておきましょう。子どもは小さな感動体験や不 思議体験をいっぱいしています。それをママに伝えて分かって欲しいと思いま す。お家に帰ると真っ先に話したいのです。「ママ,あのね」。「な〜に」。 こうして対話が始まります。何気ない風景ですが,ポイントを整理しておきま す。伝えたいことがある,ママに伝えたいと思っている,ママがそこにいる, すぐに伝えたい,ママはちゃんと聞いてくれる,そして伝える言葉を持ってい る,以上のすべてが必要なのです。  ところで,対話ですからお互いに伝え合わなければなりません。子どもの話 を聞かされるママは,何を伝えたらいいのでしょう? 伝えることは,ちゃん と聞いて理解してやるということです。対話は話すことと聞くことのペアで成 り立ちます。聞かせてもらうという気持ちを伝えるのです。人は話を聞いてく れる人を話し上手と思うものです。変な逆説のようですが,営業の分野では周 知のことです。もちろん聞くためには,相づちや質問をして聞く側の作法を守 らなければなりません。  親が伝えたいことを持ち込もうとすると,子どもの話を中途半端に聞いてし まいます。「でもね,・・・」と切り返すからです。親の側が聞く気を閉じて しまうから,子どもは分かってくれたという気持ちにはなれません。さらにひ どいのは,「忙しいから後で,そんなくだらないことはいわないの」とすげな い態度を向けられることです。子どもは大事なことを伝えることも諦めていき ます。話さない子どもにしつけてしまうことになります。  対話が成立しないと,お互いを曲解するようになります。それは相手からの 正確な情報が伝わらないので,勝手な思いこみで補おうとするからです。子ど もの帰りが少し遅れたときなど,あれこれ心配なことが思い浮かびます。「ど うして遅くなったの。いつもさっさと帰るように言ってあるでしょ」。連れだ って帰っていた友だちが転んで泣き出したので,慰めていたことなどを言える 雰囲気ではなくなります。道草を食ういけない子と思われた悔しさが残ります。  ・・・《聞く気持ちを大事にしさえすれば,子どもの育ちを理解できます》 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  《子育てには,子どもをきちんと理解する大切な心掛けがあります》 ※人間は言語によってのみ人間である,とシュタインタールが語っています。 子育ちとはもう一人の子どもが誕生して育つことだとお話ししておきました。 赤ちゃんが母乳で育つように,もう一人の子どもは母語によって育ちます。こ のことが,言語によってのみ人間になるという意味です。いわゆる人間らしさ は,もう一人の自分がちゃんと育つということなのです。そのためには,豊か な言葉をたっぷりと与える授乳ならぬ授語が大事な子育てであると考えて下さ い。  世代が異なると言葉が通じなくなるという現状は,人間としての共通理解が 失われていることです。子どもたちが不可解になってしまったのは,子どもの せいではありません。言葉の環境が貧しくなったために,子どもたちの言葉の 偏食が現れたためです。世間という大人社会で行き交う言葉が,聞いていてう っとりするようなものとは程遠いと思いませんか? 言葉のおしゃれを忘れた ら,心の見栄えはよくないのですが・・・。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ★編集後記★  天の怒りだけではなく地の怒りも降りかかってきました。雨が降ると誰のせ いだと問うことがありますが,天変地異は誰のせいでしょう。誰かのせいにし て気休めを言うことではありません。これもまた自然に親しむことの一環です。 決して皮肉ではなく,あるがままに正面から向き合う勇気が必要なのです。人 は勝手にいいとこ取りをしようとしますが,自然はそんな不公平は許してくれ ません。理不尽な自然ですが,被災された方々の踏ん張りと後に訪れる安らぎ をお祈り致します。  テレビを見ていると,東京のデパートではおせち料理の予約が始まったそう です。どうしてそんなに生き急ぐのかなと思ってしまいます。今から正月気分 を持ち込んだら,秋という季節をパスすることになり,あっという間に今年も 終わりという気分になります。大人は一年が早いと感じますが,それは予約と いう先取りを意識しているためです。子どものように今日を充実していれば, 一年はたっぷりとあるはずです。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ ☆予告☆  次号では,【お子さんから,意味を質問されることがありませんか?】             について考えることにします。どうぞお楽しみに! □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ●タイトル:『子育て羅針盤』 [Kosodaterasinban] ●発行期日:毎週月曜日正午(2000年09月25日より) ●発行責任:モリのクマさん(詳細はHP「徒然窓」〜プロフィールに)   「徒然窓」= http://www5a.biglobe.ne.jp/~mbear    ・・・・・・「掲示板」もご相談などにご利用下さい。・・・・・・ ●記事の一部、もしくは全部の無断転載・無断配布を禁じます。  掲載記事の著作権は筆者に有り、筆者の許可なく複製・再配信等を行う  ことはできません。事前に下記アドレスまでメールのご一報を下さい。 ■《講演》のご依頼は,メールで気軽にお問い合わせ下さい。 ※著者へのメッセージ: mori-bear@mvd.biglobe.ne.jp ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ●配信の協力を頂いている発行支援システム ◆インターネットの本屋さん『まぐまぐ』= http://www.mag2.com/   登録・解除= http://rap.tegami.com/mag2/m/0000046251.htm ◆メルマ***『melma!』= http://www.melma.com/   登録・解除= http://www.melma.com/mag/37/m00019737/ ◆無料メルマガ発行サービス『メルマガ天国』= http://melten.com/   登録・解除= http://melten.com/m/2166.html ◆よりすぐりメルマガサイト『めろんぱん』= http://www.melonpan.net/   登録・解除= http://www.melonpan.net/mag.php?005885 ※解除される方は,登録された配信先の解除手続きをして下さい。 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○